私はTBS系の衛星放送・BSiで「グローバル・ナビ」(毎週土曜日午前8時半~9時半、翌日曜日午後10時から再放送)という番組のキャスターを 行なっている。“ミスター円”と呼ばれたかつての大蔵省財務官・榊原英資氏(現早稲田大学教授)と共に企業の社長をゲストに呼んで経済やビジネス問題を テーマにしている。現代の国際、日本経済や日本企業を分析し、将来を占う番組だ。BS放送が開始された2000年12月にスタートしているので、ゲストと して出演した日本の大企業、中小企業の社長や街おこしの成功者、起業家、海外の政治家、エコノミストは300人を越える数となった。
最近、登場する企業の特色は何といっても“環境”である。企業の環境イメージを高めないと製品の販売や人材確保のうえで遅れをとるし、環境規制が きびしくなるとコストもかかるようになるからだ。特にここ1年で石油などの資源価格が急騰してきたため、省エネ化は至上命題になってきた。
先日登場した富士ゼロックスの山本忠人社長の話が面白かった。ゼロックスは1962年に国内初の普通紙の複写機メーカーとしてスタート、オフィス の効率化、合理化を担ってきた企業だ。まず第一段階は、それまでの手書きガリ版印刷や湿式の“青焼き”で処理していた書類処理を現在の乾式コピー(普通紙 の複写)によってできるようにしたため、たちまちオフィス革命の中心的存在となったのだ。コピー機導入で書類をガリ版書きして謄写版で一枚一枚ローラー印 刷する手間が省けたし、湿式青焼きの読みにくく汚い書類からも解放されることになった。第2段は複写機とファックスの複合化。これによって2台の機械を一 台にまとめられることとなり機械の設置スペースが節約されて合理化に役立つ。92年にカラー化、90年代後半にはコンピューターと連携したネットワーク 化・デジタル化へとつながってゆく。まさに技術革新の進展により紙と電子の融合へと進んで、オフィスの事後処理は省力化、能率化、スピード化が実現されて いったわけだ。この間に複写機はより小型化し、コピーとFAXのスピードアップ、容量の増大などでオフィス革命を進めていったといえる。ここまではオフィ スと事務処理の効率化、大量情報のコピーとその普及に伴う情報の民主化、コミュニケーション化が主要な課題だったといえよう。
しかしここ1~2年はどの企業も“エコ”がテーマとなっている。IT化は効率や情報読み取り、送受信などに大きな役割をはたすものの、環境に負荷 をかけるケースもあり得る。複雑な機械となり、精密化や小型化、ナノテクノロジーなどを要求されると、機械寿命を終えた後の廃棄物処理が難しくなることも ある。このためゼロックスでは環境の基本テーマとして「リユース(再使用)」「リサイクル(回収、再資源化)」「リデュース(減少)」の“3R”を掲げ た。
◇コピー機回収98%、リユース68%、再資源化32%
ゼロックスの複写機はリースと売り切りの二通りで市場に出されているが、年間約10万台を回収、その回収率は98%。回収された機械は分解して、 リユースとリソースの部品に仕分ける。この比率はリユース部品が68%で、残りの32%は再資源工場に送られてそれぞれの資源に再生される。コピー機は 3000点以上の部品で作られているが、再資源のためには、鉄やアルミ、銅、ガラスなど44種類に分類し元の原料に戻すという。
厄介なのはリユースの方だったという。部品を再使用するといっても、中古品をそのまま使用するわけではない。部品の摩耗具合、品質の状態、使用頻 度、通電時間の履歴などを分解したり、超音波で検査したり、ドライアイスによる洗浄などを行なってリユース部品の品質、機能性、外観などをデータによって すべて検証し、科学的にみて新品と全く同等と判断されたものだけが再使用されることになる。このリユースの試行は1995年からスタートし、最初はコスト 増となったが、2003年に黒字化した。この間に設計段階からリユースを考慮し長寿命化設計を行なうようにしたほか、再使用が可能な部品だけを取り出せる 分離設計、ダメージに強い耐摩耗設計、多くの機種に使えるようにした共通化設計、分解しやすいようにした分解設計--なども工夫してきたためだ。
