今までの連載を通じて、「人脈が力になる」ことは何度も述べてきた。筆者の例で言えば、ビジネスで分からないことがある時には、「ツテ」をたどれば 専門家がいたり、どこかの会社から人を紹介してくれる。プライベートでも、テーマパークや人気バンドのライブのチケット、レストランの利用などの特典を利 用させてもらってきた。
今回は、このような直接の利害関係がないケースで、人脈がどのような効力を果たしたのか、いくつかのエピソードを紹介しよう。
あるゼネコンの部長職のAさんが、筆者のところに相談を持ちかけてきた。「大口のコンペに出すために、遊休地利用のプレゼンプランを作りたいのだが、協力してくれそうな人はいないか」と言うのだ。高いソフト価値を付けたプレゼンを行い、コンペを勝ち抜きたいのだという。
人と人の仲を取り持つことによるメリット
そこで、筆者はあるシンクタンクの部長職のBさんを引き合わせることにした。彼なら、Aさんのニーズを満たすスキルを持った格好の人材だと思った からだ。仲を取り持ってみたところ、首尾良く話はまとまり、2社共同のプロジェクトが立ち上がった。筆者も外部アドバイザーとして、プロジェクトに関与す ることになった。
高いスキルを持った外部の協力を得られたことが奏功したのか、A部長の念願通り、コンペを勝ち抜いて数十億円相当の仕事を得ることができた。
それが縁で定期的に会合を持つようになり、3人の私的な“交流会”が始まった。プロジェクトが終わった後でも交流は続き、何かあれば相談を持ちかけたり、お互いに人を紹介し合うような間柄になった。
ある時は、断続的だが20年来のつき合いがあるCさんが職を失ってしまい、筆者を頼ってきてくれた。彼は、一旗揚げようと新会社を友人と設立した ものの、失敗したり勤めていた会社が傾いてしまうなど紆余曲折があり、既に5回も転職を重ねていた。長いつき合いで、Cさんの人柄や能力もよく知ってい る。そのままどこかに埋もれさせてしまうのはもったいないと思った。
ちょうど10年ほど前から中高年の転職斡旋をする人材紹介事業の調査に関わっていたので、彼から履歴書を預かったうえで、縁のある数社の担当者に 相談してみた。すると、そのうちの1社がCさんが持つ専門スキルに興味を示し、彼を転職させるために動いてくれた。筆者と人材紹介会社とのパイプも強化さ れ、調査もさらにやりやすくなった。
こうした「ツテ」は、自分の抱える人脈から生まれる。お互いの信頼関係で結びついた人脈になっていたからこそ新しい縁が生まれ、新しい仕事に結びついたのだ。
筆者は、ビジネスパーソンとして目指すべき理想は、複数のネットワークを繋ぐ中継役、すなわち「ハブ」の役割ができるようになることだと思っている。
その際に重要なのは、繋いだ相手同士が“Win-Win”の関係になれるように計らうことだ。仲介に、見返りなどを求める必要はない。実質的なメ リットはなくても、長い目で見れば、自分自身に返ってくるものがあるのが人生だ。先日も、友人のベンチャー企業の社長から依頼され、同窓生だった大手商社 の役員を紹介したが、見返りは考えなかった。 頼み事をしてくる相手は、「この人に頼めば解決できるかもしれない」「この人が紹介してくれた人ならハズレはないだろう」という期待感を持ってい る。その期待に応えられれば、どちらの相手からも信頼され、「失いたくない」と思わせる存在になれる。自分が助けを求める立場になった時も、協力してもら いやすくなる。
自分と人のネットワークを繋いで広げる
さらに、繋いだネットワークに連なる人が、新たに自分の人脈になる可能性もある。
例えば、知り合いからの紹介で、講師として大学の研究会に参加する。するとその会に参加していた研究者とのつながりができる。その縁で、また別の 会に呼ばれることなどは、日常的にある。人のつながりは、連鎖する。人が人を呼び、輪がつながっていく。自足力がつけば、自分から新たに求めなくても、人 も情報も勝手に集まってくるようになる。筆者は、そうして2000人もの人脈を得ることができた。
人捜しは「ツテを頼る」ことが多い。自分で探すよりも、時間セービングが図れるからだ。その結果、人脈が広い人ほど、より多くの声がかかるようになる。「ハブ」として人的ネットワークを繋ぐほどに、自分のチャンスも広がっていくのだ。
とはいえ、最初から大きな人脈を築くことは難しい。その場合は、人脈が豊富で既に「ハブ」の役割を果たしている人の懐に入り込むことだ。連絡係や会計などの雑務を手伝うなどして、近しい立場になるといい。そこで、良質な人脈形成のノウハウを学ぶことができる。
人から多くの信頼を寄せられる「ハブ」役の人には、多くの人が集まってくる。「ハブ」は「ハブ」と結びつくからだ。やがて「ハブ」役の代理ができるようになれば、いつの間にか自分が「ハブ」となっていることに気づくだろう。
人脈を維持する1つの秘訣は、自然に任せて無理をしないことだ。人づき合いが楽しいと思えないなら、頑張りすぎない方がいい。一方的に利益を得よ うとするような疲れる相手とのつき合いは避け、自然淘汰されるに任せればいい。人脈づくりは、息切れするようでは長くは続けていられない。
知り合いが増えてくれば、頻繁に顔を合わせる人と、年に数度しか交流のない人など、つき合い方に偏りが出てくることもある。それも自然体で割り切ることだ。義理や引け目を感じて、個人的に一人ひとりフォローしようとすれば、破綻するだろう。
しかし、多くの人をフォローしたい時の解決策もある。筆者は、一度に複数の人にまとめて会える例会を企画することにしている。定期的に会える機会をつくっておけば、今回会えなくても、次回会えると思うことができる。それさえこなしておけば、縁が途切れることはない。
食事や施設などと違って、人は人に飽きることはない。何人会っても、会う度に新しい刺激があり、新しい視点に気づく。そんな人づき合いの「面白み」を体得すると、人付き合いも病みつきになり、負担とは感じなくなるものだ。
次回は、「信頼を回復するための行動」について述べる。
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