日本の産業界にとって、ソフト技術者の不足が深刻な問題になりつつある。日本のソフト技術力が低下すれば、ITを活用する一般企業にとっても、製品や サービスなど商品開発に大きな影響をもたらすはず。それなのに、IT業界は人材育成の決定打を見つけることができていないし、経営者の意識も薄いようだ。
これまでも日本の「産・官・学」は、さまざまな機会をとらえて、人材育成の方法を議論してきている。例えば総務省や経済産業省、文部科学省は、人材育成 プログラムをそれぞれ作成。さらに日本経済団体連合会が専門職大学院の設置を含めた人材育成の“ナショナルセンター構想”を提案している。一部のITベン ダーは個別に大学と提携して、自社に関連する講座を開設したりしている。一向に前に進まないのは長期的な展望を描けないからだろう。
人材育成の理想を言えば、理論中心の大学教育と現場の実践的な教育を組み合わせることだと思う。これが日本で進まないのは、実践的な教育をおろそ かにしているからではないか。いまや実践的な部分はインドや中国の技術者を採用したり、オフショア開発に頼ろうとしたりしている。このままでは、日本でソ フト技術者を育成できなくなるかもしれない。
IT産業の発展に力を注ぐ中国は、人材育成にどう取り組んでいるのか。典型的なケースが、ソフト会社を集積する“ソフトパーク”が近隣の大学と連携し、学生がソフトパーク内の企業で実践的な技術教育を受けられるというものだ。
例えば、山東省の青島市にあるソフトパークには約200社のソフト会社などが進出。近隣の青島大学や青島科技大学、青島理工大学、山東科技大学、中国海洋大学などの学生が、ソフト技術を学んでいる。しかも大学の単位になる。
毎年、全体で約4000人のIT系学生を抱える青島市は、ソフトパークをソフト学習の基地として位置付けている。即戦略となる人材育成につなげるためだ。複数のソフト会社が大学と提携して基礎知識から実践教育などを行うなど、ITの職業訓練学校といった一面さえある。
青島市は企業誘致にも力を入れており、そのままソフトパーク内のソフト会社やインターネット関連企業に就職する学生もいる。青島市にある中国の大 手家電メーカー海信集団有限公司も、組み込み系技術者を求める。さらにソフトパークには日系のIT企業も30社ほど進出しており、日本語を覚えて日本企業 で働くことを望む学生もいるそうだ。
青島のソフトパークの担当者は、「ソフトパーク内に従事する技術者を今の2万2000人から5万人にしたい」と話す。資金援助などもあり、CMMI(能力成熟度モデル統合)のレベル3を取得した企業も6社あるという。
人材育成で大学と企業が連携している例は、ドイツにもある。それがポツダム大学だ。98年にITエンジニアリング専門のコースを設け、IT技術者の育成に取り組み始めた。
同コースは独SAP創業者の一人であるハッソ・プラットナー氏が寄付した合計2億ユーロ(約300億円)の資金を基に立ち上げたもの。コンピュー タサイエンス、ソフト工学、情報理論の基礎を学べるほか、政府や公共機関などの情報システム構築に学生を関与させるなど、実践的な部分も重視している。単 なるシステム開発だけでなく、チームワークの在り方、プレゼンの方法、提案書作りなども教える。起業家を育成するのが大きな狙いという。
日本にも中国のソフトパークのような施設が各地に設けられているが、「官」任せではだめだ。IT業界も深くかかわり、自らの投資でどんなITプロ フェッショナルを育成するかを考えべきではないか。例えば、IT業界から近隣の大学に働きかけて授業内容にまで深く関与するなど、一歩踏み込んだ行動が必 要だ。 IT関連の専門大学院を作るのもいいが、政府の予算に期待するより、ドイツのように産業界の出資で設置した方が、スムーズに運ぶように思える。
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