【ローマ藤原章生】イタリアで9月以降、アフリカ人や中国人が被害に遭う殺人、傷害事件が連続して発 生している。激しやすい加害者による衝動的な暴力という面もあるが、経済悪化も重なり「ラチズモ(人種差別)」という言葉がマスコミで多用され、人種差別 に反対するデモが各地で起きている。
事件はまず9月14日未明、北部ミラノの雑貨店で起きた。イタリア人店主の父子(51歳と31歳)が、店に来たアフリカ系の男性(19)の万引きを疑い、口論の末、鉄パイプで頭部をめった打ちにし殺害した。
男性は両親が西アフリカ・ブルキナファソから移住したイタリア生まれだった。
父子は男性を殴る際「汚い黒人泥棒」などと叫んでいたとの目撃証言がある。
4日後の18日、今度はナポリ北方のカステル・ボルトゥルノで、路上にいたガーナ、トーゴ、リベリア出身の男性7人がバイクで近づいた男たちに銃撃され死亡した。
地元警察は犯罪組織カモッラによる麻薬密売の縄張り争いと発表したが、地元住民が「アフリカ人差別だ」と怒り、暴動になった。
今月2日には、ローマ郊外で、中国人男性(37)が10代前半の少年7人に殴られた。
加害者がイタリア人、被害者が外見の違う外国系という構図から、国内メディアは一斉に「人種差別」と結論づけた。しかし、事件には、商売上のトラブルや縄張り争い、少年の非行という側面もあり、憎悪や恐怖が絡む「人種差別」と結論づけるのはそう簡単ではない。
それでもイタリアでは「人種」が繰り返し語られ、学生や左翼勢力の手で反差別デモが起きている。こうした反応の激しさは、外国人労働者に対する社会の過敏さ、戸惑いを映し出している。
◇今後も悪化必至--カルロ・モンガルディーニ・ローマ大サピエンツァ校教授(政治科学)の話
イタリアでは人種絡みの事件の裏で、ファシズムを見直す声が聞かれる。アレマノ・ローマ市長が「ファシズムには良い面もあった」と発言するなど、ムソリーニ政権を再評価する言動が目立つ。
これは、現状をまともに語れない政治家がファシズムを持ち出し、大衆の関心を引いているだけだ。ファシズムや人種差別についての軽はずみな議論が、国民に将来への不安や脅威をもたらし、差別的な事件を起こさせている。
「人種差別」は今後、経済悪化でますますひどくなる。中国やインド、東欧などの成長が、イタリア経済を低迷させ、この国のモラルなど文化面を壊し、デカダンス(退廃)の時代に入る。西欧で最も力の弱いイタリアで真っ先に差別的な事件が増長していくだろう。
毎日新聞 2008年10月17日 東京夕刊
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