アジア諸国から優秀な技術者のタマゴを日本に呼び寄せる,いわゆる「技術移民」の動きについて,NEブログおよび日経エレクトロニクス2008年6月16号「1万人のアジア人学生が日本の技術者不足を救う」で採り上げた(ご意見,ご批判をいただいた読者の皆様,本当に有難うございました)。
私が長期出張している米国のシリコンバレーでは,技術移民はもはや不可欠の存在である。Microsoft社やGoogle社は「技術移民をもっと増や せ」とばかり,就労ビザの発給枠を広げるよう政府に働きかけている。日本でも今後,技術移民は1万人/年といわず,数万人/年という規模になる可能性は十 分にある。
本ブログでは,前述の二つの記事では深く触れなかった点について,読者の皆様にぜひ意見をお伺いしたい。どのような方法で技術移民の人数を増やすか,その受け入れモデルの是非についてである。
取材の中で,受け入れモデルとして二つの選択肢が浮上した。一つは「留学生モデル」。アジア各地から,日本の大学または専門学校への留学を希望する学生を大規模に募る。留学生には数年をかけて専門技術を教え込むとともに,日本語や日本文化への理解を深めてもらう。
この留学生モデルの拡大を提唱するのが,外国人政策研究所 所長の坂中英徳氏である。日本での定住を望む外国人を増やすには,学生の段階から日本で生活してもらうのが一番と説く。
留学生モデルの推進に必要となる教育費については,国のほか企業にも負担を求める考えだ。「留学生招聘の最大の受益者は企業。『外国人人材育成費』として負担してほしい」(同氏)。
もう一つの受け入れモデルは,「選抜派遣モデル」とでも言おうか。技術者派遣を手掛ける業者が,海外で学生を募集,選抜し,日本企業に派遣するモデルである。最終的には,外国人技術者を派遣先の企業に正規雇用してもらうことも想定する。
このモデルの特徴は,日本人のメンタリティ(心的傾向)に合致する人材を,長い時間をかけて現地で選抜する点にある。現地の大学または専門学校で 日本語および技術を学ばせると共に,研修期間を通じて学生の心的傾向を見極める。実際に日本に行けるのは,日本の企業文化への適応度が高いと見込まれた学 生だけになる。
一部の大企業を例外として,海外に拠点を置き,学生の研修から選抜まで自ら手掛けることができる企業は多くない。派遣業者は,仲介役としてアジアの学生と日本企業をマッチングする役割を果たすことになる。
さて,この受け入れモデルの話,技術移民を雇用する企業から見れば「優秀な技術者が雇えるなら,どちらでも・・・」と言われそうではある。私があえてこの 話を採り上げたのは,技術移民が本当に戦力として日本企業に定着するかは,受け入れモデルによって大きく変わる可能性があるためだ。
留学生モデルを提唱者する坂中氏は,派遣業者を介在させる「選抜派遣モデル」は断固反対という立場である。「派遣業者が介在すると,待遇,福利厚 生,地元社会との調和といった問題への対処が,直接雇用する場合と比べてどうしても甘くなる」(同氏)というのがその理由だ。もし技術移民の待遇が悪化す れば,当然ながらアジア諸国の技術者のタマゴは,日本を見限ることになるだろう。
これに対し,選抜派遣モデルを推進する技術派遣業大手のメイテック 取締役 グローバル事業グループCEOの福田完次氏は,留学生の活用について「留学生は職場への適合率が低く,退職リスクが高いという実態がある」と否定的な見方 を示す。「日本語は後からでも教えられるが,メンタリティは簡単には変えられない」(同氏)。特に,チーム・プレーを重視する,チーム内で互いに技術を教 え合うという日本人のメンタリティは,一朝一夕で身につくものではなく,また数度の面接で測れるものでもないという。
留学生モデルと選抜派遣モデル,いずれも既に,日本の技術移民の受け入れモデルとして機能し始めている。当面は,両モデルが並存することになる か,あるいはまったく別の受け入れモデルが現われるか,ということになるだろう。技術移民をめぐる日本の製造業の選択は,「移民1000万人受け入れ構 想」をはじめ議論が絶えない日本の移民政策にも大きな影響を与えそうだ。
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