■危機感募る地元企業
トヨタグループや東京エレクトロンなど、大手資本の工場進出が相次ぎ決定した宮 城県。地元の製造業にとっては事業拡大の好機とあって歓迎ムードかと思いきや、どうもそうではないらしい。製造現場で即戦力と期待される理系高卒者をめぐ り、獲得競争の激化が予想されるからだ。“パイ”は限られており、調整にあたる県や経済団体の対応策が注目を集めている。(山口圭介)
宮城県の村井嘉浩知事は11日、県幹部らを前にセントラル自動車と東京エレクトロンが平成22年に工場を新設することによる新たな雇用が、1万7000人に上るとの試算を発表した。
関連会社など波及効果を含めた数字だが、セ社は地元から数百人規模の採用が見込まれ、1日に工場増設を明らかにしたトヨタ自動車東北も、今年の倍となる 100人規模の採用を明らかにしている。地元での就職を望む高校生にとって、これまで狭き門だった大手企業への就職は魅力的だ。
「確かに雇用創出は期待できるが、地元の中小製造業はますます採用が難しくなる」。県産業人材・雇用対策課の担当班長の心境は複雑だ。
団塊世代の退職で技術継承が課題となっている今、生産現場の核となるべき理系高卒者の採用が滞る状況が続けば、経営基盤が揺るぎかねない。
県内のある中小製造業者は「給与や福利厚生を考えると、進出してくる大手企業に生徒が流れることは間違いない」と頭を抱える。
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工場勤務は高卒者が中心となる。中でもリーダー候補として活躍が期待されるのが基礎知識・技術の高い工業系の生徒たち。ただ県によると、昨年春に製造業に 就職した県内の高校生2070人のうち、工業系は3分の1に過ぎない。残りは普通科や商業科の卒業生だが、就職して初めて製造現場に出るため離職率が高い のが実情。そのため仕事への理解が深く定着率が高い工業系への引き合いは強い。
みやぎ労働局によると、今春卒業した高校生を対象にした求人数(2月現在)は、前年比 0.6%減少したが、製造業に限ると 3.7%増加しているという。相次ぐ工場進出でさらに求人が増えることが予想される。
しかし、工業高の卒業生は限られている上、卒業生のうち製造業に就職する割合は年々低下しており、製造現場の人材不足の深刻化は避けられそうにない。
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「なかなか工業系の生徒を採用できない」「大手工場が進出すると見向きもされなくなる」-、危機感を募らせる地元製造業を支えようと、宮城県は今年度から、ものづくりの人材育成・確保対策の事業をスタートさせる。工業高に対して製造業をPRするという。
具体的には、高校生の工場見学会の実施、地元の中小企業を対象にした人事担当者への採用確保セミナーの開催などを計画、企業と学校の仲立ちをする。
県産業人材・雇用対策課は「給与で比較されると大手にはかなわないが、県内で働きたいという生徒は多い。ただ求人票の提出が秋以降になる場合が多い地元企 業と比べ、早い時期から採用活動を始めている首都圏の企業に卒業生が流れていく傾向にある。地元の中小製造業に、より早い提出を求めるなど、地元の実情に 即したアドバイスもしていきたい」としている。
また、県内の製造業などでつくる「みやぎ工業会」は県と連携し、ものづくりを担う人材育成 を目指す「クラフトマン21事業」を始めている。職業意識の醸成や技術力の向上などを狙って、製造業の現場を体験してもらうインターンシップや技術者によ る学校での派遣授業を行っている。
今はまだモデル校に指定された工業高4校だけでの実施だが、昨年度だけで延べ約 600人が参加。今後、他校にも広げていく考えだ。
地元企業の弱体化は、地域経済の衰退に直結する。みやぎ工業会事務局は「正直に言ってすぐに成果が出る事業ではない。地道にものづくりに対する関心を高め ながら、学校と企業の相互理解を深めていく。進出してくる企業と中小の製造業への人材供給の両立を図ることができれば」と話している。
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【用語解説】大手企業の宮城県進出
トヨタ自動車の子会社「セントラル自動車」が大衡村への本社と工場の移転を決定。さらにトヨタ自動車は大和町での小型車向けエンジン工場建設を発表、子会 社の「トヨタ自動車東北」が運営する。また半導体製造装置メーカー大手の東京エレクトロンの子会社「東京エレクトロンAT」も大和町に研究開発・製造拠点 となる新工場の建設を決めている。いずれも平成22年中の稼働を目指しており、大量の新規雇用が予想されている。
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