2008-06-02

PMO(プロジェクトマネジメントオフィス)を生かす第41回 オフショア開発では双方にPMOを置く

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オフショア開発では,「ブリッジSE」がオフショア先の進捗管理や課題管理を受け持つことも多いだろう。だが,ここには落とし穴がある。ブリッジ SEはあくまでも「SE」であり,マネジメント上の問題点を見過ごすかもしれないのだ。欧米のプロジェクトでは,発注側とオフショア先の双方にPMOを設 置することが一般的になっている。

高橋信也
マネジメントソリューションズ 代表取締役


 海外への事業展開を目的としたプロジェクトや日本への進出を目的としたプロジェクトなど,現在さまざまなグローバル・プロジェクトがあちらこちらで展開 されています。特に急速に増えているのは,オフショアによるシステム開発プロジェクトでしょう。この6年ほどで,年率150%以上の成長を達成していま す。都内のオフィス・ビルでも,中国人やインド人のエンジニアを見かけることが当たり前のようになってきました。

 オフショア開発では,いわゆる「ブリッジSE」と呼ばれる役割の人が日本側の要件を把握し,オフショア先のSEやプログラマに伝えるケースが一般 的です。オフショア先のエンジニアが,ドキュメントだけを見て要件を把握できることは稀でしょう。大規模システムの保守案件などは,その部類に入るかもし れません。

 また,ブリッジSEがオフショア先の進捗や課題の状況を把握し,国内へ伝えるプロジェクト管理者としての役割も担うことも多いのですが,ここには大きな落とし穴があります。

 ブリッジSEの役割は,オフショア先に要件を正しく伝え,理解させることにあります。あくまでSEであり,プロジェクト全体を見る視点に欠けている場合が多く,プロジェクト管理も適切に行えない場合がほとんどです。

 筆者が中国へ出張した際,オフショア開発会社を5社訪問しました。日本向け事業の責任者とのミーティングでは,皆が口々に「日本側の要件が決まら ないので,しわ寄せが多い」「日本側の頻繁な要件変更に耐えられない」「変更するかどうか分からない要件を,中国側で先走って開発してしまった」という問 題を話していました。ブリッジSEでは,このような課題をうまくマネジメントできないのでしょう。

国内とオフショア先,双方にPMOを設置するのが成功の鍵

 PMOは,プロジェクト全体を“鳥の目”で俯瞰し,マネジメント上の問題を解決していくことが不可欠です。前述の課題について述べると,日本側と オフショア先の間で案件管理プロセスや変更管理プロセスが不十分であり,案件や変更要件の承認がうまく行われていないなら,まずその原因を把握すべきで す。

 おそらく,ブリッジSEは問題があることを知っていたはずです。ただ,プロジェクト全体のマネジメントを向上させるための“鳥の目”を持っていな いため,その原因を把握し,改善のためのアクションにつなげられなかったのだと思います。欧米のプロジェクトでは,発注側とオフショア先の双方にPMOを 設置することが一般的になっています。そういう点は見習うべきなのではないでしょうか。

日本人同士とは違うコミュニケーション

 グローバル・プロジェクトにおいて,いくら管理プロセスを徹底し,頻繁な電話会議やメールのやり取りを行ったとしても,やはり対面での打ち合わせ は必要です。特にプロジェクト・リスクに対する温度差は十分に埋めておくべきです。危機意識の違いからプロジェクトが予想以上に遅れることもしばしばで す。

 日本国内では同じ部屋,同じ会議室で非言語でのコミュニケーションを頻繁に行っているため,危機意識の醸造はしやすいのですが,外国とのやり取り においては,一般に言われているように「論理的なコミュニケーション」が必要です。筆者の経験上,プロジェクトのスケジュールや課題,リスクについては, 嫌と言うほどの説明資料を持って,うんざりするくらい会議を重ねる必要があると考えます。「一を聞いて十を知る」などという甘い期待は捨てましょう。その ギャップを埋めていくために,PMOは活躍すべきです。

グローバルPMOはカルチャー・ギャップも埋める

 オフショアに限らず,国内で外国人と共同でプロジェクトを行う場合も,宗教や生活習慣の違いを十分に考慮すべきです。特にインド人はベジタリアン が多く,食の好みもずいぶん異なります。PMOはプロジェクトの生産性を高めることに貢献すべきですが,外国人に対する気遣いもモチベーションを上げるた めに非常に重要なポイントです。外国へ行って仕事をするというのは,日本人が外国に行ってもそうであるように,さまざまな面で大変な思いをします。PMO に限らず,プロジェクト全体でカルチャー・ギャップを埋めていく気遣いが必要であると思います。


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