2008-06-09

ニッポン密着:中国人実習生の賃金ピンハネ、組合理事長は「元首相の甥」

:::引用:::
外国人研修・技能実習制度で中国人を受け入れている「日中経済産業協同組合」(東京都渋谷区)と小渕成康(まさやす)理事長(41)らが、実習生の 賃金を中間搾取した労働基準法違反容疑で書類送検された。群馬、栃木、茨城の3県で約100人が1億円もの被害を受けたとみられる。背景を追うと、故小渕 恵三元首相の甥(おい)である小渕理事長の知名度で事業が拡大し、組合の「私物化」への批判も起きていた。

 東京・JR神田駅近くの貸会議室で5月31日、組合の定期総会が開かれた。1カ月前の書類送検を受けて小渕理事長の進退が注目されたが、小渕理事長は「定数が足りない」と流会にし、会場を後にした。

 先立って行われた理事会は険悪なムードに包まれたという。理事の一人が「8000万円の貸付金がまだ戻っていない」と融資問題を追及すると、小渕理事長は「私が責任を持って返します」と答えた。

 組合は06年、組合員に融資ができるよう定款を変更。小渕理事長は、自らが役員を務める複数の会社などに組合名義で多額の融資を行っていた。しかし総会は流会。組合員の一人は憤った。「組合の私物化だ。告発を恐れて理事長に居座ろうとしている」

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 組合は98年、縫製業者だった辻真市氏(75)=東京都調布市=によって設立された。父親は中国で戦死。遺骨は今も現地に眠っていることから「日中の友好に役立ちたい」との思いもあった。

 設立当時、日本経済は「失われた10年」のただ中。「最低賃金」で労働力を確保できる制度の需要は拡大した。00年、妻との死別などを契機に後継者探しを始めた時、組合員から紹介されたのが小渕現理事長。当時、元首相の兄にあたる父が経営する会社の役員だった。

 辻氏によると、理事長就任を打診した場所は群馬県高崎市。案内された事務所には、初当選したばかりの小渕優子衆院議員のポスターと元首相の遺影が 飾られていた。組合の理事らは「指導力、政治力があるはず」と期待し、元首相が亡くなった半年後の00年秋、2代目理事長とした。

 「元首相の甥っ子が代表を務める組合」と名をはせた。組合員も受け入れ研修生も急増。東北地方の縫製業者は「小渕さんの組合だから安心できる」と誘われ入会したと明かす。研修生も800人前後に達したこともある。

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 組合の07年度事業計画によると、収益の柱は計145社の組合員からの組合管理費。約1億7500万円の収入が予定されていたがその裏側で実習生の賃金のピンハネが行われていた。

 捜査当局によると、方法は企業から振り込まれた賃金を勝手に引き出すもので04年ごろ始まった。月12万円の賃金を5万円しか渡さずうち3万円は 「逃亡防止」のため強制的に貯金させたケースもあり、生活費は約2万円しか残らない計算。通帳や印鑑を組合が管理することで可能になった。

 捜査幹部は「搾取は小渕理事長ら一部しか知らず、帳簿に残らない金がかなりあった」と指摘。経費や借入金の返済に充てられたとみられるが、全体像は捜査中だ。

 小渕理事長は、毎日新聞の取材に対し組合を通じて「地検から事情聴取を受け、資料などが押収されている。取材は控えさせていただきたい」と回答した。

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 組合の総会が流会になった日、中国人実習生の女性(31)が成田空港から帰国した。

 東京都内市部のスーツ製造工場に3年間在籍し、繁忙期には朝6時から翌午前3時まで働くこともあった。夜9時半ごろまで工場でミシンをかけ未明まで蛍光灯1本の薄暗い自室で手縫いの内職をしたという。

 実習生時代の残業代は1時間450円で最低賃金を大きく下回る。駆け込んだ神奈川県央コミュニティ・ユニオンの仲介で差額分を出してもらったが、仕事漬けで日本語を勉強できず「寝る時間が一番の幸せだった」と振り返った。

 財布の中には9歳になる一人娘の色あせた写真。すっきりした目元が母親にそっくりだ。3年間一度も帰国していない。「最初に会ったらまず抱きしめてあげるの」と笑った。

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 法務省によると、外国人研修生の第1次受け入れ団体は約1900と推計。07年に賃金未払いや人権侵害などの「不正行為」を認定した数は企業も含め過去最多の449に上った。【沢田石洋史、宍戸護、山下俊輔】

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 ■ことば

 ◇外国人研修・技能実習制度

 開発途上国の人材育成を目的に90年代前半に導入された。1年の研修後、実習生として2年間就労できる。06年に入国した研修生は約9万3000人で、5年間で約1・6倍に増加した。


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