同一価値労働同一賃金。同じ価値の労働には、性別や雇用形態が違っても、同じ賃金が支払われるべきだとする、国際労働機関の条約にもうたわれる原則だ。 ところが、非正規雇用の現場では、これがないがしろにされている。連載には、そうした現状を告発する読者反応が相次いだ。
「いつまでこの状態が続くのか分からず不安な毎日です」。福岡市の男性(37)は、電話で仕事先を伝えられる日雇い派遣「ワンコールワーカー」を約2年 間した後、契約社員として旅行代理店に就職した。手配や添乗など、正社員と同じ仕事をし、残業で最後に退社することもある。だが毎月の手取りは、正社員の 3分の2ほどの約15万円という。
「結婚して家庭を持つなんて無縁の世界。給与明細を見るたびに、いくら何でもこれは、と思う」。価格競争の激しい旅行業界。原油高で輸送コストも上がる中、削れるのは人件費だけ。仕事がもらえなくなるのを恐れ、旅行中の予定外の出費を自分で負担する派遣の添乗員もいる。
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福岡県内の和裁業の女性(47)は「一番の犠牲者は末端にいる人」と話す。10年ほど前までは呉服店から仕立ての注文を月に5‐六着受け、1着当たり安 くても約1万6000円をもらっていたが、今は1万円弱。店が、中国の工場に注文し始めたため、女性の仕事は月一着ほどになった。家計が苦しくなり、女性 はパートを始めた。
和服離れが進む中、客の志向は安価なものに変わってきた。店は仕立て代を削らざるを得ない。「価値観や経済の流れが変わってしまって、どこも苦しいのは分かるけど」と女性は納得できない様子だ。
福岡県の無職男性(57)は、熊本県の縫製工場で月給約6万円で働かされていた中国人研修生について「まるで『野麦峠』、それ以下だ。いくら会社が生き 残るためとはいえ非人道的」と憤る。外国人研修・技能実習制度や、製造業への派遣を可能にした規制緩和が誤りだったとし、「国や政治家が経済界寄りの姿勢 を変えないと、問題はなくならない」と話す。
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取材した非正規労働者たちからは、決まって「おたくの会社はどうなんですか」と尋ねられた。
西日本新聞社人事部によると、この5年間、団塊世代の大量定年や採用抑制で、正社員数は約920人から約870人に減った。パートやアルバイト、契約社員はほぼ横ばいの約100人。一方で派遣や請負は約60人から約90人に増えた。
編集の現場でも、例えは寄稿文の入力などを会社が新設した関連会社の派遣社員が担う、といった外注化が急速に進む。
西日本新聞労組にはパートや派遣、請負などで働く人は入っていない。昨秋の組合員アンケートでは「非正規の問題に積極的にかかわるべきだ」が39%を占 める一方、労働条件改善は正社員から、などとして「かかわるべきでない」も17%ある。非正規労働者側にも「組合費を払ってまで加入する気はない」という 声もあり、対応は難しい。
山口不二夫明治大大学院教授は「人件費を下げれば有能な人材が流出し、リスク管理面で問題が起こる」と話した。労働の“買いたたき”は結局、企業が自身 の首を絞めることになる。今年に入って、パートを正社員化する動きが全国的に出てきたのは、企業がそれに気付き始めたことの現れなのか。新たな動きが非正 規労働者の福音となるのか、自分の足元も含め注視していきたい。
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