自動車やデジタル家電、携帯電話などの機能を自動制御する「組み込みソフトウエア」開発産業の振興を図る動きが、九州の産学官で活発化している。北部九 州への自動車産業の集積に伴い、車載用ソフトの開発に商機を見いだす企業も少なくない。技術者育成や企業誘致は一朝一夕にはいかないが、急速に需要が高ま る分野だけに、今後の発展が期待される。
(経済部・永松英一郎)
「将来、自動車用の組み込みソフトを手掛けたい」。3年前から、通信機器用の組み込みソフト開発を手掛けるマイクロコート(福岡市)の松尾正博社長は力を込める。
同社はもともと、経理システムなどを制御する「業務系ソフト」の受託開発を手掛けていた。だが、業務系は人件費の安い中国など海外企業との競争が激化しているため、同社は急成長する組み込みソフト市場に着目。組み込みは今や、同社の年商の半分を占める。
松尾社長は「自動車産業の集積は、大きなビジネスチャンスになる」と期待する。福岡県内では、トヨタ系を中心に組み込みソフト開発企業の進出が相次いでいる。同社は、そうした企業との取引を通じて自動車産業に参入したい考えだ。
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自動車産業の“頭脳”拠点を目指す福岡市は昨年12月、官民で「福岡市組み込みソフト開発応援団」を設立した。業務系から組み込みへの参入を促すためだ。
今年2−3月に開講した、コンピューター言語などを習得させる講座には、計16社の若手技術者が参加。このうち4社は4月以降、既に組み込みソフトの開発を手掛けている地場企業で実務研修を受ける。
「応援団」の研修に参加した企業の大半は、自動車向けソフト開発を目指している。ただ、人命にかかわる自動車向けソフトは、「組み込み」の中で も特に高い品質レベルを要求され、ゼロからの参入は容易ではない。同市産業拠点推進課の井上孝和係長は「まずは、参入しやすい通信機器などの分野で実績を 積むのが大事だ」と話した。
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九州経済産業局によると、九州には既に組み込みソフト開発を手掛ける会社が300社程度ある。だが、中央大手の下請け業務が多いため、技術の高度化や受注拡大につながっていない。
同局などは昨年11月、九州の産学官で「九州組み込みシステム協議会」を設立。自治体や大学を含む約260団体・企業が参加し、競争力向上に向けた戦略策定を進めている。熊本や宮崎、長崎各県でも、振興に向けた動きが出始めた。
製品に付加価値を生み出す組み込みソフトは、自動車に限らずさまざまな地場製造業の競争力を高める可能性を秘める。関東、中部、関西など他地域 との競争は厳しいが、九州が存在感を強めるには、地場企業のレベルの底上げに加え、独自性や実力を示す技術開発が鍵になりそうだ。
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