この結果、すべて新品の部品を使って複写機を製造した場合のCO2排出量は28トン(年間)だったが、リユース部品を使うと18トン抑えられると している。これは新品部品を作るのに必要な材料、エネルギーや部品メーカーから工場へもってくる物流の排ガスなど様々な場面で節約されるためだ。またオ フィスのコストは複合機化、待機電力の省エネ化などで1台当たり消費電力を44%減、さらに情報の電子管理、送受信が必要なFAX書類の電子画面チェック 等々により、ゼロックス本社では出力電力量で月15万キロワット、紙は70万枚・3.5トンを節約できたという。こうして、いまやエコはコスト削減、黒字 化にも役立つようになった。とくにここ1年の資源高でその効果はさらに増幅されたという。山本社長は「エコがエコノミーになった」と述べている。
◇環境ビジネスは伸びる一方
産業分類の中にまだ「環境ビジネス」という項目が見当らない。しかし、いまあらゆる産業がCO2の削減をめざした技術開発を行なっている。当初は 自社のエコ対策として開発していた技術が、いつのまにかビジネスとして成り立ち環境ビジネスとして立ち上がった分野も多い。環境省によれば、すでにその事 業アイテムは900を越えて参入事業社数は4000社を数えるとしている。多くは1960~70年代の省エネ、公害技術から発展したものだ。
たとえばエネルギー関連では太陽光、風力、バイオ燃料、地中熱利用、省エネ技術、エネルギー貯蔵などがあり、廃棄物分野では食品をはじめ自動車、 家電、プラスチックなど各産業分野でリサイクルや有効利用などの方法が開発されている。このほかアスベスト、自動車排ガス、水質浄化、土壌浄化などの汚染 浄化ビジネス、炭素繊維や発光ダイオード、バイオプラスチックなどのエコマテリアル、さらに環境アセスメント、環境関連の測定・分析機器、森林保全、自然 再生型公共事業など次々と分野が広がっているのが実情だ。
そればかりでない。京都議定書で定められたCO2削減の目標数値を達成するために政府はさまざまな補助金、税制優遇措置を実施し始めたし、中国政 府も日本の省エネ、環境技術の導入などを念頭に環境予算を急増させ今後5年間で中国が注文する省エネ施設だけでも30兆円としている。
こうした環境市場ビジネス市場について、環境省は1997年に24兆7400億円、雇用規模69万5100人、だったが、2000年には29兆9400億円、76万8500人に増えたと計算している。
そして2010年の予測は47兆2200億円(2002年度調査。2000年調査では40兆900億円だった)、111万9300人。2020年は58兆3700億円、123万6400人(いずれも2002年調査)と推測している。
これをみると2000年から10年間で18兆円増、2010年から10年間で11兆円増となっている。しかし、2010年の47兆円予測 (2002年度調査)も、2000年調査では40兆円だった。たった2年間で7兆円も上積みされているのだ。それを考えると2020年は70兆円に到達し 得るだろう。
さらに経済産業省では「アジア経済・環境共同体構想」を発表(2008年5月)しているが、それによるとASEAN、中国、インド、オーストラリ ア、日本、韓国などの環境ビジネスは2008年春の64兆円から2030年には300兆円と約5倍に拡大するという。これは年平均で12兆円増大という野 心的な数字で、半分を日本が担うとすれば6兆円となる。
このほか同構想では年収3000ドル以上の域内の中産階級は2030年までに現在の4.5億人から23億人に増え国内総生産は10兆ドルから数倍 へ。また途上国では一人当たりGDPが2000ドルを超えると大気・水質汚染の公害関連、1万5000ドルを超えるとリサイクル、省エネ、新エネルギーが 増えるという。もはや省エネ、環境は企業のコスト増というよりその技術を有する企業にとっては、稼ぎ頭になるということだ。環境サマサマの時代になるかも しれない。[TSR情報6月30日号(同日発刊)]
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