今回は、中国人プログラマやブリッジSEの適性を採用段階でいち早く検査する手法について考えます。
オフショア開発に携わってきたものの、これまで中国人と接触したことがない日本人は意外に多いと思います。ただし、今日の話題は、そんな方にも役立つ内容 です。なぜなら、日本にいながら、しかもオフショア開発とはまったく無縁の職場であったとしても、ある日突然、外国人従業員があなたの隣に座ってあなたと 肩を並べて仕事をするようになるかもしれないからです。
しかも、その外国人従業員は、あなたと同じプロジェクトであなたの直属の部下として一緒に仕事するかもしれません。場合によっては、ある日突然あなたの上司が中国人になるかもしれません。そんな思いで今日の話題をお届けします。
中国人プログラマが会社にとどまる理由は?
中国ベンダに勤める幹部社員の話を聞くと、中国人若手プログラマが会社を辞める最大の理由は「報酬への不満」です。次に「転職によるキャリア機会の獲得」。そして、「いまの職場ではスキル向上できない」「福利厚生への不満」「将来性の不安」と続きます。
中国人が会社を辞める最大の理由は「報酬」ですが、中国人プログラマが会社にとどまる理由も、果たして「報酬」でしょうか。 米系コンサルティングファームが調査した中国人従業員の意識調査によると、「報酬に満足」という理由でいまの会社にとどまっている割合は、たった15% で、上位3位にすら入っていませんでした。
それでは、一体中国人IT技術者(特に優秀な人材)を動機付ける最大の要因は何だと思いますか? 筆者が発行するオフショア開発メールマガジンの読者からいただいたご意見の一部を紹介します。
一般に、中国企業に勤める従業員は会社への忠誠心は弱いといわれますが、実際には部課レベルの身近な組織への帰属意識は思いのほか強いようです。その求心力の源は、強いリーダーシップと「和気あいあい」が共存する雰囲気にあります。国際ビジネスの多様性に不慣れな日本人技術者にとって、中国的な「上下関係」や「なれ合い」の世界は奇妙に感じるかもしれません。しかし、これからのオフショアリング全盛時代を生き抜く技術者には、あいまい性や不確実性を許容する度量がますます要求されてくるでしょう。
中国人は集団で辞表を提出する!?
筆者が「中国人プログラマが会社を辞める理由」を研究し続けた結果、「会社を辞める」理由と「会社に定着する」理由とでは、明確な違いがあることが分かってきました。
そして、ある中国人読者が、中国人プログラマと直属上司との関係の例を見事に説明してくれました。
中国では、従業員と会社や上司とのそりが合わないとき、従業員が集団で辞表を提出することは珍しくありません。自分が頑張ったことをリーダーがちゃんと見ているか、リーダーが自分をどう評価しているか、中国のプログラマたちはとても強い関心を持っています。 リーダーに認められたら、昇進や給料アップに直接つながります。同時に、自分のリーダーが昇進したら、自分も一緒に連れて行ってくれるかもしれないと考えている人は少なくないと思います。 (中国人読者C) |
このように、私たちが思っている以上に、中国人の部下とリーダーの関係は深いようです。また、職種や会社での地位・権限によっても、中国人が動機付けられ る要因は異なります。一般的な中国人プログラマが会社にとどまる最大の要因は、「職務能力が高まり、職場で十分に発揮され、そして正当に評価される」と実 感することです。
「なんだ、それじゃあ日本人と同じじゃないか!」
と思われる方がいるかもしれません。そうです。基本的には日本人と同じなのですが、平均的な日本人IT技術者と比べて中国人IT技術者は、「報酬」への執 着が強いと評されています。私の経験からも、これは紛れもない事実です。実際、彼らは能力次第でいくらでも給料が上がります。
で すが、その一方で、あるレベルの給料や地位に達すると、今度は職場での裁量権(非公式なリーダーシップを含む)や人間関係がより重視されます。筆者らの最 近の研究で、中国では外資系企業よりも国内企業での出世を好む傾向があることが分かってきました。これは、外資系企業における、本国からの細かな指示や面 倒な規律規範に縛られず、自分の裁量で自由に仕事を進めたいという欲求の表れだと分析しています。
適性検査で中国人IT技術者の採用プロセスを改善する
先日、銀座で開催された日中ビジネス交流会において、適性検査ツールによって中国人プログラマを効率よく採用するという興味深い事例を耳にしました。リクルートによると、適性検査とは「性格や気質、興味・関心・価値観、スキルを測る」検査であり、主に次の3つのタイプに分かれるそうです。
- 性格・気質などを測る検査
- 興味・関心・価値観などを測る検査
- 能力・スキルなどを測る検査
これらのテストの結果はあくまで「統計的に推測される」結果でしかなく、必ずしも特定個人が「そうである」と断言するものではありません。あくまで個人の適性を測る1つの手段です。
2006年夏、日本人向けの適性検査で高い評価を受けているある会社(A社)が中国市場に本格参入しました。大連市政府関係筋から、IT人材の適性検査に関する相談を受けたのがきっかけだといいます。
ある人は、「こうした適性検査がどの程度有効なのか?」と疑うかもしれません。筆者の場合、「日本人向けに開発されたツール が本当に中国でも役に立つのか?」といった疑問や、「中国の地域性や民族の違いを無視して中国をひとくくりに扱ってもよいのだろうか?」という疑問を感じ ました。
