IT部門で働く人は、会社の人材育成・評価制度に期待が持てない
今回のテーマは、IT経営人材の育成方法と評価方法です。このテーマは、IT関連部局の所属長や部門長であれば常に頭を悩ましている問題だと思います。
わたしも人材育成と人事評価では、つらい経験をたくさんしてきました。サラリーマン生活に終止符を打つことになった大きな原因の1つは、人材育成 と人事評価への不満にありました。独立して自分で会社を興し、社員を採用する段階になったら、特に人材育成と人事評価はみんなが納得する仕組みを作ろうと 思っていました。
今回ご紹介するのは、わたしが支援している会社で実際に運用中の人材育成と人事評価の方法です。これらは前職時代に管理職として新人の部下の教育係に任命された際に考えたアイデアがベースとなっています。
総合商社に入社してくる人間──特に新卒の新人は、世界中を飛び回るビジネスマンをイメージしています。彼らにバックオフィス業務の中でも最も地味なITの仕事をあてがったとき、そのモチベーションを高めることは当時、至難の業でした。
そこで、将来何になりたいか? そしてそのためにはどういう順序でどういうスキルや知恵を付けなければいけないかを真剣に話し合いました。日々試行錯誤しつつ問題点を修正し、何とか1年間のカリキュラムを終了することができました。
ちなみに、その時指導した彼は3年目に営業部局に異動し、日々営業現場で奮闘しています。入社から2年のブランクをあまり感じさせなかったことから、この人材育成プログラムが広い適用範囲を持つものと自負しています。
これがIT経営人材育成&キャリアプラン構築プログラムだ
下の図1は、前述の新人教育プログラムをシステム開発系プロジェクトマネージャ育成プロラムにカスタマイズしたものです。運用開始からすでに2年 ほどたちましたが、現場担当者のモチベーションは確実にアップしています。それまで受託することができなかった大手顧客からの受注が増えており、プログラ ムの有効性について高い評価が得られていると考えています。
図1 事業戦略およびIT戦略の実行結果に係る評価軸の明確化(クリック >> 図版拡大) |
このプログラムでは、IT人材に必要不可欠な「ITスキル」の中でも特に情報リテラシー面 を重視して指導します。加えて、IT経営人材に必要不可欠な「人間力」と「ビジネススキル」の指導もしますが、営業現場の担当者と同じレベルで議論できる ことを目標に置きます。これにより、「同じ会社にいるITの専門家」から「ビジネスパートナーの1人」という社内的位置付け(評価)が得られることを目指 します。
なお、このプログラムが機能するために特にポイントとなるのは、左側の「座学やOJT」よりも右側の営業現場での「実践」です。座学やOJTを通 じてノウハウと知恵を蓄積し、それを営業現場で実践する──。この「蓄積したノウハウを実践する現場」を用意することの重要性を、各部門長が理解できるか どうかが成功のカギを握ることになります。
問題噴出のIT人材の評価方法
一方のIT経営人材の人事評価ですが、現状は「とにかく、ひどい」の一言に尽きます。一部の金融機関ではIT部門長を経由することが出世の条件となっているそうですが、ほとんどの業種(IT関連企業も含め)でIT人材は虐げられているのが現状です。
ITをほかの業務に比べてあまり重視しない会社では、ITの仕事を経験したことがない営業部門や管理部門の上司が突然、IT部門長になることがし ばしばあります。ITの仕事に対して理解がないので、現場の人間に対して「君たちの仕事は会社の利益に貢献しているとは思えないので、正直いって評価でき ない」とやったりします。これでは、現場は「やってられない!」と思うのが当然でしょう。
そこでわたしは、前述のIT人材育成プログラムを通じてIT人材のスキルアップを図り、IT経営人材も『経営者がウオッチすべき重要人材リスト』 に入れてもらうことから始めました。そして、IT経営人材のアウトプットも会社の利益に貢献していることを認めてもらえれば、第1段階はクリアとなりま す。
次に、経営者の期待(経営戦略の実行)をIT戦略に落とし込み、各人のアウトプットがIT戦略のどの部分を担うのかを明確にすることで、IT経営人材のパフォーマンスが経営者の評価軸にきっちりフィットすれば、第2段階もクリアです。
ここまでくれば、後は現場での評価をいかに数値化(定量化)し、それをどのように合理的かつ効率的な仕組みで運用するかが課題となりますが、わたしが作成したExcelシートを使えば、簡単かつ合理的に仕組み化が可能です。
これがIT経営人材の定量評価ツールだ
下図は、上述の現場での評価内容を数値化し、自動的に経営向け報告書を作成できるExcelシート(サンプル)です。
図2 現場担当者が作成する「案件管理シート」(人事評価編) | |||
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各シートに入力された人事評価データは随時吸い上げられ、以下の経営者向け業務内容管理シートに反映されます。
図3 優位性を高めるための一歩踏み込んだ分析機能──ヒトに関する戦略シミュレーション | |||||||||||
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経営者が従業員と契約した「月間標準工数」と、現場で割り当てられた業務量の合計である「現場予定総工数」の比較による業務負荷の分析や、「月間 標準工数」と現場責任者の評価結果である「工数実績」の比較による予実対比分析により、労働生産性の多面的評価が可能になり、合理的かつ説得力のある人事 評価が可能になりました。
人事評価については日本中の会社が試行錯誤しながら、さまざまな手法を導入していますが、現場担当者は最新式の評価手法ではなく、納得のいく評価 がされているか? という心理的・人間的な部分の改善を求めています。その部分をサポートするExcelシートを活用した簡単な仕組みを通じて会話するだけでも、担当者の気 持ちが結構改善されることが実感できました。
皆さんもぜひ一度、ご一考ください。
ライト・ハンド株式会社
1992年に三菱商事(株)に入社し、システム開発部に配属される。数百万ステップ規模の会計系基幹システムの開発・保守に従事。その後、食品VANの開 発、ECサイトの企画・開発、新規事業の立ち上げ、事業投資先の経営支援、内部統制構築など各種案件を経験する。これらの経験をノウハウ化すべく、 2001年10月から2004年3月まで東京工業大学 社会理工学研究科経営工学専攻の非常勤講師に就任し、事業創造論を学部生および院生に指導。2007年、三菱商事(株)退社後は、ベンチャー企業へのハン ズオン型経営支援(支援例:(株)クエスト・ワン)を通じて、『IT経営実践』の普及をライフワークとしている。
今回、わたしが支援している会社で実際に運用中の人材育成と人事評価の方法を紹介する。これらは前職時代に管理職として新人の部下の教育係に任命された際に考えた新人教育プログラムがベースとなっている。
このプログラムをカスタマイズした「システム開発系プロジェクトマネージャ育成プロラム」では、「ITスキル」「人間力」「ビジネススキル」を指導し、 「ITの専門家」から「ビジネスパートナーの1人」という社内的位置付けを目指す。これが機能するためのポイントは、営業現場での実践だ。
一方、IT経営人材の人事評価だが、現状は「とにかく、ひどい」の一言に尽きる。私は前職ではIT人材のスキルアップを図るとともに、IT経営人材を『経 営者がウオッチすべき重要人材リスト』に入れてもらうことから始めた。次に経営戦略の実行をIT戦略に落とし込み、IT経営人材の業績が経営者の評価に フィットするようにしたうえで、現場での評価を数値化し、それを運用する仕組み化を行っていく。
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