2008-04-22

IT業界の偽装請負を適正化していく方法

:::引用:::
IT業界での偽装請負問題は、近年、急速に表面化してきました。

 2006年に大手ITベンダーがシステム運用の案件で労働局から是正指導を受け、インターネットや業界誌でも実名報道がなされました。このプロジェクト では、このベンダーからプロマネが出ており、他は複数のシステム会社の技術者で構成されていました。ベンダーとそれぞれの会社との契約形態は準委任契約で したが、実際には業務の範囲が不明確で、プロマネと他の技術者の間に直接の指揮命令が発生していたと認定されたようです。こういったケースは頻繁に起こり がちで、他にもいくつかの企業が類似した事例で是正指導を受けています。
そんなことから、現在では、いくつもの大手ベンダーが、パートナー企業向けの説明会を実施したり、ガイドラインを策定したりなどして、問題の是正に力を入れ始めているのです。

 では、かつては当たり前であった、こういう契約形態が、なぜ問題視されるようになったのでしょうか?

派遣法改正が、偽装請負を表面化させた

 ターニングポイントは人材派遣法の改正です。

 派遣法はさかのぼること約20年前の1985年に成立しました。成立当時は、派遣は正社員の代替手段ではないとの考え方から、高度で専門的な知識や経験を要する“13の業務だけ”が派遣として認められていたのです(*1)。また、その翌年には「労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準」(労働省告示第37号)が公表され、現在に至るまで派遣と請負の区分の基準となっています。

 当時のIT業界では、上記の区分基準では判断が難しく業務に支障をきたすという懸念から、社団法人情報サービス産業協会(JISA)が業界運用基準を取 りまとめて行政側に提出するといったような動きがありました。ただ、このころはIT業界の規模もまだ小さく、労災問題も現在ほど表面化していなかったの で、大きな問題として取り上げられることはありませんでした

 その後、2004年に派遣法が改正されて、製造業務への派遣が解禁になりました。このころから偽装請負問題が表面化します。製造ライン等での請負 契約に、直接の指揮命令が発生する職場が多く見られたため、労働局は関係する発注者やサプライヤー(請負会社、派遣会社)に派遣と請負の適正な理解を促す 取り組みを開始しました。これが、毎年秋に実施されている契約適正化キャンペーンの始まりです。

 このキャンペーンで製造業を中心に調査したところ、違反率は80%を上回る高率でした。あわせてIT業界に対しても同様の調査を行うと、多数の違反が発見され、重点的に是正が必要な対象業界という認定がなされたわけです。

 おりしも技術者の圧倒的な不足から労働強化がなされ、労働災害も目に付くようになっていました。とくに実態は派遣でありながら、形式的に は請負である偽装請負となると、労務管理がおろそかになる傾向があり、業界としても偽装請負問題は、取り組むべき緊急の課題という認識が広がったのです。

(*1)派遣適用対象業務
対象業務も徐々に見直しが進み、86年には16業務に、98年には26業務が対象となりました。

契約適正化の流れを、事業モデル転換のチャンスに!

 昨今は偽装請負の問題が広く知られるようになり、自分は偽装請負に加担しているのではないか?と労働局へ問い合わせる労働者も増加しています。
早急に是正しなければ、コンプライアンスの不備を問われることはもちろん、技術者の採用・維持に関しても、影響が出てくることになるでしょう。

 これまで、IT業界は仕事の完成基準があいまいなまま、技術者ひとりの労働力を単価として換金化し、いわゆるグレーな部分が存在する“派遣型の人月ビジ ネス”が中心となっていました。日本にある数万社のシステム開発会社のかなりのビジネスが上記の形態に該当すると思われます。
しかし、これからは、偽装請負の適正化の観点から、単なる労働力の提供型のビジネスモデルでは、継続が困難になっていくでしょう。むしろ、この業界構造の変化をチャンスにとらえていかなければいけません。
是正のポイントは、(1)直接取引化と(2)高付加価値化の2点です。

 まず、(1)直接取引化は、偽装請負の温床となりやすい階層構造の下部での取引から、よりエンドユーザーに近いレベルでの直接取引を目指して営業活動を 実施するということです。こう言うと当たり前のことのようですが、これまでは本来は直接取引できる力があるにもかかわらず、下請けの立場に甘んじていたと いうことはないでしょうか?より直接的な取引化が図れれば、偽装を気にすることもなく、単価の向上やより安定した取引が見込めるようになります。

 (2)高付加価値化は、これまで技術者の能力に依存していた事業を、単なる労働力の提供と取られないように、業務範囲を明確にし、自分 たちの力で納品、運用できるように、事業そのものを高付加価値化し、違法性のないクリアな内容の請負・準委任に進化させるということです。人出しビジネス と訣別し、自力で納品、運用できる力をつけることはハードルの高いことだとは思いますが、その過程の中で、自社の強みは何かを検討し、高い品質管理基準を 設定する等の努力をしてはじめて、真に独立した企業として成長できるのです。

 昨年の労働局主催情報サービス業向けの契約適正化キャンペーンのセミナーで、労働局の方が語っていた言葉は印象的でした。

「最近、偽装請負問題の解決策からか、システム系の会社の派遣免許の取得が急増しています。たしかに、派遣への切り替えは手段のひとつで す。ただ誤解されがちですが、労働局は請負・準委任契約をダメと言っているわけではありません。むしろ、請負の概念をしっかり理解していただき、高い付加 価値を持って提供していただくことを期待しております」

 今後は、“人が欲しいのか”、“付加価値のある完成物やサービスが欲しいのか”の選別がより明確に行われるでしょう。前者は派遣契約で対応し、後 者は請負・準委任で対応することになると思います。そのような環境の変化を考え、それぞれの会社にあった独自の戦略を実行する事が求められてるのです。


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