大学と企業がタイアップした取り組みが始まっている。
壁の白い模造紙には「燃料費増」「高級志向」「女性進出」などと小さな紙がたくさん張ってある。埼玉県新座市にある立教大学観光学部で、土曜1限 目に行われている「観光ビジネスプロジェクト」。中国、ベトナム、韓国からの留学生計8人と日本人学生9人が、3グループに分かれて議論を続けていた。
中国人留学生、初延安さん(23)が中心になったグループのテーマは「女性の社会進出が進むと航空業界ではどんな変化が起きるか」。「取り出した情報から何が想定できるか、もっと深掘りして」と経営コンサルタントで兼任教授の那須一貴さん(42)の声が飛ぶ。
2週間前には、日本航空(JAL)の中堅社員から同社の中期経営計画について説明を受け、同社を巡る環境について意見を出し合った。グループごとに、JALの新たなビジネスプランを、1年間かけてまとめ、社員の前で提示する。
学生たちの議論は、この日の授業後も夕方まで続いた。
同学部では昨年度から、シェラトン系ホテルなどの運営会社スターウッド(米国)、JAL、JTBなどと共同で、日本の観光産業で活躍する人材を育 成するプログラムをスタートさせた。日本政府がアジアの懸け橋となる人材を育成するために始めた「アジア人財資金構想」の一環だ。
JALは「エアラインビジネス論」、JTBは「観光情報論」などを提供、社員がそれぞれ1年間、授業を担当している。JALの職場見学なども行われ、現役社員の声を聞く機会もある。
「ここでしっかり勉強すれば、就職につながる道が見えるので力も入る」と中国人留学生、沈和さん(23)。
日本ツーリズム産業団体連合会によると、日本人の海外旅行先と、日本に旅行で来る外国人の出身国はともに7割近くをアジア諸国が占める。日本語が話せ、日本の文化を知っているアジアの人材が日本の観光産業の中で活躍する場はたくさんある。
濱島孝企画部長は「人口減少社会の日本では、海外からの交流人口を増やして活性化させることが重要。このプログラムの卒業生が日本に観光客を呼び込む役割を担ってもらえれば」と期待する。
ただ、留学生の卒業後の採用となると、参加企業の間に温度差も見える。
スターウッドの岩田陽子日本・韓国・グアム地区統括人事部長は「即戦力としてすぐに採用できる人材を」と期待する。一方、JALの河合真吾人財開 発センター長は「魅力ある人材を育てられると思うが、優先採用は今のところ考えていない」。参加企業を増やすことについても、企業側から同業他社の参入に は消極的な声も上がる。
留学生を日本での就職にどう結びつけるのか。その点に、このプログラムの真価が問われることになる。(石田浩之、写真も)
アジア人財資金構想 優秀な留学生を日本に招き、産業界と大学が一体となり、留学生の募集・選抜から専門教 育・日本語教育、就職活動支援までの人材育成プログラムを一貫して行う事業。2007年から始まった。名古屋工業大とトヨタ自動車などで自動車産業、立命 館大と松下電器産業などでIT産業といった20の共同事業が進行中だ。
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