2009-12-15

活性化する水取引市場と中国の水危機を商機ととらえるGE、IBM

:::引用:::
 2009年11月、中国の武漢市で開催された「第13回世界湖沼会議」で発表された資料によれば、「中国では過去50年間に1,000カ所の内地湖が消失した」という。開催地の湖北省は歴史的に「千湖の省」と呼ばれるほど湖水の豊かな地であった。しかし、現存する湖沼面積は1950年代の34%に過ぎない。しかも、中国全体の淡水湖の生態は富栄養化が進み、危機的状況にあるという。

 こうした汚染された湖水を浄化するには長い時間と莫大な資金が欠かせない。実際、中国政府は2010年までに1兆元(約15兆円)を投入し、水環境の改善と整備に取り組んでいる。こうした水浄化に欧米やアジアの水関連企業は新たなビジネスチャンスを見出そうとしているわけだ。

 また、アメリカのIBMは現在、次世代送電網として注目を集めている「スマートグリッド」の概念を水ビジネスに応用しようと考えている。その手始めに地中海に浮かぶ島国マルタにおいて全水道メーターを遠隔監視、制御ができる機種に置き換え、水の使用量をリアルタイムで把握することを狙う。給水量を常に最適な水準に調節しようとする試みに他ならない。IBMで水ビジネスを統括するキャメロン・ブルックス氏は「石油に比べ水は利用の効率が悪い。ITを活用した資源管理で新たなビジネスを発掘したい」と語っている。

 GEやIBMという世界に冠たるアメリカ企業が従来の業態を換骨奪胎し、水ビジネスという新たな水域に参入を試みているわけだ。日本企業は、水処理の要素技術では技術的な優位性を誇ってはいるものの、装置販売に限定した取り組みの域を出ておらず、アメリカ企業やヨーロッパのベオリア・ウォーターやスエズなど、資金調達から施設の建設、運営管理、そして料金徴収までをもカバーする総合的な水ビジネスを営む巨大水メジャーと比べれば、その存在感は極めて限られたものでしかない。

 水管理ビジネスは今後、中国のみならず世界で急成長が確実視されている分野である。日本は水道管の漏水率の低さでは世界最高レベルを維持している。また、海水の淡水化に欠かせない逆浸透膜の技術や海水淡水化用のポンプ、そして純水製造装置など、先端分野に関してはいずれも世界のトップシェアを占める企業が数多く存在している。しかし、水ビジネスに関する総合力という点では残念ながら見劣りしているのが現実である。

 急成長を遂げる水ビジネスをどのように日本経済の再生に役立てることができるのか。この分野こそ日本が官民一体となり、世界にその進んだ技術とモラルの高いサービスを提供できるというメリットを存分に生かし、深刻化する環境問題への切り札ともなる外交とビジネスの戦略的連携を目指してもらいたいものである。汲めども尽きぬビジネスチャンスが水関連技術には秘められている。
(了)

【浜田 和幸(はまだ かずゆき)略歴】
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 国際未来科学研究所代表。国際政治経済学者。東京外国語大学中国科卒。米ジョージ・ワシントン大学政治学博士。新日本製鉄、米戦略国際問題研究所、米議会調査局等を経て、現職。

 ベストセラー『ヘッジファンド』(文春新書)、『快人エジソン』(日本経済新聞社)、『たかられる大国・日本』(祥伝社)をはじめ著書多数。最新刊は『ノーベル平和賞の虚構』(宝島社)。近刊には『オバマの仮面を剥ぐ』(光文社)、『食糧争奪戦争』(学研新書)、『石油の支配者』(文春新書)、『ウォーター・マネー:水資源大国・日本の逆襲』(光文社)、『国力会議:保守の底力が日本を一流にする』(祥伝社)、『北京五輪に群がる赤いハゲタカの罠』(祥伝社)、『団塊世代のアンチエイジング:平均寿命150歳時代の到来』(光文社)など。
 なお、『大恐慌以後の世界』(光文社)、『通貨バトルロワイアル』(集英社)、『未来ビジネスを読む』(光文社)は韓国、中国でもベストセラーとなった。『ウォーター・マネー:石油から水へ世界覇権戦争』(光文社)は台湾、中国でも注目を集めた。
 テレビ、ラジオのコメンテーターとしても活躍中。「サンデー・スクランブル」「スーパーJチャンネル」「たけしのTVタックル」(テレビ朝日)、「みのもんたの朝ズバ!」(TBS)「とくダネ!」(フジテレビ)「ミヤネ屋」(日本テレビ)など。また、ニッポン放送「テリー伊藤の乗ってけラジオ」、文化放送「竹村健一の世相」や「ラジオパンチ」にも頻繁に登場。山陰放送では毎週、月曜朝9時15分から「浜田和幸の世界情報探検隊」を放送中。
 その他、国連大学ミレニアム・プロジェクト委員、エネルギー問題研究会・研究委員、日本バイオベンチャー推進協会理事兼監査役、日本戦略研究フォーラム政策提言委員、国際情勢研究会座長等を務める。
 また、未来研究の第一人者として、政府機関、経済団体、地方公共団体等の長期ビジョン作りにコンサルタントとして関与している。
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