2008-07-25

何をやっても続かないSEを変えた「貢献・評価・満足」

:::引用:::
固く決心して始めたことも、いつのまにか途中であきらめてしまって、継続できない。よくあることかもしれませんね。

 どうせやっても長続きしない。そんな思いが強いと、いつまでたっても新しいことをスタートできません。今回は、あきらめのマイナスパワーを、継続のプラスパワーに変化させる方法を考えてみたいと思います。

何をやっても続かないSE

 出版社の情報システム部にお勤めのSEさんがいます。このSEは、あきらめの気持ちを、うまく継続の気持ちに変えることができました。

  SEは入社して5年、社内の工程管理システムを担当しています。出版社に入ったきっかけは、メディア業界に興味を感じていたこと、Webやブログでの情報 発信の仕組みに興味を持っていたことでした。「でもいまの仕事は、そういう自分の思いと懸け離れている。自分がもうけを出しているわけではないし、評価に もつながらないし、面白い仕事でもない」。そんな理想と現実のギャップに悩んで、SEは樋口研究室に来るようになったのです。

 私は、SEと初めて会ったときに聞いた言葉を覚えています。「あきらめの連続。継続できない自分。何とかならないでしょうか」。これでした。あきらめの連続とは何だろう? 私は尋ねてみました。

  最初にSEから出てきたのは、TOEICのことでした。ITは世界のエンジニアがつくっている世界。だからSEは英語は大切だと思っています。でも、英語 を身に付けようと勉強を始めても、継続できません。通信教育やスクールを利用したこともありますが、修了や卒業の経験がないのです。これまでにかけた費用 は、数十万円にもなるそうです。

 SEは、挫折してあきらめるとき、いつもいい訳を考えるそうです。SEはいいます。

 「英語は重要。でも母語(日本語)の方がもっと重要。みんなうまく日本語使えていないよね……」

  SEは、資格を取るのも苦手でした。過去にテクニカルエンジニア(データベース)の資格に挑戦しましたが、すでに2回失敗しています。たくさんの参考書や 問題集を購入するものの、どれも最後まで読み切ることができないのです。机の上に似たような参考書が増えていくのを見ながら、いつもため息をついていま す。

 資格取得に失敗したときも、SEはこんないい訳を考えたそうです。

 「資格は重要。でも実務の方がもっと重要。実務は理論どおりにいかないよね……」

 仕事以外でも、継続できない経験がありました。1年前からブログを書き始めたそうです。最初は毎日更新していました。でも日がたつうち、更新が1日おきになり、2日おきになり、ついに月に1回程度しか更新しなくなってしまいました。

 SEにとって、ブログの仕組みは面白いのですが、ブログのネタを考えるのは苦しいそうです。このときのSEのいい訳は、以下のようなものでした。

 「趣味(ブログ)に時間をかけるのは重要。でも仕事(会社)に時間をかける方がもっと重要。趣味だけでは食べていけないよね……」

行動を継続するための条件

 継続するには、「頑張る」気持ちや「やりきる」思いが大切。そういうことをよく聞きます。でも気持ちや思いだけでは、行動は継続しません。これから解説する「行動キープ(継続)の3条件」がうまくそろって初めて、行動は継続していきます。

図1 行動キープ(継続)の3条件

 1つ目の条件は、自分の行動が周囲に「貢献」していることです。行動が会社や組織、体制の価値や利益に役立っていると、継続したいという思いが強くなります。

 2つ目の条件は、自分の行動が周囲に良い「評価」をされていることです。第三者の満足度が高い行動は、継続することに価値が出てきます。

 3つ目の条件は、自分の行動に「満足」していることです。行動していて楽しい、気持ちいい。そんな思いは、継続の潤滑油になります。

 これを聞いてSEはいいました。「この3つがそろうと、とても価値のある継続になりそうですね」

 そのとおりです。10年続くニュース番組、30年通い続ける会社、100年の歴史を持つ老舗企業など、すべてこの3つの条件がそろっている結果です。

 でも、いま3つがそろっていないからといって、落胆することはありません。この条件は、時間を経てそろうこともあるからです。

 これを聞いたSEは「え、それはどういうこと?」といいました。私の言葉に、あまりピンとこなかったようです。

 でもしばらくして、SEの身の周りで、この意味が分かるような出来事が起こり始めました。

SE、社内ブログの構築に立候補

  ある日のこと。SEの所属する情報システム部に、社内ブログの構築依頼がありました。会社の情報共有や福利厚生に使うのが目的です。でも情報システム部は ブログ構築の経験がありません。いつもなら協力会社に発注する案件だそうです。SEからこの話を聞いたとき、ひょっとしてこれはいいチャンスになるかも、 そう感じました。

