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先進国のビール市場が低迷する中で、世界一の消費量を誇り、潜在的な市場性の高さが見込まれる中国に世界のビールメーカーが熱い視線を注いでいる。この中国市場において、日本企業はどのような戦略を展開していったらよいか考えてみたい。
著しい成長を続ける中国ビール市場
日本国内のビール市場は減少の一途を歩んでいる。ビールに発泡酒を加えた国内出荷数量は、1994年のピークの726万キロリットルから、2008年には新ジャンルを加算しても611万キロリットルに落ち込んでいる。今後の少子・高齢化を考えると、日本国内での成長を望めないことは明らかである。
一方、中国に目を転じると、ビールの消費量は2003年にアメリカを追い抜いて、その後も成長を続け世界一の座を保っている。2007年の消費量は 3913万キロリットルで、対前年増加率は11.8%にもなっている。日本(628万キロリットル)の6.2倍であり、その市場規模と成長性に驚くばかりである。この成長性がまだまだ続く可能性が高いのは、消費量が世界一にも関わらず、一人当たりの消費量が世界で55番目と低いからである。
もちろん、中国は広く、地域によって消費量などに違いが出てくる。東北三省、上海近郊、広州などはかなりの消費量が見込まれる地域であり、今後の経済発展が期待される内陸部も魅力的になるかもしれない。また、ビール市場は一般的に、高価格帯のプレミアム、中価格帯、それからローエンドの低価格帯から構成される。上海などの大都市では、所得水準の向上に伴い、低価格帯が減少し、中価格帯の割合が増えることが予想される。まだ、プレミアムの割合は低いが、これも業務用の市場を中心に増えてくるであろう。
スピード感溢れる戦略展開
ビール業界における企業の戦略行動を見ると、M&Aなどドラスティックな展開が繰り広げられている。現在、世界第1位のアンハイザー・ブッシュ・インベブは、ベルギーのインベブがバドワイザーで知られるアンハイザー・ブッシュを買収したものである。2位のSABミラーも米国のミラーが南アのSABに買収されて出来た企業である。このような戦略が取られる大きな理由は、規模の経済とブランドの大切さにある。前者は、ビールという商品自体の価格が低く、どうしても生産・販売を拡大し単位当たりコストを低くせざるを得ないからである。パッケージで使われる素材や原料の共同購入などの手を打って、出来る限りコストの削減に努めている。後者は、やはり消費者に人気のブランドを一瞬のうちに手に入れることが出来るからである。
このような企業の戦略展開は中国市場でも例外ではない。確かに、中国では地場のビールメーカーが沢山あるが、ピーク時に800社ほどあった企業が、M&Aなどにより、現在は 300社ほどになっている。しかも、大手企業による寡占化が進行中である。2006年に、著名な青島ビールを抜いてトップに躍り出たのが華潤雪花ビールである。中国市場で17.8%のシェアを誇っている。この企業は1993年に華潤集団とSABとの合弁で出来た企業であり、販売量1位の雪花ブランドを持っている。日本人には余り知られていないが、SABミラーが中国のローカルブランドを資金面で強烈に支援して強力なブランドに仕立て上げてきた。第2位は、青島ビールで13.2%のシェアを占めている。第3位はアンハイザー・ブッシュ・インベブで11.9%、第4位は北京燕京ビールで10.3%のシェアとなっている。
ビールの価格が先進国に比べてかなり低い中国市場では、より規模の経済を求めて、M&Aのような戦略がスピーディに展開されてくる可能性が高い。
中国市場を熟知したブランディング戦略が鍵
潜在的な市場性の高さ故に、中国企業と外資企業が競争と協調の渦の中で入り乱れた戦いをしている。このような市場で日本企業はどのような戦略を実践していったら良いのであろうか? 基本は、日本企業の強みである技術開発力や生産・品質管理面でのレベルの高さを活かし、中国でのブランド力を高めていくことである。そのためには、まずは商品づくりの核となる味の問題への対応である。
中国からの留学生が、日本のビールは苦いとよく言うように、中国のビールの味は薄くさっぱりしている。味の感覚は食文化を背景に出来上がっているので、中国人の嗜好に合うものを提供する必要がある。また、チャネルや販売促進の面でも中国市場をよく熟知した現地のパートナーとの連携は不可欠である。このような総合的な努力を通じて、中国市場へブランドを浸透させていかねばならない。
日本の企業では、1984年にサントリーが先陣を切って中国市場に参入して、長い年月をかけてブランドを創り上げてきた。上海に焦点を絞り、爽やかな味の商品を大衆価格で提供し、流通経路の短縮や販売促進の工夫などで、約50%と高いシェアを獲得している。今後、所得水準の向上に伴い、プレミアムの商品での競争優位性をどう創り上げるか、さらには、上海以外の進出をどうするか気になるところである。
キリンビールは1996年に中国に進出し、東北三省、長江デルタ、珠江デルタを重点地区として、堅実に事業展開を図っている。この企業にとって、事業領域の広さという利点をブランドの確立にいかに役立てていくかが課題であろう。今後、サントリーとの経営統合に向けて、中国市場での両社のシナジーの発揮が期待される。
アサヒビールは、1994年に中国に進出し、5年後に青島ビールと合弁で深センに工場を設立し、今年の4月には青島ビールに19.99%を出資し、連携を強化している。出資比率が気になるが、青島ビールの生産拠点、販売網を活用して中国全土にいかにアサヒのブランドを浸透させていくか注目される。その際に、中国流にアレンジしたインパクトある新たなブランドの投入が必要になるかもしれない。(執筆者:池島政広 亜細亜大学大学院アジア・国際経営戦略研究科委員長・教授 編集担当:サーチナ・メ
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2009-12-09
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