2008-06-26

オフショア開発第三の地にベトナムが浮上

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2008年06月24日 15時39分 更新

 業務を海外の企業にアウトソーシングするオフショア開発が欧米企業を中心に増えている。代表的な委託先としてインドや中国が挙がる中、第三の地として浮上しているのがベトナムだ。

 ソフトウェアの開発年数は中国では30年に上るが、ベトナムはわずか10年ほど。エンジニアの技術力や数で中国やインドの後塵を拝するベトナムだ が、政治や経済の変化によって投資の回収が困難になるといったカントリーリスクの影響が低いこと、人件費が抑えられることなど、開発拠点として優れた面も 持っている。

 日本ではエンジニアが慢性的に不足しており、優秀な人材の獲得は難しい。特に、製品のテストなど地道な仕事を担当する人材を確保することは、企業にとってハードルが高い。

 そのような背景を基に、自社製品の開発拠点にベトナムのホーチミンを選んだ企業がある。グループウェアの開発を手掛けるサイボウズだ。

 大規模向けグループウェア「ガルーン2」の最新版は、ベトナムにおける開発を通じて完成した。ベトナムでの開発を指揮した佐藤学開発部長は「日本は人材難でエンジニアを獲得できなかった。品質にこだわるエンジニアを有するベトナムを開発拠点に選んだ」と話す。

開発期間は2年、その半分は教育に

 サイボウズはベトナム人のエンジニアの教育に1年を費やした。3カ月の座学では製品の開発に使うPHPなどのWeb技術を教えこみ、残りの期間は製品のサンプルを実際に開発してもらうOJTを採用した。

 「コードはコピーせずに自分で書くこと」「作ったコードを家に持ち帰らない」――教育期間では、開発における基本事項を徹底的に学んでもらった。 日本では前提ともいえるこれらの考えだが、ベトナム人には通用しない。「かつて日本がそうだったように、開発について何も知らない状態」(佐藤氏)だから だ。

 ベトナム人は勤勉で日本人と働きたいという意識が強く、「非常にまじめな国民性」(佐藤氏)だ。だが、開発の現場ではそれが裏目に出ることもあ る。まじめであるがゆえ、間違ったことに耐えられなくなり、「軽く注意をしたくらいでも、ショックを受けて辞めてしまう」という。1年の教育期間を終え、開発が始まった。たっぷりと教育期間を取ってサイボウズの考え方を学んでもらったことが功を奏し、開発は滞りなく進んだ。新 製品の開発に4カ月、テストに5カ月を費やした。試験の期間が製造期間よりも長いのが「サイボウズ独自の開発の特徴」と佐藤氏は胸を張る。

 テストに加え、ガルーン 2に実装する機能の開発も任せた。試験という単調な仕事だけでは飽きがくるからだ。「作っているものが分からなかったり、製品の一部だったりすると、仕事 の全体像が見えなくなり、不満が出る」(佐藤氏)。開発に熱意を向けるエンジニアのモチベーション管理も大きな仕事だ。

 ベトナムで開発に着手してから2年の歳月を経て、ガルーン 2はリリースされた。製品の完成は成功の1つだが、新たな開発拠点ができたことが大きかった。「最初は与えられたものをこなすだけだった現場が、プロジェ クトが進むにつれて、自分たちで何かを開発するという意欲で溢れるようになった」(同氏)

 外注費やテストの費用などを含めて費用は3分の1に下がった。今後は積極的に新製品の開発に取り組み、「ベトナム発の製品も何年後かには出したい」と意気込む。

image ベトナム人による開発で生まれた新機能の「リマインダー」。佐藤氏は「さまざまなアイデアがベトナム人から出てきた。こちらが期待していた以上の仕上がりになった」と満足げ

メンバーの流出防止がオフショア成功の秘訣

 ベトナムでのオフショア開発の成功の秘訣はどこにあったのか。

 佐藤氏は「メンバーが変わっていないこと」を強調する。長期期間のプロジェクトでは人材の流出が頻繁に起こる。だが、サイボウズは同プロジェクトにおいて、メンバーの変更は1人もなかった。

 「サイボウズが面白い製品を作っていると感じたから、彼らは開発を続けたいと言ってくれた」と佐藤氏は振り返る。同社とベトナムのエンジニアのコ ミュニケーションを仲介するブリッジSEは、教育期間の約半分の半年を現地で過ごした。時には現場で、時には飲みの場で、「サイボウズが考える開発」につ いて何度も共有を図ったことが結果となって現れた。

 「中途半端な気持ちじゃ開発者はついてこない。絶対に開発を成功させるという覚悟を持ち、それをエンジニアに伝えないとベトナムでのオフショア開発は成功しない」(佐藤氏)

ベトナムは製品開発の妙手となるか

 「まず中国やインドでのオフショア開発を考えてみてください」

 ベトナム人技術者の派遣サービスを手掛けるアストミルコープの武田雄己彦社長は、オフショア開発の相談にきた企業の多くにこう切り出す。

image 「開発に携わる専門的な人材を積極的に送りこむ企業はオフショア開発に成功している」と武田氏

 武田氏は「1000社を超える開発企業の中で、日本の開発委託先になりうるのは20社程度」と見積もる。国をあげてソフトウェア開発を奨励する制度を打ち出しているベトナムだが、技術力と専門知識を持ち日本語に長けた人材を有する企業は少ない。

 「多くの企業はオフショア開発をすれば生産性が上がると思っているが、文化や言語の違う国の人間をマネジメントするのは思いのほか難しい」(武田氏)

 日本とベトナムの間にあるこれらの溝を埋めるには、サイボウズのようにそれなりの期間とコストを要する。「オフショア開発を行う理由を明確に持た ない企業が少なくない。オフショア開発は新規事業として取り組むくらいの気持ちが必要」。アストミルコープの猪瀬ルアン取締役は安易にベトナムを開発拠点 に選ぼうとする企業に苦言を呈する。

「ベトナム人は日本市場にブランドを感じており、優れた製品を作ってきた日本人から学ぼうとする姿勢が強い」と猪瀬氏

 コストを減らせるという理由だけでベトナムを開発拠点に据えるのも危険だ。「日本と同じレベルの技術が得られるなら人件費はより高くなる」(猪瀬氏)からだ。安価な人件費の裏には、専門的な技術力は即座に得られないという実態がある。

 オフショア開発の委託を単なる外注と考えると成功はさらに遠のく。開発の課題を抽出し、日本での開発手法との間にあるギャップを埋めるために、技術文書の翻訳や作成ができる専門的な人材を自社で育て、積極的に現地に送り出す必要があるという。

 「失敗することを前提と考えておくことが必要だが、まずは先行投資。長い目で見てパートナー企業を育てるつもりで考えるとよい」と武田氏は言う。



 ベトナム人の開発への意欲は高い。ベトナムではエンジニアという職種は花形であるという。「給料は一般の人の3~4倍。若くしてチームリーダーになれるし、ステータスも得られる」(猪瀬氏)

 こうした背景からも分かるとおり、ベトナムを拠点としたオフショア開発はまだ初期段階だ。ベトナムで開発をしようとする企業は、「開発を丸投げする」という意識を捨て、パートナー企業としてともに開発を進める姿勢が必要となってくる。

 オフショア開発の成功には地道な努力を積み重ねることが要求される。近道はなさそうだ。


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