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「デジタルドカタ」や「35歳定年説」などいった言葉がエンジニアを取り巻く日本のIT業界。そしてそれに追い打ちをかけるかのように、現在日本のエンジ ニアは国家戦略でエンジニアを育成しているインドやロシアなどに対して、技術力で太刀打ちできない状況にまで追い込まれています。また、日本マーケットに 対して、唯一の強みであった「日本語ができること」の優位性も、日本語を習得した海外のエンジニアによって日々薄れつつあるのが現状です。
今回は40歳よりも後の展望が一気に見えなくなる日本のエンジニアのあり方を根底から変え、世界に通じるビジネスパーソンに育て上げることを掲げ、日夜突き進むエンジニア集団「ヘッドウォータース」にインタビューしてみました。言われるままに開発を行い、自分のキャリアプランに不安を持つ人、「エンジニアの地位を向上させたい」という想いを持つ人は必見です。
詳細は以下の通り。GIGAZINE(以下、Gと省略):
「IT業界を根底から変える!」と宣言され、実際にぐんぐんと実績を伸ばしていますが、このビジョンの裏側にはどのような思いがあるのでしょうか。
篠田:
もともと私は大学を3年で中退してから40歳になる今まで、さまざまな事業を手がけてきたのですが、30歳くらいからIT業界にシフトしていきまして、パッケージソフトの開発・販売等を手がけていました。
その中でエンジニアの方と多く触れ合い、日本の大多数のエンジニアたちが40歳以降に仕事に就ける場所が極端に減るという現状と、理系の方が文系よりも生 涯収入が5000万近く低いという事実を知るうちに、彼らが40代でどう生きるのか、50代ではどう生きるのかといったことや、彼らが生涯ご飯を食べてい くにはどうしたらいいのかという課題にぶつかりましたね。
G:
どうしてそのようなことが起こってしまうのでしょうか。
篠田:
40歳以降で必要とされる、収益のバランスを考える能力や、新規ビジネスを立ち上げる能力、マーケティングなどの観点を含めて技術を生かすという管理職と しての能力を身につける機会がエンジニアに欠けているためでしょうね。実際に日本では理系出身の経営者が2割弱しかいません。
確かに技術のみを手掛けても30代後半くらいまでは比較的給料は良いですが、技術も時代によって変わりますし、自分が習得した技術で生涯ご飯を食べていく のは難しいと思います。さらに技術革新のスピードは上がっているため、現状ではエンジニアが40歳以降に、それまでに習得した技術で食べていくのはより困 難になっています。
G:
確かにかなり厳しい感じがしますね。
◆日本人が誇れる能力をビジネスに活かすことがエンジニアの生き残る道
篠田:
私はバブルの崩壊もITバブルの崩壊も経験してきていますので、大手企業であっても市況が傾けば数千人単位のリストラを行って会社を建て直すところを見てきました。
今はまだ比較的市況が良いのでエンジニアを積極的に採用して収益を上げている企業が多いのですが、大多数のエンジニアに将来へのキャリアパスが作られてい ない状態で、これから悪くなる可能性が高い市況の中、エンジニアがどうやって生き残っていくのかという答えをどの企業も持っていません。
さらに、少し大きな話になりますが、食糧自給率も低くて資源もない日本が未来にどうやって生きていくのかを考えたときに、私は日本が技術以外でほかの国に太刀打ちできるものは無いと考えています。
G:
なるほど。
篠田:
しかし「人材として一番優秀な層がエンジニアにならない」日本の現状を考えると、頭の良い上位層の人間をプログラマーとして育成しているインドや中国、ロ シアなどに勝つためには、日本しかできないことを持てない限り、日本は先進国として豊かなままでいることはできないのではないでしょうか。
