2008-06-17

15大学連携 精鋭獲得狙う

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 質の高い学生を獲得しようと、日本の大学が海外で活動する。

 マレーシアの首都クアラルンプール郊外にあるセランゴール州立セランゴール産業大学の教室。試験管に入れた液体の色の変化を注視していたマレーシ ア人学生、モハマド・ハニフさん(19)は、ノートの表に「白」と漢字で書き留めた。ほかの欄には「赤褐色」「緑」の漢字もある。教壇から日本語で指示す るのは、日本の大学の日本人講師だ。

 「JADプログラム(日本マレーシア高等教育大学連合プログラム)」。寮に住みながら、3年間現地で日本人教員による授業を受けた後、日本の大学の3年に編入し、日本の学位を得る。分野は電気工学と機械工学限定だ。

 「エンジニアになってトヨタで働きたい」というハニフさんは現地で学んで2年目。日本の大学生顔負けの正確な日本語の文章が書ける。午前7時50 分から午後5時までぎっしり詰まった授業で、1年目は1日の半分を日本語の授業に充てたお陰だ。授業では、教員がわざと乱れた文字を板書したり、早口で しゃべったりもする。

 化学、数学、物理など、一般教養的な授業を経て、2、3年目になると、「電気回路理論」「流体工学」など、日本の大学のカリキュラムに基づく科目が並ぶようになる。

 学生は応募者約2000人の中から、マレーシアの全国統一試験での成績、日本人の教授による面接などで選抜された約90人。マレーシア滞在2年目になる芝浦工業大学の水野俊夫教授は「学生の意欲が高いので、授業を詰め込んでも集中力がとぎれない」と驚く。

 日本の大学に入るためのマレーシアでの予備教育のプログラムは、1993年に始まっている。ただ、当初は2年間、日本語などを学び、日本の大学1 年に入学させるものだった。現地で3年、日本で2年という新方式は05年から。これだと、留学費用が安く済み、日本に来てから日本語で苦労する心配もな い。事前に日本の大学の情報も十分に得られる。

 このプログラムを使って、十数年で約600人が日本に留学しているが、今年度、新方式で教育を受けた75人が初めて、日本の15の大学に編入した。6月11日からは、各大学の担当者がマレーシアを訪れ、来年、編入する学生向けに説明会を開いた。

 15校は、06年3月に「日本国際教育大学連合」を設立した早稲田大学、慶応大学など私立12校と、埼玉大学など国立3校。実際には、幹事校の芝浦工業大学と拓殖大学両校だけが、教授3人を含む教員10人をマレーシアに送り込んでいる。

 日本では近年、留学生を巡る事件や不祥事が社会問題化したことや、大学間の国際競争の激化から、各大学が個々に海外事務所を設け、現地で優秀な学生をリクルートし始めている。そうした中、マレーシアでのプログラムは一貫して、日本政府の円借款事業としてマレーシア政府が行ってきた。学生には奨学金が、教員には給与や滞在費が、マレーシア政府から支給されている。

 事業の期限は14年3月まで。もし、その後に同様の仕組みが出来ないと、現地にいる間から授業料を徴収し、大学側も負担をする必要がある。「現在 のアジア諸国の経済水準では、高額な授業料は取れない。参加校を増やして会費をもらうのも限界がある」と「大学連合」の事務局機能を分担しているNPO法 人アジアシードの浜野正啓さん。

 「大学連合」は、マレーシアでのノウハウを生かし、他の国でも、共同で海外拠点を設け、海外の大学と連携したいと考えている。だが、留学生を増やすために、費用がかかることは間違いない。(石田浩之、写真も)

 円借款 発展途上国のインフラ整備などのため、日本政府が国際協力銀行を通じて、低利で長期に貸し付ける制 度。政府開発援助(ODA)の一種で、有償資金協力とも呼ばれる。累計融資額は4兆2703億円のインドネシアが最多で、中国、インドが続く。マレーシア は9171億円で7番目。

現状12万人 首相「30万人」提唱

 「留学生受け入れ10万人計画」が提唱されたのは1983年。提唱者は当時の中曽根首相だ。留学生数は同年の1万428人から、2007年には11万8498人まで増加した。ただ、ここ数年は12万人前後で推移している。

 福田首相は1月の施政方針演説で、「世界の活力を日本の成長のエネルギーとしていく」として「留学生30万人計画」を提唱した。政府の審議会など では、これまでに具体策として、〈1〉国内30大学を政府が重点支援〈2〉留学生の国内就職率(現状は3割)を5割に引き上げ〈3〉日本留学に関する情報 提供や留学生選抜にも活用できる海外拠点の整備――などが提案されている。

 07年5月現在、出身国・地域別留学生数は、中国が7万1277人で全体の約6割を占めている。韓国(1万7274人)、台湾(4686人)、ベ トナム(2582人)と続き、マレーシアは2146人で5位だ。6位タイ(2090人)、7位米国(1805人)となっている。


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