前回は「中国がグローバル化の試金石となる」というテーマの中で、日本企業は今後国内市場中心のビジネスから海外市場中心にシフトする必要がある、 という話をした。今回は、そのパラダイムシフトの中で、日本の強みを生かしたビジネスを展開するためのヒントになる事例を書いてみたい。
増える日本語学習者をターゲットに
日本企業は、技術力・品質管理・生産管理など、ものづくりに関わる部分に強みを持つと言われるが、それ以外にも知識・経験やノウハウ、独自の文化な どソフト面での強みがある。ソフト面と言えば、「クールジャパン」というキーワードを代表するアニメなどのコンテンツが取り上げられることが多い。しか し、それ以外にも、「語学」「研修・教育」など様々なソフト面をパッケージ化して海外市場に販売していける可能性がある。特に、語学については、最近の海 外における日本のブームが後押し材料となるだろう。
ここで注意すべきは、海外市場への販売の際に、海外に進出している日系企業以外に市場の潜在性が高い現地企業や消費者などの市場を開拓する努力をするということだ。
今、世界では日本語の学習者が増えている。国際交流基金の2006年調査(2006年11月~2007年3月実施)によると、日本語学習者は世界 133カ国で約298万人に上った。90年時の調査と比較すると2倍以上に、2003年時と比べても26.4%増加している。グローバルビジネスはより一 層英語がベースとなっている時代にこの現象は興味深い。
日本語学習者が増えていることは日本企業にとってもメリットがある。今後、中国以外のインドやベトナム、その他新興国で製造や市場開拓を行うには、 日本語が話せる技術者やホワイトカラー層がこれまで以上に必要になるためだ。しかし、そういういわゆる日本語人材はどの国でも数が限られているため、ある 程度自前で育成していくことが求められる。
こうした中で、ソフトという意味では、日本語学習のためのe-ラーニング教材などが考えられ、実際に販売を開始している企業も見られる。ターゲット は、日本企業の本社や日系企業はもちろん、中国やインドなど新興国に設立されている開発区・SEZ(特別経済区)で日本企業を誘致したい組織や日本語学校 など様々なニーズが考えられる。
日本の研修・経営方式をコンテンツ化する
日本が海外に提供できるものは日本語のみではない。日本的経営のノウハウもその1つだ。日本企業は研修に関するノウハウやプログラムを蓄積しており、それらを用いて日本企業のみならず、中国などアジアの企業に研修プログラムを提供できる可能性がある。
トヨタは、2007年8月にインドのベンガルール(旧バンガロール)郊外で技術者養成のためのトヨタ工業技術学校(TTTI)を開校した。インドの 自動車市場が拡大する中、生産を拡大するには日本的なものづくりを理解する現地の技術者が必要だからだ。インド以外の国でも現地スタッフに日本的な生産・ 経営を教える日系企業は増えている。
また、最近、清華大学など中国の有名大学のEMBA(エグゼクティブ向けのMBA)に在学する中国企業の経営者・経営幹部などから、日本に来て日本企業の組織運営や経営方針について学びたいというニーズがあるという。
それを聞いたとき、私の頭の中には違和感があった。なぜなら、私が中国で経営のクラスを受けていた時、生産管理や品質管理の授業に限っては日本企業 の方式や事例が多く取り上げられていた印象が強かったが、それ以外の授業では米国のMBA的な内容が大半であったからだ。特に清華大学など有名校ではそう いう傾向が強い。また、中国の大企業の方に話を聞いても、欧米のコンサルティング会社と契約して経営改善を図っている、欧米の業務管理など最新のITシス テムなどを導入しているという話をよく聞いていた。中国人学生の就職希望先ランキングを見ても欧米系や中国企業の人気は高いが、日本企業の人気は低い。
しかし、この研修をアレンジしていた中国人コンサルタントの話を聞くと、なるほどと思いあたった。ひとつには、米国式の経営を中国などアジアの企業 にそのまま取り入れるのには限界があるということだ。日本企業の現状を考えてもそれは明らかだろう。もちろん、中国では米国的な成果主義を取り入れた経営 手法などが有効な部分もある。例えば、目標管理などをベースとした信賞必罰が明確な人事制度や、トップダウンで迅速に経営判断を下すなどという点では、中 国企業のやり方は欧米企業に近い。しかし、そうしたシステムをそのまま導入しても実際の現場はうまく機能しないことが多い。
二つ目には、従業員と経営者の考え方が違うということだ。つまり、従業員としては、日本企業は給与も欧米系と比べてそれほど高くなく、昇進にもガラ スの天井があるなどあまり魅力がないかもしれない。しかし、経営者の立場からすると日本企業の組織力、チームワーク、企業文化などに学ぶ部分が多いという ことだ。企業がある程度の規模になってそこからさらに飛躍しようと思ったときに、日本的な組織力・現場力が必要だというのだ。例えば、従業員を長期的に育 成するという考え方が根付いていない企業が多い。これは、労働契約法の施行もあり、今後従業員の解雇が難しくなる中で、大きな課題となるだろう。
以上のような中国企業のニーズを満たすには、日本の研修プログラムや教材を中国企業に提供するということが考えられる。知的財産権を保護するという 意味では、教材を直接販売するよりも、それを活用した研修プログラムの提供やノウハウの移転などにむしろ可能性があるのではないか。
その際には、こうした暗黙知的な知識やノウハウを商品になるようパッケージ化する努力が必要である。それができれば、日本企業はこれまで多くの欧米的な経営ツールを取り入れてきたため、その時の成功体験や失敗体験を踏まえて伝えていくこともできるだろう。
今の中国には世界中から資金が集まってきており、設備などハード面では以前と比べると充実してきた。しかし、サービス面や企業経営手法などソフト面 では一部企業を除き、まだまだ改善点が多い。これから独自の中国的経営システムを作り上げていこうとする模索はまだ始まったばかりだが、欧米流の経営方式 と日本的経営の良い点をうまく取り入れていくことができれば、意外に早くキャッチアップしていくのかもしれない。そうなった時の日本の強みを差別化するた めにも今からソフト面での強さをより充実させていくことが大事なのだ。
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