例えば弊社内でインド人の一般的なプログラマーとベテランの日本人プログラマーを組ませて開発をさせると、残念ながらインド人のエンジニアは、単純なプログラミングであれば日本人の倍近いスピードで開発をします。それでもインドに行けば、そのエンジニアは最低レベルです。
ただし日本の強さというのもあります。それは日本人の国民性といったものに起因します。例えば、海外の携帯電話は「システムが停まったら再起動すればい い」というスタンスで作られているため、フリーズもよくします。一方、日本の携帯電話は家電として進化して来たこともあり、システムが止まる事が許されま せん。これは製品に対するスタンスの違いです。
何か1つの製品を妥協無く作り込んでいく能力では、日本人が世界の中で突出していると思います。そして、その日本人エンジニアが世界の中で担うべきパートは、ビジネスにおける最上流だと思われます。完成品をイメージ、品質に一切妥協を許さず、他国のエンジニア達も指揮しながらビジネスを作り上げていく上で日本の強みは活かせるはずです。
G:
つまり最終段階を日本人エンジニアが担当するべきということでしょうか。
篠田:
そうですね。設計やプログラムをインドに、製造は東南アジアに任せるなどして、最終的に日本人のエンジニアが統括して、つまり最上流の部分をを担って製品を作り上げていくのが、日本のエンジニアが生き残る手段だと考えています。
しかし今のエンジニアではリーダーシップを取り世界で戦う為にはひ弱すぎます。そこで、最上流でビジネスを仕掛けられるビジネスパーソンとして「エンジニア」という存在自体を革新しないといけない、というのが僕がヘッドウォータースを創った理由であり、目標です。G:
「今のエンジニアのあり方を根底から変える」ということでしょうか?
篠田:
今現在、大半の日本のエンジニアは誰かが決めたビジネスやサービスのためのプログラムやシステムを作ることを請け負う仕事をしています。エンジニアがもっ と自らマーケティングやマネジメントを勉強し、会社の経営というものを理解し、その上で技術を使った新しいサービスや製品、ビジネスモデルを提案・実行す る必要があります。
エンジニア達は40歳以降、ビジネスをコントロールする側に回らなければなりません。このキャリアパスを実現し、エンジニア達を世界に通じるビジネスパーソンに育て上げるというのがヘッドウォータース設立の理念です。
G:
「ヘッドウォータース」という名前に込められた具体的な意味はありますか?
篠田:
「源流、最上流」という意味ですね。これには2つの意味があります。1つは自分たちが最上流に位置し、新しいビジネスモデルを仕掛ける側にまわろうという 意味。もう1つは、かつて無謀だと言われながら大リーグ進出を果たした野茂英雄のように、ヘッドウォータースという会社自体がモデルとなってエンジニアの 未来像の源流となるという意味です。
将来的に大学生たちが「金融をやるよりは日本の将来を担うエンジニアになりたい」と思うようにしていきたい。所得も仕事の発展性も、将来の高い地位もエンジニアになる事が一番近道であると言う社会を作り、日本の国際的な競争力を根底から支えたいと思います。
◆ビジネススキルを磨く独自の「事業部制度」
G:
壮大なビジョンを掲げて新しいことを推し進めるという打ち出し方は、多くのベンチャー企業もあたりまえのように行っていることだと思いますが、ヘッドウォータースの他の企業との差別化できるポイントはどこにあるのでしょうか。
篠田:
制度的には管理会計を導入した「事業部制」があります。自分で「やりたい」と手を挙げた人間が事業部長となり、社内の人間を集めて「事業部」を作る制度で す。各事業部長はメンバーや自分の給料や、事業モデルも自分で決定しますので、営業も自分達でやらなければなりません。自分たちがやるべき仕事や、自分た ちが積むべきキャリアを自分達で定め、将来の戦略に合わせて選べるようになっています。
