東南アジアで、ごみを分別し、ごみ減量と資源の有効活用を狙う「3R」に取り組む国が増えてきた。背景には都市化で廃棄物の量が増え続ける一方、最終処分場が不足してきた事情がある。代表的なケースとして、ベトナムの首都・ハノイ市が3Rに挑む様子を探った。【江口一】
◆回収箱を色分け
午後6時半。市の中心部に位置するファン・チュー・チン地区の住民たちが、街角に置かれたプラスチック製の回収箱にごみ出しにやってきた。箱の色によって出すごみは違い、青はビン、カンなどリサイクルできる資源物、緑が生ごみ、オレンジはその他のごみだ。
「慣れました。分別は面倒くさくないし、間違えません」。手際よくごみを捨てた女性住民は話す。
ハノイ市では同地区を含めて2地区で、昨夏からごみの分別排出・収集が試験的に始まった。ごみ出しの時間は、午後8時までの約1時間半だ。以前 は、自宅前などに無造作に捨てられたごみを、市都市環境公社に委託された作業員が深夜までかかって手押しの台車に集めていた。全市で約4000人の作業員 の多くは女性だ。現在、同地区ではほかの地域とは違い、回収箱以外の路上にごみは見あたらない。
ハノイ市では04年に約300万人の人口が20年には約450万人まで増加すると予想され、経済成長などの要因も加わり、1日当たりのごみ収集量 は03年の1600トンから約3倍になる見通しだ。このままでは唯一の最終処分場が16年には満杯になり、地下水の汚染など衛生問題も悪化する。
そこで日本の国際協力機構(JICA)の支援で同市は06年から「3Rプロジェクト」を始めた。ごみの分別や住民への環境教育、生ごみの堆肥(たいひ)化など、幅広い事業に取り組む。分別排出・収集は先行する2地区に加え、今年度は別の2地区でも実施する。
現在、対象地区の人口は全市の約1%に過ぎないが、プロジェクトを担当する同公社関連会社の社長、ファム・バンドックさんは「3Rはハノイの発展のために欠かせない」と語る。
◆もったいないフェア
「この空き缶は、どのごみ箱に捨てたらいいですか」。市中心部のフン・トゥオン小学校で始業前に開かれた学習会で、地元大学生の「3Rボランティアクラブ」リーダー、グエン・ティガーさん(21)が生徒たちに問いかける。「こっちの箱!」。元気な声が校庭にこだました。
5年生のグエン・ミン・アンさん(11)は「ちゃんとごみを分けて出せるよ」と胸を張った。
同クラブの活動も3Rプロジェクトの一環だが、最近では行政の依頼の他にも、子供たちを相手に自主的な学習会を実施するようになった。ティガーさんは「子供たちに環境を守る重要性を教えることで、ハノイの人々の習慣を変えていきたい」という。
ごみ分別を定着させるには、住民への広報、啓発活動が重要だ。市は対象地域で50回以上の住民説明会を実施、地域の中で3Rについて話し合う「3Rサポーターズ」という組織も作った。
子供たちへの環境教育のほか、「エコバッグ」持参キャンペーンをしたり、3Rの宣伝ソングを作ってCMで流す試みも行った。今年3月には、初めて「MOTTAINAI Fair(もったいないフェア)」を実施、ごみ分別や資源の大切さを訴えたという。
バンドックさんによると、「もったいない」は3Rプロジェクトの重要な概念の一つで、日本での取り組みについても学んだ。「日本人と同様、ベトナム人も物を大切にする国民です。時間はかかるかもしれませんが、社会に浸透していくと思います」と話す。
ベトナムでは、ハノイのほかホーチミン市でも3Rに関心を寄せているという。国全体では、20年までに家庭から出るごみのリサイクル率を現在の20%から30%に引き上げる国家目標を掲げている。
◆日本も積極的に支援
日本は04年の米シーアイランド・サミットで、小泉純一郎首相(当時)が国際社会と共に、廃棄物の抑制と資源の有効活用に取り組む「3Rイニシア チブ」の開始を宣言した。05年には「ごみゼロ国際化行動計画」を策定、開発途上国のごみ削減への支援をうたった。特にアジアへの技術提供や制度構築への 支援に力を入れているという。
環境省によると、ベトナムの他、フィリピン、タイなどアジア9カ国で、3Rの支援や政策対話を行っている。また12年までに、東アジア全体の3Rなどの体制を示す「東アジアビジョン」を作成する予定だ。
同省廃棄物・リサイクル対策部企画課は「ベトナムの試みをモデルケースとして、アジア全体に3Rを広げたい」と話している。
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