2008-07-02

技術者のチャンス、今ちょうどその時:RUBY会議

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Rubyコミュニティのイベントである日本Ruby会議2008が、6月20日~22日に、つくば市のつくば国際会議場で開催された。ここでは、キャリアという視点から、初日(0th Dayと呼ばれる)の「対談『まつもとゆきひろ×最首英裕』 ~Rubyを仕事に2008~」の 模様をレポートする。対談は、Rubyの開発者であるまつもとゆきひろ氏と、株式会社イーシー・ワンの代表取締役社長(CEO) 最首 英裕氏の間で行なわれた。まつもと氏については、何回も登場しているので改めて紹介するまでもないだろう。一方最首氏の会社は、受託ソフトウェア開発に Rubyを利用している。

Rubyで仕事をすることのメリット

 イーシー・ワンは、当初Javaでソフトウェア開発を行なう企業として1998年にスタートした。Rubyには3年前から取り組み始めたという。理由は「Javaでは、お客さんの間尺に合わない」ことがあったからだという。Ruby導入のメリットの1つは、いわゆるアジャイル開発で、ロジックをすぐに実装して試すことができる点だ。このため、お客さんに早い時期からモックアップ(プロトタイプ)を提示することができる。

 Javaでも規模の小さいものならば同様のことは可能だが、ある程度の大きさになると難しくなるのだ。見せるのは、モックアップにしかすぎないが、議論の手がかりとなり、デザインや機能を話し合いながら詰めていけるという。

 もう1つ、驚いたことに、Rubyを採用すると社員が喜んだという。中にはRubyを使いたいと思ってい た開発者もいたようだ。とりあえず、Rubyの教育チームを作ったが、実際には、このチームの教育から開始する必要があった。しかし、今ではこの教育チー ムが社員教育を行ない、170人いる開発者のうちの8割ぐらいがRubyを修得しているという。

 また、最首氏は、Ruby Bisiness Commons(RBC)を立ち上げ、Rubyによる企業向けシステム開発のノウハウを公開しはじめた。これは、同社にとっては、「投資」であり、さまざ まな人がここに集まって、いろいろなノウハウや情報が出てくることを期待しているという。このRBCの参加者は、7割がエンジニアだが、デザイナーやコン サルタント、企画職、営業職などもいるという。

開発方法や言語の地方性

 Ruby開発者のまつとも氏はビジネスに関連した話として、Rubyを開発に使うことについては“地方と東京では反応が違う”と指摘した。まつもと氏 は、島根県でネットワーク応用研究所に勤務していて、そこでRubyを使ったシステム開発を請け負っている。地方では、あまり開発方法や言語などは問題に されることはないが、東京だと、そのあたりを細かく指定したり、心配するような顧客が少なくないという。

 また、Rubyでのビジネスが増えるにつれて、ビジネス側からの要望が上がってくるが、これに対してコミュニティとしては対応ができないことがあった。そのためにRuby Associationを設立したという。

 その1つの仕事がRuby技術者認定試験である。まつもと氏自身は、もともとは資格試験の必要性を感じて はいなかったという。しかし、企業が、開発者を雇用したり、配置するときに、Rubyに対する技量を測定することがどうしても必要になるのだ。よって、こ のような形でビジネスの言葉で表現された要望を、コミニュティにフィードバックし、「両者の架け橋」として機能するのがRuby Associationなのである。

言語によってコマーシャル開発に違いは出るのか?

 司会者からの「言語によってコマーシャル開発に違いは出るのか?」という質問に対して、最首氏は、「RubyをJavaのように使うことはできるが、逆は難しい」と答えた。

 Javaで大規模な開発体制を組んだときは、さまざまなライブラリやフレームワークを組み合わせて使う必要があり、それらで最適化するために、い ろいろと考える必要でてくる。そのためには、チームに参加するメンバーを教育する、といった段取りをきちんと踏まないとプロジェクトが破綻しやすいとい う。。

 Rubyでも大規模な開発を行なうなら、段取りをする必要はあるが、アジャイル開発が可能なこと、実装段階で生産性が高いなどのメリットがあり、プロジェクト運営で、力を入れるべきところと、そうでないところのような「メリハリ」が付けられる。また、Rubyには、学習曲線の速さを感じることがあるという。

 ただ、お客さんに「Javaだと安心だが、Rubyでは心配」と言われたことがあるという。しかし、別の顧客は、自社の検証センターで、Rubyを検証して、問題がないという結果を得たという。問題なのは「よく分かっていないから不安なのであって、必要なポイントを定めてそれを検証すれば、利用可能かどうかはちゃんと分かる」という。

 まつもと氏は、こうした問題に対して、単純にプログラムの実行速度での比較はあまり意味がないとし、言語の特性を理解して使う必要があるとした。本質的でない部分でのイメージで判断されることもあるし、逆に、最近ではRuby on Railsの流行で、過度の期待を持つ顧客もいるのが現状だという。

最近のRuby支持の傾向を分析

 最首氏は、最近のRubyの現状について、10年前のJavaの状況に似た所があると指摘している。やはりJavaも最初は、否定されることが多かったが、ユーザが増えるにしたがって、急激にJavaの側に「パタンと倒れた」という。昨今、Rubyを使うことができる開発者が増えてきた。Rubyに対するこうした障壁は、ここ数年でかなり埋まってきたと言えるのだ。

 しかし一方、まつもと氏によれば去年までは、「Rubyが分かる」ということは、技術的に安心できる開発者だったが、今年は「Rubyが分かる」と言われてももう信用ができない状態になっていると言及。というのは、これまでは、Rubyを知っているのは、技術的な感性が鋭かったり、新しいことを積極的に取り入れる技術者だったが、Rubyが「普通の言語」になり、あちこちで話題になったことで、「単に知っている」技術者が増えたからだ。

Rubyを使えることは、今こそチャンス!

 こうした状況に対して最首氏は、Ruby会議に参加しているような開発者は、「チャンス」だという。Rubyの使える技術者は、まだまだ不足しており、誰もが「技術者が足りない」と感じているという。まつもと氏も、「海外での求人を見てもRuby On Railsの技術者に高額な年収を出しているものがある」と言い、こういうものを生かすべきだとした。

 Rubyに限らず、さまざまな技術の中には、急速に広まっていくものがある。こういう時期には、両氏が語るように「チャンス」がある。たとえば、技術者が不足しているのなら、有利な転職のチャンスであり、新しい仕事にチャレンジできるチャンスとなる。しかし、それを知ってからスタートしたのでは、ちょっと遅い。ほかのみんなもスタートするからだ。やはり普段から、さまざまな技術に対して目を光らせておく必要があるのではないか。


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