また、入社時に新入社員は事業部を選べますし、逆に事業部長が新入社員を拒否する権利もあるので、上司も部下も自分の責任で選ぶ事が可能です。開発の大枠の分野も事の時に選べます。事業部には一定以上の経常利益を出すことを課せられていますが、あとの一切は自由です。事業部長は自分の給料を自分で決めることができます。100人以上のメンバーがいますが、1人1人の給料も11人の事業部長がそれぞれ決定します。最終的には役員と事業部長の会議での承認が必要なりますが、実績や報酬もオープンに話し合われるので、アンフェアにはなりません。また、自分が出した実績が脚光を浴びないこともありません。
G:
非常に自由な社風であるところが他社と異なるのですね。
篠田:
自由ではありますが、各事業長にはその分重責がかかりますね。これも全てエンジニアをビジネスパーソンとして育て上げるためです。エンジニアたちが「ビジネスパーソンであろう」という意識を持ち、積極的に営業にもマネージメントにも取り組む姿勢が現状での強みといえます。
ほかにも海外と連携した開発に強みがありますね。英語対応可能な事業部もあり、インドやベトナムにも積極的に進出しています。おかげさまで求人情報サイト に経験者の求人告知を出すと、最近では100名近くの方が応募されてきます。経験を積んだエンジニア達が未来を真剣に考え始めた兆候だと思いますね。
G:
オフショア開発の目的は何なのでしょうか。
篠田:
「労働力を安く使えるから」として他国のエンジニアを使うのは、他国の貧困が前提となるモデルとなるので、あまりワクワクしません。ある意味、日本と戦後 日本の経済成長を保護したアメリカのような関係をアジア諸国と築ければ理想です。アメリカは戦後の日本を保護し、日本が経済成長を実現し富と得たので、ア メリカが赤字を抱えた時に日本は大量に米国債を購入に支援しました。搾取よりもお互いが繁栄した方が、双方のメリットは大きいはずです。ですので例えばベ トナムに進出するにあたっては、ベトナム人の国民性を活かし、アジアの中でコスト以外の競争力を持つ産業を作りたいと思っています。
そして日本が戦後これだけの経済成長を遂げた原資の一つは終身雇用制度だったと思います。一つの組織に生涯所属する前提があるので、自社に対するロイヤリ ティーを高め、技術を蓄積し後輩の指導にも熱が入ったのだと思います。これにより製造において他国に優る組織を日本企業群は実現しました。海外の風潮とし てよくある、目先の給料のために転職を繰り返して個人の所得を最大化しようとするよりも、組織で勝利した方が最終的な所得も高く貯蓄なども出来ることは現 在の日本とアメリカを比べれば明らかです。私は日本以外で組織に対する帰属意識を強く持てる国はベトナムだと感じているので、日本に圧倒的な競争力をもた らした「終身雇用」という文化をベトナムに根付かせたいですね。
G:
日本だけにとどまらない、かなり大きな目的ですね。
篠田:
やはり新しい文化や潮流を創った会社が結果として社会的に必要とされる大きな会社となると思いますし、どうせやるのであれば儲けるだけではなく、社会の一 部を作りたいですね。本来、これがビジネスの醍醐味じゃないかと思います。アジア各国にはそれぞれの特性がありますので、それを生かしてアジア全体が豊か になっていく。こういう未来を実現したいです。これがアジア戦略の基本です。
利益は良い仕事をして良いビジネスをしていたらそれなりには付いてきますよ(笑)最近リーマン・ブラザーズが破綻しましたが、これはサブプライムなどの刹 那的に利益を得る錬金術的なモデルを追求しすぎた結果だと思います。優秀な人間が何かを生み出す、人を幸せにする、といったビジネスの本質的な部分からは ずれ、錬金術に走った結果が現在の金融破綻につながっている気がします。私は何かを作る、何かのサービスを提供し、人々を豊かにする事で経済発展を目指していく社会を作りたいですね。
G:
実際にご自身で海外事情などに目を向けられて、感じていることはありますか?
