高校の工業科の教師が、ものづくりの現場で長期研修を積む。
ヘルメットに作業服姿の男性2人が、工作機械メーカー中村
社員の指導を受けながら、宮前教諭は、マイクロ・メートル(1000分の1ミリ)単位で機械が正確に動くかどうかを確かめるため、測定器を機械の中に取り付ける。一谷教諭は、機械が削った金属が、仕様どおりの寸法かどうかを確かめる。温度によってサイズが変わらないように、工場内の室温は常に23度に設定されている。
2人は9月から11月末までの3か月間、同社で研修を受けている。作業の流れを教わるだけでなく、コンピューター制御の複合旋盤や昔ながらの旋盤を使い、実際に金属を加工する実習の時間もある。
旋盤技術を教師になってから独学で身につけた宮前教諭は「知らないことだらけ。学校ではミリ単位の精度を出すのも大変だが、せめて100マイクロ・メートルの精度で作れるようにしたい」。
石川県教委が工業高校教諭を企業研修に派遣し始めたのは昨年度から。対象は機械系の学科がある8校の若手、中堅教諭。日進月歩で変化する専門的な技能を身につけてもらうとともに、その基礎となる旋盤の職人技を教わり、学校で生かすのが狙いだ。
2人ずつ年3回、中村留に通わせる。3年間の事業で計18人が受講する。研修中は、臨時講師が授業を受け持つ。
受け入れ側の中村留の負担は大きい。指導役には専任の社員がつく。少なくとも1年に9か月は社員が取られることになる。県教委と一緒に研修カリキュラム作りに知恵を絞り、教師が試作する金属模型の材料費も会社負担だ。
それでも受け入れるのは「今の教育に風穴を開けたいからだ」と村本英二工場長(58)。「大学に進学できないから働くという工業高校の生徒が増えてきているが、企業は優秀で意欲を持った技能者が欲しい。先生にはその気になってもらわないと困る」と語気を強める。
村本さんに言わせると「学校の先生には教養はあるが、品質やコスト、納期を念頭に置いた実際のものづくりの知識がない。ペーパードライバーが運転を教えているようなもの」。現場経験から、社会がどのような人材を求めているかを体感させたいという。
これまでの研修修了者からは「今の企業がどうなっているか、体験をもとに授業ができるので指導しやすくなった」「就業規則や現場での服装、安全についての指導など、体験した実社会の厳しさを進路指導で役立てたい」といった感想が届いている。
「先生の考えが変わってくれれば、研修は成功」(村本さん)。長期研修は教師の意識改革にもつながっている。(山田睦子、写真も)
工業科の教員免許取得 文部科学省が認定する大学の学科で特定の科目を履修することが必要。機械システム工学、電気電子工学、生命工学など、様々な学科が科目を開設している。旋盤操作など、学習指導要領にある内容は、少なくとも2単位以上の履修を課しているが、実際に旋盤に触れて実習を行っているかどうかは大学によって異なる。
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