◇抜本的制度改革を日本の高度な産業技術を海外に移転しようと、国際貢献の一環で始められた外国人研修・技能実習制度。しかし、国内企業で働く彼らの実態は「単純労 働者」として扱われることが多い。企業側にとっても、経営を維持するために賃金の安い労働力に頼らざるを得ない実情が背景にあり、最近では制度を逸脱した 外国人受け入れの行為が横行しているという。その一つ、国の認可を受けた協同組合や企業などの受け入れ機関が無認可の企業などに研修生や実習生を違法に派 遣する、いわゆる「飛ばし」の手口を取材した。【松井聡】
昨年11月、福井市内の縫製会社を巡り、大規模な飛ばしと疑われる事件が発覚した。飛ばしや賃金未払いは入管法などの法律に抵触し、法務省入国管 理局から「受け入れ不適格団体」と見なされて、研修生や実習生の3年間受け入れ停止などの処分が下される。同社も04年に実習生への賃金未払いで「3年間 の受け入れ停止処分」を受けた。
それでも、「実習生を受け入れたい」と考えた縫製会社は、工場として使っている自社ビルの管理業務をする会社を新たに設立。さらに、同社で働いていた従業員や関係者に縫製会社計6社を設けさせた。
6社がそれぞれの支店をビル内に出店。うち国の認可を受ける5社が計18人の研修生や実習生を受け入れ、岐阜県内などの縫製会社から飛ばされた人を含め、延べ30人が05年~昨年6月、処分を受けた縫製会社名義で受注した仕事をしていた。
一見すると、受け入れ停止処分を受けた縫製会社は実習生らの雇用に関与しておらず、問題がないようにも見える。しかし、市民団体の外国人研修生問 題ネット福井の高原一郎事務局長は「実態として関連会社はペーパー会社で受け入れ停止を受けた縫製会社が雇用しているに等しい。このようなケースを許せ ば、受け入れ停止処分が何の意味も持たなくなる」と訴える。
一方、処分を受けた縫製会社の社長は「グレーゾーンだが違法だとは思っていない」と言い切る。
不況にあえぐ繊維業界で、中小縫製会社の多くは賃金を安く抑えられる中国人研修生や実習生を雇用しないと、やっていけないのが実情だ。業界関係者 によると、実習生の受け入れ人数は会社規模によって決まっているため、規定を超える人数を受け入れるために、飛ばしが行われるケースは以前からあったとい う。
◆ ◆
今回のように受け入れを停止された企業が、労働力を確保するために行う飛ばしも近年増えてきている。実際に飛ばしをしたことがある経営者は「何の罰則もないため、受け入れ停止処分を受けても、やり方を変えればまた受け入れられる」と話す。
高原事務局長は「制度の崩壊は想像以上に深刻だ。入管が各事案に厳しい処分を下すと同時に、早急に制度自体を見直さないと、会社側がいくらでも実習生を受け入れてしまう」と指摘する。
制度は利益を生まないのが鉄則だが、営利目的で組合の管理業務を代行する「ゼロ次受け入れ機関」の存在が毎日新聞の取材で明らかになるなど、制度に絡んで“金もうけ”をする事案が増えてきているのも実情だ。
中国側の事情にも詳しい同ネットの長谷川清司代表は「制度が利権として定着しつつある。不備だらけの制度につけ込んで、このまま横行すれば、人を動かして金を生む大ビジネスになってしまう。現に送り出し側の中国では完全にビジネスになっている」と話す。
人を動かして、利益を生むのが派遣事業だが、この制度は人材難を補うものではなく、あくまで国際貢献のための制度だ。手遅れにならないうちに、改廃を含めて抜本的な制度改革をしないと、制度が反社会的勢力の資金源になってしまう可能性さえある。
●●コメント●●
0 件のコメント:
コメントを投稿