篠田:
例えばインドのビジネスマンはスキルを上げ、自分の価値を上げるためにアメリカなどの他国に当然のように向かいます。技術力もさることながら精神的にタフですね。相対的に見ると、日本のエンジニアのひ弱さを強く感じざるを得ません。
G:
会長から見て、ヘッドウォータースでエンジニアが身に着けられる圧倒的な優位性は何でしょうか?
篠田:
自分の力を試すために、30歳を前後のエンジニアが大手企業を退職してヘッドウォータースに入社するケースが多いのですが、実際にいろいろなプロジェクト に投入しても、技術力、人間性ともに高い評価を頂いております。この仲間達に揉まれる事で自分の価値が上がることは間違いありません。
そして一般的には開発者として通用しない年になっても、技術に精通した優秀なビジネスパーソンとして活躍できる姿を目指しているのがヘッドウォータースな ので、未来に迷い無く進む事ができます。苦労は必要ですが、技術が分かって海外にも通用しビジネスができれば、社会の中に居場所は必ずあります。全社を挙 げて、この未来を目指す環境がヘッドウォータースのエンジニア達の圧倒的な優位性となるはずです。
G:
失礼を承知でお聞きしますが、ヘッドウォータースの顔は篠田会長であり、存在感が非常に強いのですが、外部からワンマン経営だというイメージを持たれることはないのでしょうか?また、社内での会長のスタンスはどのようなものなのでしょうか。
篠田:
私はこれまでいくつかの会社を立ち上げて来ましたし、試行錯誤の末に色々な組織を作りました。例えばワンマン経営の会社であれば、創業当時は圧倒的に強い 組織になります。私の意志の下で統率された組織を作る技能には自信があります。しかし、そのような会社で育ってきた人材は、あくまで決められた枠の中で動 く人間でしかないので、私という枠を超えて、経営者レベルの人材として活躍できる様には育ちませんでした。
逆に放任してきた会社の方は、創業当時の業績は低迷し、ボードメンバー達は飯も食えなくて困りましたが、後に経営者として活躍できる人材を数多く輩出しま した。ヘッドウォータースは後者の組織をベースでイメージしています。今まで作って来た組織の集大成となる、さらに進化した形態を目指しています。経営者 として海外と連携したビジネスを行うようなダイナミックな動きに関しては、自分の責任の下に主導をしていきます。しかしあとは放任ですね。「ペーターのい ないアルプスの羊」のようなものです(笑)
G:
最後に、この記事を読むエンジニアの方々へのメッセージをお願いします。
篠田:
ヘッドウォータースという会社の存在自体が、1つのメッセージでもあります。間違いなくこれからの市況はエンジニアにとって厳しいものになります。同時に 製造業がそうであったように、日本の国際化が進み開発ツールなども進化すれば、システム開発の世界も空洞化していく可能性が高いと思われます。
先ほど挙げたインドやロシアだけでなく、例えば中国の場合は漢字文化なので日本語に対する対応力は世界一高く、1年もあれば日本語環境で開発するようにな ります。その上賃金が圧倒的に安いので、遠くない未来に日本人エンジニアに日本語ができることによる優位性は希薄になります。
ただ、ここで日本のエンジニアたちにうなだれて欲しくないのです。日本は技術で生きていく国ですから、この技術を支える日本のエンジニア達は「日本を背負っているのは我々だ」という誇りを持って下さい。し かし、アジア諸国の台頭や産業の空洞化などにより、厳しい未来が近づいていることも事実です。この未来に対応して日本のエンジニアたちは進化をしないとい けない。激動の時代において、日本のエンジニアたちも自らの過去を否定し新しい姿へ革新していかないと生き残る道はありません。我々にはその底力があると 信じて疑いません。
日本中のエンジニアの未来を創るために立ち上がったのがヘッドウォータースです。我々を必要だと感じる方は是非気軽に遊びに来て下さい。
G:
ありがとうございました。
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2008-10-23
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