2008-06-23

中国の貧困人口はどのくらい?

:::引用:::

昨年12月、世界銀行は購買力平価(PPP)の算定を目的とする「国際比較プログラム(ICP)」のデータを公開。中国のPPPは下方修正され、中国の経済規模が“4割過大評価”されていたことが明らかになった。

データ収集にさまざまな問題があったため、この推計結果は多くの論議を呼んでいる。また、経済規模が6割に縮小するとなると、当然1人当たりGDP も影響を受ける。その場合、「1日当たり1米ドル未満で生活」という国際基準で規定される中国の貧困人口が、以前の推計と比較してどれだけ増えるのか、各 界の関心を呼んでいる。

先ごろ、世界銀行開発研究チームの陳少華氏とマーチン・ラヴァリオン氏が「China is Poorer than we Thought,But No Less Successful in the Fight against Poverty(中国は思っていた以上に貧しいが、貧困との戦いでは成功している)」という研究レポートを発表した。これが疑問を解く一つの回答となるだ ろう。

ICPの中国データは、11の大都市(北京、上海、寧波、青島、広州、厦門、大連、ハルビン、武漢、重慶、西安)から集めたもので、中国内の後進地域は含まれていない。このため、サンプルが実態を代表しているかに疑問の声が上がっている。

昨年、関連データが公表された時、筆者は次の二つの問題点を指摘した。一つ目は、この11都市の統計サンプルのみで中国の物価水準を測った場合、都 市・農村間および地域間の大きな物価格差が覆い隠されてしまうこと。二つ目は、これらの都市のうち7つは東部沿海地域の都市で、中部地域や西部地域が少な く、割合が不適切だということ。特に、北京、上海、広州の物価水準や市民の消費能力は一般都市の水準を表してはおらず、3都市の1つを選ぶだけでも十分す ぎる。

国際学術界でも多くの研究論文が、データ収集や統計整理などに対し疑問を投げかけ、一様に世界銀行のデータに大きな誤差があることを示唆している。

こうした問題点について、開発研究チームの陳少華氏とマーチン・ラヴァリオン氏は、中国国家統計局の責任者に問い合わせた。ICP調査で国際比較す るのに用いた対象商品が、上記11都市には存在するが、他の地区(特に農村部)では見つけるのが難しいため、こうした調査になったとの回答を得た。

また、割合が不適切であることについて、統計局の回答は、異なる加重値を用いて調整しているため、東部、中部、西部三地域のサンプリング結果と全体 とのアンバランスは解決されているという。統計にはこうした客観的難点がつきものであるとはいえ、これと、データに代表性があるかは別の問題だ。

陳少華氏とマーチン・ラヴァリオン氏はデータを再分析して、ICPとは異なる結論に達した。レポートの中で、ICP調査で得られた中国の物価指数は 「決して中国の農村部を反映したものではない」こと、農村部の物価は低いが日常の支出に占める食費の割合が都市部よりも高いため、加重値を調査したとして も「信頼できる結果は得られない」と指摘した。

この二つの結論からも分かるように、ICPの中国データは“都市中国”を表すにすぎず、筆者が数カ月前に持った疑問を裏付けている。

中国の貧困人口の統計問題について、PPPが中国の経済規模を“縮小”させたため、1人当たりGDPの下方修正に伴って貧困人口が大幅に増加するこ とになるという意見もある。たとえば、カーネギー国際平和基金のアルバート・ケイデル氏は「1日当たり1米ドル」の基準で計算すると、中国の貧困人口は3 億人余りで、現在の推計貧困人口7000万〜8000万人の4倍になるとみている。しかし、陳少華氏とマーチン・ラヴァリオン氏は、別の見方をしている。

その理由の一つは、1986年の物価を基準にした「1日当たり1米ドル」が時代に合っておらず、2005年を基準にした「1日当たり1.25米ド ル」を採用すべきだと考えているからだ。もう一つは、中国の統計データには大きな偏りがあり、ICPでの中国のPPPが「中国の生活コストを高く見積もり すぎて」おり、確かに以前の推計よりも貧しくなる可能性はあるが、それと中国の貧困人口の購買力に起きている変化とは無関係であるからだ。

以上のような理由から、この研究では新しいPPPと「1日当たり1.25米ドル」の国際基準を採用して、中国の貧困人口は以前の推計より1億3000万人多い2億400万人と算出した。

この新しい統計方法を用いると、中国の改革開放前期の貧困人口も増えるため、中国の貧困救済の成果も今までより大きくなり、1990年から2004年までの間に貧困から脱け出した中国人の数は従来の2億5000万人から4億700万人へと増える。

しかし、こうした数字の変化も、結局は経済統計の運用ルールが変更された結果にすぎず、実際の生活上の変化とは無関係だ。よしんば貧困人口が以前の推計通り7000万〜8000万だったとしても、ゆうに欧州一国の人口に匹敵する数字である。

中国にとって貧困者救済の道はまだ遠く、さらに大きな努力が求められている。


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