<書評>『アメリカ人の半分はニューヨークの場所を知らない』 (文藝春秋刊)
「アメリカが外国に戦争をしかけるのは地理の勉強をするためだ」というジョークがある。パスポートを持っているアメリカ人は国民の2割にすぎない。他の8割は外国に関心がない。彼らが外国の土地を踏むのは、銃を持って攻め込むときだけだ。(本文「序章」より)
ブッシュの写真を子供たちに見せ、拝みなさい! と強要する、「福音派」と呼ばれるキリスト教右派牧師。テロリストとして逮捕された者を海外に移送して民間企業に拷問を「アウトソーシング」するレンディ ションシステム。アメリカの人口3億人のうちの、年収200万円以下の貧困層は約3,800万人。約5,000万人が医療保険に未加入で、年間8万人が何 の医療も受けられずに死んでいく。アメリカ国民の総収入の97パーセントを上位20パーセントの富裕層が独占している――
著者・町山氏はカリフォルニア在住。その軽妙な語り口ゆえに鮮烈に描き出される生々しさは、日常のメディアが伝える枢軸国家アメリカのイメージを いとも簡単に瓦解させ、アメリカが世界中に振りまいてきた「グローバルスタンダード」の意味を改めて考えざるを得なくなる。もし、民主主義の成熟がもたら した結果がここに描かれたアメリカの姿だとするならば、我々日本人がそこに重ねるべきものはただひとつ、である。
えも言われぬ蠱惑的な書題の裏に隠された「日本人の半分は本当のアメリカを知らない」という陥穽。手軽に読める分だけ、あとに残される爪痕は、深く大きい。
「アメリカ人の半分はニューヨークの場所を知らない」(文藝春秋刊)著者/町山智浩
価格/1,050円(税込)
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