■源氏物語や漱石「心に語りかける」
NPO法人「日本朗読文化協会」(東京都港区)が20日から、 東京・銀座の博品館劇場で「朗読の日」の公演を行う。千年紀を迎えた『源氏物語』、夏目漱石や森鴎外などの日本文学を聴衆に語りかける。城所(きどころ) ひとみ理事長(61)は「日本語の乱れが懸念される昨今、朗読を通して美しい日本語を伝えていきたい」と話す。(柳原一哉)
協会は、有志が平成11年に『源氏物語』(瀬戸内寂聴訳)の朗読の公演を実施したのがきっかけとなり、13年に瀬戸内さんを名誉会長に迎え、NPOとして発足した。翌年から6月19日を「朗読の日」と定めて同劇場で朗読公演などを続けてきた。
朗読される題材の大半は『源氏物語』だ。
「いつの御代(みよ)のことでしたか、女御(にょうご)や更衣(こうい)が賑々(にぎにぎ)しくお仕えしておりました帝の後宮に、それほど高貴な家柄のご出身ではないのに、帝に誰よりも愛されて、はなばなしく優遇されていらっしゃる更衣がありました…」
「桐壺(きりつぼ)」の章の冒頭の朗読が始まるや会場はしんと静まりかえる。瀬戸内さんは「1000年も前に書かれた『源氏物語』という文化遺産を日本人自身が知っているといえるでしょうか。この長編恋愛小説の魅力を朗読を通して知ってもらいたい」と話す。
「朗読は作品の感動を聞き手に届けること」と城所さん。読み手は原本を読み込み、作者の意図を正確に把持した上で、適切な抑揚をつけて朗読し、感情表現にも気を配る。
協会の会員が朗読を通じて共感するのは、日本語の美しさ、奥深さだ。「黄昏(たそがれ)」や「夜の帳(とばり)」を「夕方」に置き換えるのは容易だが、微妙な語感は伝わらない。
「聴衆も聞き慣れない言葉かもしれないが、ある文脈の中で使われるとその前後から同じ夕方でもどの程度の夕方かが伝わるもの。そうした奥深さを知ることが朗読の良さ」と城所さんは強調する。
会員は自分の朗読を録音して確かめるなど試行錯誤を繰り返す。「どうすれば聴衆に伝わるのだろうと悩むこともある」と会員の早川とし子さん(65)は率直に明かす朗読の効果について、ILEC言語教育文化研究所常務理事の高橋俊三・元群馬大教授は「朗読は、きちんと日本語を話すということ。原文の読みが確か になり、脳も活性化する」と話す。しかも「大きな発声により、気分が爽快(そうかい)になり、健康になれる」と意外な効果もあるようだ。同会では定期的に講座を開催し、発声法など基礎的な技術や日本語の美しさを伝える活動を行っている。現在、会員は首都圏を中心に北海道から四国まで約 200人で、各地域での活動も盛んになってきている。半面、女性が会員の8割を占め、「これから退職する団塊世代の男性の参加に期待をしている」という。
今後は「緩和ケア病棟で終末期の患者に朗読を提供してみたい」と城所さん。「もう自力で本が読めなくなっている人に、若いころに好きだった本などを読んであげられたら、最後の時を心豊かに過ごせるのではないでしょうか」
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