世界同時好況の後退懸念から市況が悪化し、念願の上場を果たすも「公開価格割れ」が続出するIPO(新規株式公開)マーケット。2008年に入ってから上場した21社のうち、過半数に当たる12社の初値が公開価格割れする厳しい状況だ。
3月13日、東証マザーズに上場したエス・エム・エスは、公募価格23万円の倍近い、45万円の初値がついた。乱高下が続く新興市場で、ひとまず幸先の 良いスタートを切れたことに対し、諸藤周平社長は胸をなで下ろした。同社は2003年4月の設立からまだ5年。平均年齢28.4歳(2008年1月末現 在)の若い社員たちが、高齢化社会に対応したインフラ作りのビジネスモデルを考える。その職場は、活気に満ちあふれている。
高齢化社会に向けたインフラを作る
「シニア・マーケティング・システム」の頭文字を取り、エス・エム・エスと名づけた。「高齢社会に適した情報インフラを構築することで価値を創造し社会に貢献し続ける」が経営理念だ。
事業分野は大きく「介護」「医療」「アクティブシニア」の3つに分けられる。この分野に対して、人材情報や求人情報、資格取得情報などをインター ネット上で提供する。一般的な人材紹介企業とは違い、看護師、准看護師、介護福祉士や薬剤師など、それぞれの専門分野に特化した人材のマッチングや、コ ミュニティーを深めるサイトなど13のウェブサイトを運営する。
例えば介護分野ではケアマネージャー、ホームヘルパー等の介護福祉職に特化した求人・転職情報サイト「カイゴジョブ」、理学療法士・作業療法士な どに特化した転職情報サイトの「ケア人材バンク」、そして介護職を目指す新卒学生向けの情報サイト「ケアガク」などを運営している。同様に、医療分野では 医者や看護師、薬剤師などそれぞれ特化した人材を対象にした転職サイトや、事業者向けに求人サイトを営んでいる。ただ単に情報を載せるだけでなく、全国に 80人を超えるコンサルタントを配し、転職希望者などの相談に応じて、転職先を紹介する仕組みだ。
3年で現場全員が入れ替わる施設も・・・
介護労働安定センターが2006年に全国1万1627の事務所を対象に実施した「介護労働実態調査」によると、介護労働者の離職率は20.3%、 離職率が30%以上の事業者は4軒に1軒の割合だという。入浴介助など、体力的負担もさることながら、それに見合う報酬がもらえないなどの就労環境の悪さ が主因とされている。
「3~5年で現場の人間が全員入れ替わるようなもの。より働きやすい環境を作るためにも、介護福祉士や看護師など現場の人間の情報交換ができるコミュニティーサイトは必要不可欠だ」(諸藤社長)
介護労働者が抜けられると事業者も困り、介護労働者もまた転職先を探さなければいけない。
4000社を超える事業者と取り引きを持ち、国内8万~9万人といわれるケアマネージャーの2割近くの1万6000人が登録する。それぞれマッチ ングがうまくいけば、事業者から対象となる人材の年収の2割に相当する成果報酬を受け取るというビジネスモデルだ。エス・エム・エスの成功から競合他社の 出現や、ほかの人材紹介会社の参入も相次いでいる。「1人の従事者がいくつものサイトに登録することはあまりない。人材マーケットはいかに早く登録者を集 められるかが勝負。先行者利益を守るだけでなく、新しいサービスを提供していかに新たな登録者を増やすかが今後の課題だ。
社員の自発性を高める
エス・エム・エスにはほかの会社と違ったいくつかの特徴がある。
まず、入社1年目の社員には400万円、2年目には500万円の給与(年俸制)を約束している点だ。「初任給から高いのは、それだけプロ意識を持っても らいたいから」(諸藤社長)。きちんとした対価を社員に払うことが、モチベーションアップにつながることをキーエンスで学んだ。かといって、残業や休日出 勤が多いというわけではない。就業時間は遅くとも午後8時45分までと定められており、諸藤社長自身も午後8時には会社を出るよう心がけている。やむを得 ず休日出勤する場合はきちんと報告する義務があり、代休の取得も義務づけられる。「もしも黙って休日出勤したら、減俸処分の対象です」と社員の管理に厳し い。高い給与を支払う代わりに、高い成長を社員にも求める。これが諸藤流の経営術だ。
そして、全社員を対象に行われる「新規事業提案制度」も面白い。これは毎月1度行われるもので、実現の可能性が高いものはすぐにプランニングに移る。実現すれば、提案者が責任者となり、その事業を統括する立場になれるのだ。
1カ月で寄せられる新規事業の提案は100件を超える。これが毎月行われるのだから、新規事業のアイデアが次々と浮かんでくる。「既存の13サイト以外に8の新しいサービスが立ち上げ準備の段階にある」と諸藤社長は胸を張る。 4月中旬からは管理栄養士、栄養士向けのコミュニケーションサイトを立ち上げる予定だ。
介護事業を中心に、事業者と従事者の間で情報が伝わるようにはなってきた。しかし、「理想の職業」となるまでには至っていないのが現状だ。介護・ 医療など、現場で働く人たちの就業環境の改善こそ、高齢化社会の到来に向けた最も求められている改革だと言える。「時間はかかるかもしれないが、一つずつ でも壁を壊していきたい」――。介護や医療業界の問題をどこまで改善できるのか。高齢者社会が現実になった今、市場と社会の期待は高まっている。
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