2008-07-08

中国人研修生の権利保護強化へ、大使館総領事に期待する

:::引用:::

3月中旬、私は「日本の農業を支えているのは劣悪環境に耐え忍ぶ外国人研修生」と題して、本コラムで過酷な労働条件のもとで働く外国人研修生、特に中国人研修生の実情を取り上げた。読者も多くのコメントを残してくれた。研修生問題に対する読者の関心の高さがうかがえる。

いや、厳格に言えば、研修生問題を通して日本の労働集約型産業の人材確保の問題が透けて見えてくるだけに、人々が高い関心を見せてくれた、と言うべきであろう。しかし、外国人研修生の問題は、研修生を送り出す中国側の体制にも問題があると強調したい。

まず、読者のコメントの一部をここで引用しよう。

・「詐欺まがいの低賃金労働抜きに立ち行かないビジネスモデルはそれ自体がおかしい。外国人労働者にまっとうな賃金を払って農業を営むように法律・制度を変えるべきだ。(介護ビジネスや製造業でもまったく同じ)」(maha-rao氏)
・「製造現場でも聞くこの研修という名の下に行われる搾取について、厳しく取り締まっていかねばならない。単純に人件費削減しか求めない経営者等がのさばるようではいけない。今回のような犯罪でしかないようなのはキッチリ罪を問う事にすべき」(としろう氏)
・「与えられた資源を活用できない農家が淘汰されないならば、農地解放は結局のところ失敗ということになる。中国人だろうが、なんだろうが奴隷労働は許さ れるべきではない。奴隷労働が無ければ成り立たないような農家は廃絶されなければならない」(Neon/himorogi氏)
・「中国人研修生の手を借りなければ立ちゆかなくなる農家はかなりいる。それも大規模農家で。農地があっても、生産に必要な労働力が確保できずに、全部の畑を使い切れないという農家も珍しくありません」(陸のあざらし氏)
・「中国農民の窮状を逆手にとって搾取構造がまだあることに日本国民としてやりきれなさを感じています。……研修精製度の点検見直しを早急に取り組む必要があると思います」(Mota氏)
・「日本農業は働く人がいないのです。……農業の担い手が確保できない中で自給率引き上げなんてとてもできない相談です」(実家が農業の元サラリーマン氏)
・「ILOの報告でも、日本に限らず世界各地で農業就業人口が減少しているとされています。日本だけではなく、世界の胃袋をどのように支えてゆくかが問題となってゆくと思います」(歯車王氏)

中国人研修生、特に農業研修生がここまでひどい状況に陥ったことを、すべて日本の農業問題として農家側に責任を求めることはできない。「農家の問題 もありますが、それを監理する団体の良し悪しでしょう」(xing氏)というコメントもあるように、中国側の派遣元にもかなり問題があるのだ。本コラムで 研修生問題を取り上げたのと同時期に、私は全国紙にもつ私のコラムでも、中国人研修生の送り出し体制に問題が多いことを指摘し、研修生の保護に責務を果た すよう、中国大使館にきちんとした対応を促した。

私が指摘したのはおおまかに以下のような内容だ。「『以人為本』。日本語に訳すれば、人が基本、人を尊重する、となる。国民を大事にしようという意 味だ。これは近年、中国政府が打ち出した新しい基本政策である。これまでの中国の政策は、文字通りの美辞麗句を除けば、共産党、政府、国有企業、経済発展 を大事にしてきた。国民の一人ひとりが大事だということをこれほど明白に宣言したこと自体は、一歩前進だと評価していいだろう。しかし……それを社会の隅 々に浸透させるにはまだ時間がかかりそうだ。『以人為本』の意識が中国大使館の業務の現場に浸透しているとは言いがたい。日本で非人道的な扱いを受けた中 国人研修生に対する保護が足りないのが典型だ。」

実例も挙げた。広島県福山市で3人の中国人女性研修生が奴隷労働同然の待遇を受け、日本の労働団体の支援を受けて法的闘争を繰り広げた結果、賠償金 400万円を勝ち取って中国に帰国した。しかし、故郷に帰った女性たちはよりによって派遣企業から提訴され、逆に300万円の損害賠償を求められた。幸い 中国の裁判所は女性たちの権利を守ってくれた。

この例からもわかるように、研修生を日本に派遣する中国の派遣企業に問題が多い。だから、私はコラムのなかで「中国大使館に強く求めたい。日本でも『以人為本』の精神で中国人研修生の保護に責務を果たしてほしい」と書いた。

実は、研修生を派遣しているルートはいろいろあるが、主なルートは中国の公的機関「中日研修生協力機構」を通すものだ。ところが、この機構は実際の 現場の監督管理を徹底していない場合が多い。同機構に内緒で派遣実務を担当する人材派遣業者が、受け入れ元の日本側の人材派遣企業と研修生派遣業務から最 大の利益を絞り出すため癒着してしまうケースがかなりある。

中国企業の海外活動に関する監督責任を持つ中国の行政機関は商務省(商務部)だ。中国大使館にはその出先機関として商務処があるが、日本に研修生を派遣する悪質な中国派遣企業を批判・指導したという話は聞いたことがない。

一方、縦割り部門になるが、中国大使館には日本に滞在している中国国民を保護する立場にある領事部もある。最近人事異動があり、在日中国人の保護を担当する総領事も変わった。新しい総領事は許沢友氏である。日本勤務を何度も経験しているベテラン外交官だそうだ。

その許総領事が、赴任後ちょっと驚くような動きを見せた。日本で発行されている中国語新聞によると、5月23日、赴任後の最初の外出活動として許総 領事が山梨県笛吹市に派遣されている46名の中国人研修生を訪問したという。これまでの中国大使館の政治判断では、総領事の最初の外出が社会的地位の低い 中国人研修生を訪問することであるとはまず考えられない。異例なことだった。

この訪問によって、研修生問題に具体的な解決策が見つかったわけではないが、象徴的な意味合いが大きいと見ていいだろう。中国大使館がいよいよ重い 腰を上げ、問題山積みの中国人研修生権利保護に力を入れようとする姿勢を見せたと判断していいだろう。これは評価できる動きだと思う。

私は6月9日、中日研修生協力機構の日本駐在事務所に電話をかけ、同事務所の幹部と中国人材派遣企業を含めた研修生問題について意見を交換したいと 申し出た。電話に出た担当者は、トップと相談して返事してくれると約束してくれた。しかし、1カ月以上経ったいまも返事はない。日本のメディアで発言の場 をもつ私に対してもこのような態度だ。日本で地理感覚も言葉も通じない研修生にとってその扉を叩くことがどれほど困難かは容易に想像がつく。

中国人研修生の権利保護について、中国大使館内の縦割り行政の壁は厚いと思うが、中国大使館の許総領事の本領発揮はこれからだと期待している。


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