2008-06-12

「ネットビジネスのATM」とまで呼ばれる"中国ネット文学"事情とは? (中編)

:::引用:::

昨年末、Amazon.cn(卓越亜馬遜網)が 発表した2007年のベストセラー番付では、論語の現代的価値について述べた「于丹論語心得(于丹の論語についての心得)」、楽しみながら英語を学べる 「別笑我是英語単詞書(笑わないで、私は英語辞書だ)」、正しい生活習慣や病気への対処法を述べた「人体使用手冊(人体使用の手引き)」の3作品がトップ 3だったが、2007年に販売された書籍のうち、トップから2,000位までが2006年のそれと41%も重複しており、トップ10だけでみても、6冊ま でが2006年に出版されたものだった。

こうした現象は一方では、2007年の出版業界の新書の売れ行き不振を物語っており、また一方では、ネット書店が図書のライフサイクルを大幅に伸ばし、単品書籍の販売量を拡大することにより、出版事業の利益を高めてきたことを物語っている。

「盗墓」や「穿越」などをキーワードにしたネット文学が流行

最近、中国の出版業界では、「盗墓(墓の中の財宝を盗む)」や「穿越(時間と空間を通り越す)」などのキーワードがブームになったが、こうした中 で、新たなネット文学勢力が立ち上がってきた。この分野の作品は、単一の作者のものが売れるというより、テーマ類別でそのカテゴリー全体が良く売れる傾向 にある。

中国におけるネット文学は、販売時の値引き率が少ないこと、民営による出版であることも特徴だ。これとは反対に、伝統的作家による本は出版部数がそ もそも少ないし、結果として、存在感を大きく落としてしまった。心理療法士の賀頓の人生を追いながら相談に来る人々の様子も描いた「女心理師」が若干売れ た以外、例えば、伝統的なベストセラー作家として著名な、池莉、賈平凹、阿来、格非、莫言、李鋭らの新作はどれもあまり売れず、「寂寞(寂しい)」の二字 で表すしかない。

ネット書店の興隆がネット文学作家を「主流」の座に

Amazon.cnをはじめとするネット書店は、近年、毎年3桁の成長率で持続的に成長している。また、出版社のネット文学業界への新規参入や、 ネット文学プラットフォームと出版社が提携するなどの動きが起こるなかで、以前から活躍してきたネット文学作家が、徐々に「主流」へと変わりつつある。

例えば、多くのネット文学連載は、少し人気が出てくると、たちまち出版業者に契約されてしまう。それまで「フリーランチ」と見なされていたネットワーク上のオリジナル文学も、いまではお金を払わないと、その肝心のところが読めなくなってしまった。

業界筋は、ネット文学がすでに、無視できない文学勢力となってきたと見ている。多くのオリジナル文学創作サイトで人気作品があり、その人気は伝統出 版物をはるかに上回っている。だが、インターネットは元来「草の根」的性質を持っており、伝統的な出版文化との間に深い溝があることも事実だ。

いかにネットワークの限界を突破し、伝統メディアと多方面にわたって協力し、各種ルートを通じてネット文学の書き手に作品の出版や編集の機会を提供 し、周辺産業との間に完全な産業チェーンを築き上げられるかが、サイト側と伝統出版業側が共に協力し合って模索すべき課題であろう。

サイトにもたらす多大な利益が「わいせつ小説」の拡大助長

では、隆盛を誇る中国のネット文学に問題点はないのだろうか。実のところ、少なからぬ問題がある。一方では数百万、数千万という読者が形成する巨大 な市場と勢いのある発展ぶり。しかしその一方では、いい加減な管理などにより、わいせつ物など違法作品が後を絶たないのも事実だ。

しかし発展に管理が追いつけないという現在の矛盾も、間もなく「解決」されることになるだろう。中国の関係当局が、中国のネット文学を対象に全面的 な「粛正」キャンペーンを始めているからだ。今回の粛正対象には、ネット小説だけではなく、今はやりの電子マガジンや携帯電話WAPサイトなどの新興産業 も含まれる。

2007年8月14日、前出の新聞出版総署と全国掃黄打非工作小組弁公室(違法なわいせつ作品を取り締まるためのワーキンググループ事務局)が共同 で、「ネットワークわいせつ小説を厳しく取り締まることに関する緊急通知」を発表、中国国内の348サイトに掲載されていたネット小説40部に対して取り 締まりを行い、関係サイトがすでに厳しく罰せられたか罰せられることになっている。

各地の弁公室も、主管者が責任を取るという原則に基づき、上述の通知で公表された40部のネットわいせつ小説リストと、わいせつ小説掲載の国内サイ トリストと照らし合わせ、管轄内にある関係サイトに対し、リストに掲載されたわいせつ小説を即時削除するよう命じた。さらに全てのサイトに対し、関係情報 の掲載、リンク、転載を禁止した。こうした一連の措置は、法律の網の目をくぐろうとするネット文学に致命的な打撃を与えることになるだろう。

ネット文学に対する政府による管理体制が確立

こうした措置は、言うまでも無くネット文学に対する大粛正である。今後は、文学作品を掲載する全てのサイトが、正規の出版許可を取らねばならなくなる。つまり、関係部門に申請し、登録を行い、許認可を受け、資格を得てからでないと作品の掲載ができないようになるのだ。

関係当局は、次のステップで「掃黄打非」をさらに徹底し、電子マガジンやケータイ文学などもその管理下に入れるという。さらに、新たな管理政策を打ち出し、今後ともこれら新興産業の健全な発展をめざすとしている。

今回の大規模な粛正キャンペーンにより影響を受けたのは、作品サイトだけではない。より重要なことは、日増しに産業化されていくネット文学が、ふたたび国家管理体制下に置かれ、国家の強力なコントロールが働く仕組みが出来上がったことだ。

筆者が中国最大の検索エンジン「百度(baidu)」 で検索してみたところ、「わいせつ小説無料ダウンロード」のようなサイトが随所にあり、一部のわいせつ小説が広まっていることが分かった。また、内容的に は健全といえる一部のネット文学作品もそのタイトルなどに「わいせつがかった(汎黄)」文句を使っている。ネット文学作品は何千何万とあるのに、このよう な方法以外で読者を引き付ける方法はないのだろうか。

さらに筆者の調査で分かったことだが、現在のネットわいせつ作品のうち、完全なわいせつ文学を除いても、法律や法規の隙間を狙い、その隙間に付け込 もうとするものが多数見受けられた。ネット上でわいせつ作品がなぜこれほどに氾濫したのか? それは、ネット文学の急成長がサイト側にもたらす巨大な商業利益が存在するからだ。


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