最近、東京の秋葉原にあるデジタルハリウッド大学を見学した。
JR秋葉原駅のすぐ近くにある高層ビルのワンフロアをキャンパスとした同大では、これまで私が知っている日本の大学とはかなり異質な何かを感じた。 廊下とも玄関ホールともいえるスペースでは、学生がそこここでノートパソコンを囲んで何か夢中に議論している。壁には学生や先生の作品がいろいろと張って ある。総ガラス張りの教室の中では、学生たちが先生の講義を聴きながらパソコンでCGの絵を作っているか、グループで何かに取り込んでいる。日本の大学の 教室でよくみられる居眠りしている学生や私語に夢中な学生はここにはいない。静かな熱気がガラス越しに伝わってくる。普通の日本の大学と違うその何かがわ かった。つまり勉強に対する学生の真剣さなのだ。
デジタルハリウッド大学は、デジタルコンテンツ業界における技術・知識の教育と、国際的な舞台で活躍できる人材の育成を目的として、2004年に大 学院、2005年に大学を開校した。具体的にはアニメ・映画・Webコンテンツ製作の専門人材を育てる大学である。文部科学省認可の株式会社大学第1号と して注目されている。
母体は、94年よりデジタルコンテンツクリエーター養成スクールを運営してきたデジタルハリウッド社で、日立製作所、内田洋行など複数の企業が出資 している。そのほかにパートナー企業として、IT、マルチメディア企業なども多数参加し、求人やカリキュラムの共同開発、インターンシップ、課題提供など を行っている。
デジタルハリウッド大を見学しながら、日本の地方の私立4年制大学に勤めている中国人の友人W教授の話を思い出した。W教授は毎年数回中国の出身地 や東北に行く。「学生を募集に行くのだ。ノルマとまでは言われていないが、まあ、実際はそれに近いプレッシャーを感じている」と友人はぼやいた。地方の無 名大学が定員割れによる衝撃を真っ先に受けているからだ。
日本私立学校振興・共済事業団(私学事業団)が短大を含め900校以上を対象に調査を行った結果、大学の厳しい経営事情が明らかになった。06年の 大学入試で、定員割れに陥った4年制私立大学の割合がこれまで最も高かった2001年度の30.2%より、一気に10.2ポイントも増え、過去最高の 40.4%に上り、初めて4割を突破した、という。特に地方の大学では、定員割れの状況が厳しいようだ。
生き残りのために、多くの大学が中国から学生を募集することに力を入れるようになった。少子化による定員割れを心配していない東京大学までが、広告 会社と共同で中国人留学生向けの育英基金を設けたり、北京に同大の代表所を設置するなどして、中国から学生を集めようとしている。このことは、定員割れに 慄く私大にいっそうの危機感に与え、中国人学生募集にさらに拍車をかけた。
しかし、W教授の話によれば、人口大国の中国でも学生募集がだんだんと難しくなり、任務達成は簡単なことではないという。中国の大学もここ10年く らいで急速に定員を拡大してきたため、大学生の就職率が6割台にまで低下し、大学を卒業してもなかなか就職できない。だから、若者たちは大学の知名度や専 攻の人気度にはいままで以上に敏感になっている。日本の知られていない地方大学や魅力ある専攻がない大学に対しては、あまり関心を示さないそうだ。
一方、近年中国では「動漫」ブームが巻き起こっている。「動漫」とは新語で、動く漫画という言葉を短縮したものだ。つまりアニメである。放送、映 画、テレビを管轄する国家ラジオ・映画・テレビ総局が、年間28万分間の国産アニメを放映する目標を立てた。しかし、現在のところ、国産アニメはわずか3 万分間分と目標の11%しか占めていない。残りの25万分間は外国アニメの市場となり、その輸入額は約800億人民元だといわれる。ちなみに28万分間の 6割を日本と韓国のアニメが占めているとされている。
一方、中国経済も新たな成長エンジンを捜し求めている。すでに20以上の省や市がアニメをこれから大いに育てよう産業として位置づけている。北京、 上海、蘇州、広州、杭州、深セン、大連など経済が発達する都市も、アニメ製作基地を設け、優遇政策を制定して懸命に企業を誘致している。
中国の報道によれば、中国のアニメ業界では専門知識をもつ就業者を少なくとも25万人必要としている。そのうち、アニメやテレビドラマの製作に15 万人、電子ゲームの製作に10万人が必要だ。しかし、中国では大学でアニメ関連の専攻を勉強した大学生は毎年わずか300人ほどしかいない。
旧態依然とした大学の体制では、中国に学生を募集しに行ってもなかなか学生を集められない。しかし、市場ニーズをきちんと捉えた専攻をもつ海外の大学には、中国の若者たちはいまでも熱いまなざしを注いでいる。
中国で留学生を募集したデジタルハリウッド大の関係者たちは、興奮した口調で中国での募集風景を伝えてくれた。「中国で行われた共同募集会場では、 最初は有名な私大のブースの前に大学紹介資料をもらうための若者たちが並んでいたが、会場内をひと通り回った後、うちのブースにも有名私大に負けないほど の列ができていました」。
開校してまだ2、3年しか経っていないデジタルハリウッド大は、すでに中国に進出している。06年10月に、天津南開大学と共同で社会人向けスクー ルを開校し、現在30名の学生を対象に6カ月コースの授業を実施している。今後は日本語コースなど教育プログラムの増加と中国全土への展開が考えられる。 中国の大学などから提携の話がすでに10件以上来ている。実現可能なところから進めて行きたい、と中国担当の裘雅雯(Ya-Wen Qiu)シニアディレクターは語る。
大学も市場ニーズを見つめて運営しなければならない時代が訪れる。株式会社式のデジタルハリウッド大がその示唆を与えてくれた。
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