2008-10-07

インドネシアから研修生 期待 外国人の看護・介護職 不安

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 病院や介護施設にインドネシアからのスタッフがお目見えする。経済連携協定(EPA)に基づく看護師と介護福祉士の候補者205人が第一陣として7月に来日した。6カ所の研修センターで半年間日本語を学び、来年2月から病院や老人ホームなどで働く。人手不足を補えると期待が寄せられる一方で、日本人の労働環境を脅かすのではないかと心配する声もある。 (鶴加寿子)

 ■人手不足を解消/条件は?技量は?

 福岡市早良区の福岡記念病院は、全国で最も多い五人を受け入れる。大塚量(はかる)理事長は「インドネシアの看護技能レベルが分からないという不安はありますが、国際的な人材育成に協力するため決断しました」と話す。

 5人は25歳から31歳の男性で、インドネシアで2年-4年、看護師として働いた経験をもつ。福岡記念病院は、5人の渡航費や研修費など300万円ほどを負担した。

 黒崎淑子(としこ)看護部長は8月初旬、彼らが研修を受けている大阪市に出向いて面談した。5人とも日本語はほとんど話せなかったが「看護への熱意を感じました」と好印象を持ったという。「外国人ということで戸惑う患者さんもいるでしょうが、適性を考慮して担当を割り振りたい」という。

 病院はイスラム教徒の五人のために礼拝する場所を設けるほか、近くに住むインドネシアからの留学生に困ったときは相談に乗ってほしいとお願いするなど、受け入れ態勢を整えつつある。

 九州・山口では、福岡記念病院を含む10施設が24人を迎え入れることになっている。

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081006news.jpg 厚生労働省などによると、EPAの目的は「自由貿易の促進」にある。インドネシア側が関税引き下げなどとともに労働市場の一部開放を求め、日本政府が応じた。出稼ぎや安価な労働力にはしないという方針を掲げている。

 第一陣の大半は20代で、6割強は女性。全員がインドネシアの看護師資格を持つ。半年間の研修で日本語と看護・介護の基礎を学んだあとは、病院や施設で日本人と同等の給与で働きつつ日本語による国家試験を目指す。看護職は3年以内、介護職は4年以内に合格すれば、いつまでも就労できる。ただし受験機会は看護職は3回、介護職は1回に限られる。

 関係者によると、インドネシアでは看護師資格を持っていても、病院や施設への就職は極めて狭き門という。日本では、母国の10倍の給与をもらえる。

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 日本側のメリットとして、人手不足の解消を期待する見方がある。九州大学アジア総合政策センターの大野俊教授(東・東南アジア学)は、介護現場の離職率が21・6%(2006年)に達するなど看護・介護現場の恒常的な人手不足を指摘し「外国人がカバーしてくれるかもしれない」という。

 インドネシアだけでなく、日本政府は06年にフィリピンともEPAを締結している。フィリピン上院での審議が遅れて発効されていないが、日本国内ではフィリピンからの人材受け入れにも期待する声が聞かれる。

 ただ、大野教授が現地の学生らにインタビューしたところ、日本での就労には消極的な意見が多かった。フィリピンはインドネシアと異なり、同じ英語圏の米国や欧州に年平均1万人の看護師を送り出している。日本語を一から学び、国家試験に通らなければ帰国しなければならないという条件は「ハードルが高い」というのだ。

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 インドネシアからのスタッフを受け入れる日本国内の病院や施設も、歓迎の声ばかりではない。「日本人と同じ給与を払うメリットはない」「一通りの日本語は身につけても、患者さんが訴える体の痛みや孤独が理解できるだろうか」など批判や不安がある。

 ある介護福祉士は「離職率の高さや人手不足の原因は低賃金や過重労働なのに、そこを解決することなく外国からの労働力に頼るのは本末転倒。私たちの労働条件も改善されない」と憤る。

 インドネシアからの看護・介護職候補者の受け入れ枠は、来年までの2年間で1000人。九大の大野教授は「グローバル化と国内の少子高齢化の進展で、今回に限らず、外国人スタッフを受け入れなければならないようになる。優秀なスタッフを集めつつ、患者とのトラブルが起きないよう、労働環境や受け入れ態勢を検証していく必要がある」と指摘している。

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