 最近のブログは、日記やプロフィールの公開だけでなく、さまざまな情報(コンテンツ)の管理に使われま す。ブログには高度なプログラミング技法があって、それを使わないと良いコンテンツが作れません。ブログ作成はデザイナーの領域から、プログラマやSEの 領域に広がってきています。

 SEがこの仕事を担当すれば、日ごろ感じている、会社への「貢献」や相手の「評価」、自分の「満足」などに関するギャップが埋められて、キャリアアップにつながるのでは。私はそう思ったのです。

 私は、ダメでもともと、上司にこの仕事を担当したいといってみたら? とSEにアドバイスしました。SEはいいました。「ブログの書き込み経験はありますが、ブログの構築経験はありません。不安です……」

 分かります。初体験は誰でも不安なものです。でもこんなときにパワーを出させるのも私の大切な仕事です。最大限に相談に乗るから大丈夫。そうSEにアドバイスしました。SEはいいます。

 「分かりました。ちょっと上司と相談してみます」

 いってみる価値はあるものですね。上司はSEの提案を受け入れました。でも2つの条件付きでした。1つは、無料ソフトウェアを使い、お金をかけないこと。もう1つは、いまの業務と並行して、ボランティアでやること。

 SEは悩んでいましたが、社内ブログなので最初から完ぺきである必要がないし、クレームがあっても社内で怒られるだけです。TOEICや資格の勉強をするようにやってみたら? 私はそうアドバイスしました。これでSEは決心しました。

 「そうですね。やってみます」

社内ブログの完成、そして次のチャンス

  SEはソフトウェアの選定からスタートして、使い勝手の調査、開発、テストと、毎日少しずつ作業を継続していきました。一番大変だったのは、ソフトウェア が思ったとおりに動かなかったときです。日本語の情報は豊富にありましたが、ここぞという微調整では、英語の情報を読まなければできないことがたくさんあ りました。

 3カ月ほどして、それほど見栄えは良くないのですが、SEは何とか社内ブログを立ち上げることができました。ここまでできた勝因は? 私は尋ねてみました。

 「お金をかけずに完成させたことかなあ。会社に貢献できたような気がします。私の作業にもお金がかかっていませんし」

 笑いながら話すSEを見て、貢献は行動を継続させるのだなあと、あらためて感じました。

  さて、SEの成果は、面白い方向に発展しそうです。先日、同じ会社のコンテンツ部の部長から、社内ブログを見たといって問い合わせがありました。この部署 は、顧客企業の商品やサービスの情報をメディアに載せて情報発信するビジネスをしています。社内ブログのノウハウを、お客さまに提供できないだろうか。そ ういう問い合わせでした。

 私は、これもSEのチャンスと見ました。社内ブログを作った手順を、いつでもプレゼンテーションできるようにまとめておいたらどう? そうアドバイスしました。SEはいいます。

 「チャンスをつかみ続ける。それが、継続には重要なことなのですね」

 そのとおりです。会社がくれるチャンスには、「貢献」「評価」「満足」をつかむきっかけが詰まっています。逃してはいけません。しかしチャンスは素早く通り過ぎるものです。タイミングよくつかむには、敏感なアンテナをいつも張っておくことが重要です。

  継続は重要ですが、その先の目標あってのものです。価値ある目標がない状態で継続を試みても長続きしません。継続するかどうか分からないことに取り組むよ り、行動キープ(継続)の3条件を集めながら行動する方が効率的です。そうすると、あきらめのパワーが、少しずつプラスパワーに方向転換していくと思いま す。

 最後にもう1つ、SEの継続の成果がメールで届きました。「TOEICの結果、600点」。そう書かれていました。英語の情報を読み続けた成果ですね。

 あなたも、行動キープ(継続)の3条件をそろえてみてはいかがですか。


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