2008-06-20

DTS上海、高田政和氏:オフショアから真のSIerへ

:::引用:::
DTS(上海)軟件技術有限公司・董事総経理:パートナー企業と築いた磐石の体制

   老舗の独立系SIer(システムインテグレーター)、DTSが中国展開を本格化させた。2004年より開始したオフショアの中で、パートナーの中国企業 との信頼関係を構築、高品質のシステムを効率的に構築する体制づくりに腐心してきた。07年10月には、日系メガバンクのシステム構築案件をきっかけに DTS(上海)軟件技術有限公司を設立。今後は、「オフショア」「SI事業」「パッケージ商品の販売」を事業の三本柱に展開していく。DTS上海の高田政 和・董事総経理に、SI業界の動向やDTS上海の設立に至った背景、今後の展開などを伺った。

◆老舗の独立系SIer攻めの経営で生き残り

  DTSは、老舗の独立系SIerとして、日本で独自の地位を築いています。

   電電公社(現NTT)に勤めていた笹貫敏男(DTS特別顧問)が1972年に独立し、11名でスタートしました。現DTS代表取締役社長・赤羽根靖隆は 3代目で、今年創業36年目を迎えます。設立時からシステム開発を手がけ、銀行のオンライン化などに携わりながら、金融機関のシステム対応を陰から支える 裏方的な業務で事業を拡大してきました。その後、信託銀行、生命保険等の金融機関などから信頼を得つつ、コンサルティングから設計、開発、運用、保守に至 るまで、システムのライフサイクルすべてをサポートするSIerとして、現在に至っています。

  SI業界にはメーカー系、通信系、商社系が多い中、DTSは独立系として日本の業界で中位の上の位置を確保し、独立系の中では10傑の中に喰い込んでいると思います。現在、業界ナンバーワンを目指し、事業推進に邁進しているところです。

  近年SI業界では、業界再編による寡占化、オフショア勢力の台頭、人材不足などが趨勢となっています。

   90年代前半、日本ではバブル経済が崩壊し、多くの企業が業務効率化を進めるため、IT投資を活発化させました。SI業界は“失われた10年”に発展し てきたのです。市場の拡大とともに、全国で5000社を超える企業が設立されましたが、約6年前からIT不況となり、業界の売上高は横ばいで推移、ひとつ のパイを奪い合う激しい競争が繰り広げられています。

  現在はこれに、人材不足の深刻化が加わっています。労働集約型産業でもあるSI業界では、技術者確保が何よりの優先事項となっています。オフショア先としての中国企業の台頭には、こうした背景があります。

  厳しい市場環境で、DTSは近年「攻めの経営」を行っています。

  市場拡大が止まった中で、5000社が生き残れるはずがありません。業界は、再編の真っ只中にあります。DTSでは、巨大な企業に飲み込まれるのではなく、飲み込む存在になりたいと、業務の高度化を進め、社員教育に注力、存在感のある企業を目指しています。

   人材不足には、中国へのオフショアの積極化、M&A(企業の合併・買収)による企業規模の拡大と、中国企業を含めた緊密なパートナーづくりの積極化で対 応しています。業界では、今後ますます寡占化、再編が進むことは間違いありません。DTSらしい取り組みで厳しい市場環境で生き残りを図っていきます。

  今年4月から3カ年中期総合計画をスタートさせました。これまで2度にわたる中期計画を策定、実行してきましたが、その成果は大きく、特に前回の3カ年計画では連結売上高600億円の目標を2年で達成しているほどです。

   景気の先行きに不安感が広がる中で、新中期計画では、これまでの開発、運用業務だけでなく、コンサルタント業務など高度な業務に力を入れていく方針を明 確にしました。真の高付加価値企業へ脱皮を果たすため、大胆に動き出したところです。そのアクションの要諦のひとつが、これまで日本国内で開発していたシ ステムを中国に移していく計画です。

◆遅れをとった中国展開の理由 オフショア成功の秘訣とは?

