2008-06-17

東アジア新潮流 中国軍事専門家・平松茂雄

:::引用:::

 ■尖閣海域の「異変」を注視せよ

 2001年4月1日、中国の海南島東南海域上空で、米軍の偵察機と 中国軍の戦闘機が接触し、戦闘機が墜落してパイロットが死亡する事故が起きた。この事故について、どのような経緯で衝突が起きたのかに関心が集まり、戦闘 機の挑発的な行動に問題があり、公海上空を飛行していたのだから、偵察機に落ち度はないとの見方が、米国ばかりか、わが国の報道や専門家の間でも大勢を占 めた。

 当時筆者は公海上空を飛んでいた米軍の偵察機に落ち度はないが、事故が起きた空域と海域の軍事的重要性から、起こるべくして起きた出来事であり、中国軍戦闘機の責任を非難して片付く問題ではないとの見方をした。

  ではその軍事的重要性とは何か。海南島は南シナ海西北に位置し、中国の海軍基地と空軍基地があり、島の東南に位置する西沙諸島にも海空軍基地がある。西沙 諸島の東から南にかけての南シナ海海域には、バシー海峡とマラッカ海峡を結ぶシーレーンが通っており、また海南島から東に進めば、バシー海峡を通って西太 平洋に出る。

 南シナ海と西太平洋をにらむ中国にとって、海南島と西沙諸島は戦略的に重要なカナメの位置にあり、その周辺海域は中国軍の 「聖域」である。接触事故はその「聖域」で起きた。米軍機の偵察とそれを阻止する中国軍戦闘機の緊急発進が日常的に実施されているが、この時期に、海南島 周辺海域で、特別に偵察する必要のある事態が進行していたのか、それとも中国軍側に米軍偵察機に「挑発的」な行動をとらせるような事態があったのか。

 ≪露見した海南島の秘密基地≫

 局外者には分かる術(すべ)もないが、当時筆者は米軍偵察機の目的は、海南島周辺海域における中国海軍潜水艦、とくに原子力潜水艦の活動、潜水艦発射ミサイルなどの訓練、あるいはその活動の拠点となっている海南島その他の軍事基地の偵察だろうと推定した。

  それから数年を経て、ごく最近、欧米で海南島の海軍基地の実態ににわかに関心が高まっている。なかでも原子力潜水艦が潜水したまま出港し帰港できる巨大な 地下基地が建設されたことに注目が集まっている。本紙でも報じられたから、読者のなかにはその写真を見た者もいるだろう。

 建国以来60年 間、中国が最も重点を注いできた軍事領域は、核弾頭とそれを搭載して米国に到達する信頼性の高い弾道ミサイルの開発であった。数年前の2回の有人宇宙船打 ち上げは、中国がワシントンやニューヨークに到達する精度の高い弾道ミサイルの完成に近づいていることを明示した。中国が台湾を「軍事統一」する際、米国 が軍事介入すれば、ワシントンやニューヨークを核攻撃すると威嚇して米国の介入を阻止するのが目的である。

 だが米国を確実に威嚇するに は、核弾頭を搭載した原子力潜水艦を太平洋に展開することだ。中国軍は原子力潜水艦と水中発射弾道ミサイルの開発に必死で、ごく最近も四川大地震の対処に 追われている最中にもミサイル発射実験が実施された。完成すれば、原子力潜水艦は南シナ海に常時展開して、わが国のシーレーンを脅かすばかりか、海南島か らバシー海峡を通って太平洋に進出することになる。

 ≪重要な台湾の位置と役割≫

 このように論じてくるならば、台湾が極めて重要な位置にあることが分かる。だがその台湾との間には、わが国の領土である尖閣諸島の「領有権」に関して、これまでに何回もトラブルが起きている。

  ごく最近も、今月10日、尖閣諸島領海に侵入した台湾の漁船が、海上保安庁の巡視船と接触して転覆沈没する事故が起きた。台湾は巡視船数隻を派遣し、外務 省ばかりか馬英九新総統が「台湾の領土である」ことを主張し、行政院長(首相)にいたっては、「開戦の可能性を排除しない」と強硬な姿勢を示した。

 台湾は尖閣諸島ばかりでなく、東シナ海の排他的経済水域・大陸棚に対しても権利を主張しており、04年中国による春暁ガス田の開発が着手されたとき、巡視船を派遣したことがある。

 わが国と台湾の間には、緊密な友好協力関係が成り立っているが、尖閣諸島・東シナ海の排他的経済水域・大陸棚に関しては妥協する余地がないばかりか、この問題では、台湾と中国は立場と利益が一致していて、共同歩調を取る可能性がある。

 どこの国でも、領土や資源の問題は民族感情を刺激する。台湾も例外でない。わが国はそのことを十分認識して、これからの東アジア情勢に対処する必要がある。
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