2008-10-15

カンボジア・タイ:遺跡周辺領有権争い 国境で緊張高まる

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【バンコク藤田悟】カンボジア・タイ国境にあるヒンズー寺院遺跡「プレアビヒア」付近の領有権争いで、カンボジア国防省は13日、タイ軍兵士が国境を侵犯したと主張し、「大規模な戦闘につながりかねない」と警告した。これに対し、タイ側は「通常のパトロールを行っていただけだ」と国境侵犯を否定し、国境付近からの撤退を拒否。両国関係は険悪化しつつある。

 フン・セン首相はタイ側に「14日までの撤退」を強く求め、カンボジア軍は同日、国境付近の兵力を増強。戦車も動員してタイ側をけん制した。

 これに対しタイ外務省は「カンボジアが武力を行使すれば、我が国は領土を守るために自衛権を行使しなければならない」との声明を発表。カンボジア軍はその後、「タイ軍兵士はカンボジア領から退き、事態は正常化した模様だ」と述べたが、タイ側の反発は収まらず、外務省は国民に「カンボジアによる脅威を考慮し、訪問は慎重に」と注意喚起した。

 寺院付近には4・6平方キロにわたる国境未画定部分があり、領有権争いが続いている。今年7月にタイ軍兵士が国境を侵犯したとカンボジアが非難して、両軍が千数百人の兵士を動員してにらみ合う事態となった。その後の協議で両軍は駐留兵士を縮小していたが、国境線画定を巡る両国の協議は進まず、火種を抱えたままとなっている。

 カンボジア側には歴史的にタイに領土を侵食されてきた怨念(おんねん)がある。

 一方のタイ側には、反政府団体が首相府を占拠するという政治混乱の中で、カンボジアの主張に屈すれば政権のさらなる弱体化につながるとの危機感があり、譲歩できない事情を抱えている。

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 ■ことば

 ◇プレアビヒア寺院

 アンコール王朝が9~11世紀に建設したヒンズー教の山岳寺院。カンボジア、タイ両国が領有権を争っていたが、1962年に国際司法裁判所がカンボジア領との判断を下した。地形的にタイ側を通らないと登れないことや付近の国境に未画定部分があることが世界遺産登録の妨げとなっていたが、世界遺産委員会は今年7月、カンボジア単独での登録申請を承認して世界遺産登録を決めた。

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 ■タイ・カンボジア国境を巡る最近の動き■

06年 1月    カンボジアがプレアビヒア寺院を世界遺産に登録申請

08年 6月    タイ政府が遺産登録を支持する声明をカンボジアと共同で発表

    7月 1日 国内の反発を受けタイ政府が声明を撤回

       7日 世界遺産委員会が同寺院の世界遺産登録を決定

      14日 タイのノパドン外相が混乱の責任を取って辞任

      15日 カンボジアがタイ軍兵士の「国境侵犯」を非難

   10月 3日 同寺院付近で両軍が銃撃戦、3人負傷

      13日 カンボジア側がタイ側に「撤退しなければ戦争に」と警告

毎日新聞 2008年10月15日 東京朝刊

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