  4年前から中国でオフショアをスタート、一昨年に大連事務所を設け、昨年10月、DTS(上海)軟件技術有限公司を設けました。この中国展開は、競合他社に遅れをとった感もあります。

   確かにDTSはこれまで、中国展開に慎重でした。他社がいち早く中国企業に仕事を発注する姿を見て、焦りに近いものを感じていました。しかし、その多く が赤字を出しているのを目の当たりにして、慎重にならざるを得ませんでした。メリットがなければ、オフショアを展開する意味がありません。先行する企業の 事例を研究する中で、オフショア先の企業の実力を把握せず、仕事を発注していることに問題があると分かってきました。

  04年、オフ ショア案件を携え、私は北京や大連のシステム会社を歩いて回りました。これが、DTSの記念すべき中国委託第一号となりました。この案件を成功させた経験 から、中国の豊かな人的リソースを活用しない手はないと確信した私は、「中国プロジェクト」の企画案を本社に提出し、中国事業のリーダーに就きました。徐 々に中国委託を増やす中、06年4月、海外事業部を設立、11月に大連事務所を設け、事務所長に就任。07年には、中国事業を本格化させるため、 DTS(上海)軟件技術有限公司を設立するに至ったのです。

――大連事務所の所長時代にどんな経験を積まれたのですか。オフショアは「人と人」の関係が重要と説いていますが。

   大連駐在当初は本当にいろいろな経験をしました。いま振り返ると、笑い話のようなことも多いです(笑)。オフショアを成功させる秘訣として、私がたどり 着いた結論は、「相手を尊重し、文化を押し付けないこと」「相手に歩み寄ること」です。発注者だからとか、カネを払う人間が偉いとか、上下関係をつくれ ば、相互理解は進みません。同じ仲間という意識を持つことが基本です。特別のスキルは要らないのです。

  われわれは、パートナーとなる中国企業に入り込み、時には喧嘩をしながら相互理解を図っています。こうした相互理解が、システムの高品質化を実現する絶対条件です。「ともに発展し、成長する」――これが当社のオフショアの基本姿勢です。

   私は、今では中国のSE(システム・エンジニア)が何を考え、何を夢見ているかなど、何でも知っていると自負しています。仕事以外、例えばサッカーを通 じた交流なども行い、信頼関係を築いてきました。パートナー企業のSEの多くが情熱的で、夢に向かって努力しています。彼らから学ぶことは多いです。

   先ほど、「歩み寄りが重要」と申しましたが、これはシステムの品質への歩み寄りではありません。完成したシステムの品質にはもちろん妥協できませんが、 構築の過程で歩み寄ることができる部分がたくさんあります。中国で日本の細かい"流儀"に拘ることはないということです。

◆協業企業との信頼関係強みにトータルソリューションを提供

  DTS上海の設立のきっかけとなったのが、日系メガバンクのシステム構築案件です。SI事業はまず金融機関関連に注力し、その後日系企業から中国企業の顧客開拓に着手していく計画です。

  メガバンクのお客さまには、中国全土に広がった拠点のシステム統合が必要で、グループウェアなどの事務系システムのニーズがあります。日本本社から派遣されたSEが中心となり、お客さまのニーズを把握しつつ、開発に取り掛かっているところです。

   開発体制により磨きをかけるため、パートナーの中国企業8社の教育体制を整備します。Eラーニングなども活用していく予定です。システムの高品質化を至 上命題に、設計とマネージメントをDTS上海が、プログラミングをパートナー企業が請け負い、案件によっては日本本社からSEを派遣する柔軟な体制で展開 していきます。

――「オフショア」「SI事業」「パッケージ商品の販売」がDTS上海の事業の三本柱となります。営業ではどんなパッケージ商品を扱いますか。

   子会社が開発したグループウェア「Bizca」の導入を開始しています。お陰様で多くの引き合いをいただいております。同システムは、SaaS(ネット ワークを通じて顧客のアプリケーションの機能を必要に応じて提供する仕組み)で提供する、ビジネスアプリケーションプラットフォームです。社内での情報共 有やコミュニケーションの活性化、作業の効率化を強力にサポートします。日本語、中国語、英語の三カ国語に対応しています。

  これに続く第2弾のパッケージ商品として検討しているのが、建築物や構造計算、デザインなどが簡単にできる、三次元プレゼンテーションソフトです。中国にも必ずニーズがあるとみています。

――2009年に売上高8億4000万円を目標にしています。どんな戦略で実現しますか。

  当分は日本本社からのオフショア発注を増やしていきます。現在のパートナー企業の品質レベルの底上げを図りながら、新たなパートナーの開拓も行い、高品質のシステムを効率的に構築できる体制に磨きを掛けていきます。

  同時に、SI事業の案件を、金融関係から他業界に拡大、さらにBizcaなどのパッケージ商品の販売強化にも取り組んでいく構えです。

  日本本社のSEも活用しながら、信頼関係を構築したパートナー企業とのコラボレーションを強みに、お客さまに喜ばれる真のトータルソリューションを提供するSIerとして、この中国で羽ばたいていく所存です。


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