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■善意と熱意をつなぐ200万冊
日本財団の姉妹団体、日本科学協会(大島美恵子会長)が中国の大学や研究機関に日本語図書寄贈事業を始めてから10年、贈られた図書はこの7月で200万冊を超えた。
事業は企業や図書館、研究所、さらには新聞社や出版社から善意で提供される図書を同協会が整理し、まとまったリストを基に中国の大学や研究機関が希望図 書を選ぶ仕組み。1999年に1万9000冊を7つの大学に寄贈して以来、現在は24大学1研究機関に拡大、全体の寄贈本数も208万8000冊に達して いる。
スタート当時、中国政府は思想、宗教関係や共産主義を批判する図書を「黒書」として輸入禁止にしていた。この点をどうクリアする かが大きなポイ ントとなったが、最終的に無検閲、輸入税なしの破格の措置を中国教育部が決定してくれた。私たちの中国での幅広い活動実績が評価されたと自負している。
余談になるが当初、事業計画について中国の大学当局に説明した際、「図書の管理は教授が行う」「学生に自由にさせると本が切り取られ体裁がなく なる」と抵抗した教授がいた。学生に自由に利用させると、自分の知らないことを学生が先に知ってしまう、と恐れたのが本音だったようで、偉い人ほど情報を 持つ共産主義社会の一面を垣間見る思いがした。
現在では10万冊を超す日本語図書を持つ大学も8校に上る。図書館の充実が「大学の自助 努力の結果」と認められ、国からの予算が大幅に増えた大 学もある。事業が知られるにつれ、図書の提供者も企業や団体だけでなく個人にも広がった。この春には日本社会党の論客として名をはせ、「爆弾男」の異名を 取った元衆院副議長、故・岡田春夫氏の遺族から、段ボール60箱分約2000冊の蔵書や日中交流関係の貴重な資料が寄贈された。
日本語 を学ぶ中国人学生も事業開始当初の約20万人から48万人に増え、中国358の大学や研究機関が日本語専攻コースを設けている。世界で日 本語を学ぶ学生90万人弱の過半を中国人学生が占める計算だ。時に中国の学生の激しい反日傾向が話題となるが、その一方で日本語を学ぶ学生が着実に増加し ているのも現在の中国の姿だ。
特に旧満州地域に当たる吉林省、遼寧省、黒竜江省は戦前から日本語教育が盛んであったこともあり、日本語 熱が高く、結果的に寄贈図書の6割がこ の3省の大学に集中する結果となっている。文化大革命の折にも日本語で医学教育を行った大学もあり、かつてこの地の医科大学の授業参観をした際も、難しい 日本の医学用語を使って婦人科の授業が行われていた。
20世紀、日中、日韓の間には不幸な歴史があった。21世紀は平和な協力関係が確立されなければならない。中国東北部には地理的にも朝鮮語を話す若者が多い。日本語を加え日、中、韓の3カ国語を自由に操る人材が育てば、平和な環日本海の構築に貢献してくれると思う。
図書寄贈事業は本を提供する日本側の善意と日本語を学ぶ中国学生の熱意をつなぐささやかな民間事業だが、日本語を学ぶ学生にとって単に語学だけ でなく日本の社会や文化を知る大きな手掛かりでもある。一層充実させるためにも、大学、企業、研究機関から個人まで日本国内の提供者の幅広い協力と支援を お願いしたいと思っている。
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