結論を先にいうと、上記はすべて問題ないようです。心理学やコンピテンシー論、 組織行動論を学び、自らがさまざまな適性検査を受けた筆者の経験からいうと、現在の適性検査の信頼性は極めて高いと思います。ある人が適性検査で好成績を 収めようとして意図的に回答しても、ツールは「信頼係数-低」を返します。記憶力に優れた専門家が長時間掛けて適性検査を受けると、意図的に結果を操作で きるかもしれませんが、通常は極めて困難です。
詳しい理論は割愛しますが、適性検査のコアエンジンは、人種や文化にさほど依存しません。人間という生き物は喜怒哀楽の感じ方は万国共通である一方で、その表現方法は文化によって著しい差が生まれるといいます。
例:困ったとき→日本人は苦笑いするが、欧米人には不可解
なので、日本人向けに開発された適性検査であっても、根幹のアルゴリズムは中国でも十分に通用するのです。実は、日本人向け適性検査のエンジンであっても、基は欧米の研究成果そのものなのです。
中国における人的資源管理に関する問題
A社が調査した、中国における人的資源管理に関する問題を整理します。
■経営トップ(菫事長、総経理)が抱える問題
キーワードは「短期離職」と「生産性の低下」です。一般の中国企業ではジョブローテーションがうまく機能しないため、現在の職場になじめないと判断されると「即クビ」が待っています。
- 中間管理層の社外流出
- 抜てきした中間管理層が責任を持って仕事をこなせない
- 配置の不適性による効率の低下
■人事部が抱える問題
日系企業では、よく「中国人は自己PRが得意だが……」と愚痴をこぼしますが、そもそも、日本人担当者がすべての中国人従業員を採用面接すること自体に無 理があります。幹部社員の採用には十分に時間を割くべきですが、一般のホワイトカラー社員(プログラマレベル)の採用プロセスは改善の余地があります。
- 採用した新人が職場に合わない
- 求人コストが高い
- 良い人材を見つけるのが難しい
■中国人社員が抱える問題
自我が強い半面、他人の意見に耳を傾けない中国人社員がたくさんいます。そのため、正しい評価基準を持つことができず、能力開発の機会を失いがちだといわれます。
- 正しく自己評価できない
- 自分では能力を伸ばす方法が分からない
中国で適性検査を実施してみて分かったこと
■中国人の信頼係数は意外と高かった
大連・上海・北京の日系企業で中国人を対象に適性検査したところ、回答に多少あいまいなところもありましたが、おおよその部分は信頼できるとの診断結果が得られました。
中国人は、都合よく自己アピールするため、「適性検査でうその回答を並べ立てるのではないか?」との懸念がありましたが、まったくの誤解でした。一方で、信頼係数を低下させるもう1つの原因があります。それは「社会秩序の欠落」です。
しかし、結果からは、日系企業に応募する中国人の多くは、規則や秩序に最低限気を配ることのできる人間である傾向が示されました。
■物質的欲望については、日中で大きな違いは生じない
適性検査で分析される「物質的欲望」とは、モノやお金、資産などに未練を持つかあっさりしているかを示す社会的な特性です。これも事前の予想に反して、「中国人と日本人との間で大差ない」という結果が得られました。実に興味深い結果です。
■中国企業は「努力型/自制型」の従業員を求める
一般に日本人は「努力型/自制型」の性格・パーソナリティーが多く、中国人は「活動型/積極型」が多いです。対照的に、中国企業の人事部は、自社の従業員に対して「努力型/自制型」を求めていることがインタビュー調査で判明しました。
いままで、個人の性格判断は面接官の力量に頼っていましたが、ツールの導入によって、会社として統一基準を設けることができるようになります。
■短期離職に大きく寄与する因子は……
A社の適性検査では、下記2つの因子が従業員の短期離職を判断する重要な手掛かりだということが判明しました。
- モラトリアム傾向
- 勤労意欲
「モラトリアム傾向」が強い人とは、自分の考え方や生き方について、確信が持てずに悩んでいる人です。「勤労意欲」については読んで字のごとく、働く意欲 のことです。1000名以上の工員を対象に適性検査を実施したある中国工場では、極めて「定着性/安定性」の点数が低い従業員がいたといいます。そして、 3カ月後に追跡調査をしたところ、その人はすでに工場を辞めていたことが判明しました。
中国人の自己評価はやっぱり高かった
下の図は、縦軸が「自己評価」の高さを示し、横軸は仕事の適性幅を示すグラフです。横軸は右側がジェネラリスト傾向を示し、左側はスペシャリスト傾向を示します。一般的に、ベテランの管理職はジェネラリスト傾向、若手の技術者はスペシャリスト傾向を示します。
以下で示すように、日本と中国には共通する特徴があります。スペシャリストほど自己評価は低く、ジェネラリストほどは自己評価が高いというものです。その分布は、傾いた葉っぱの形に似ています。
日本と中国のグラフを見比べると、中国人の方が少し上側に寄っていることが分かります。これは、中国人の方が仕事の適性に関係なく自己評価が高いことを示 します。ただし、左右のブレは確認できませんでした。いまのところ、必ずしも日本人のスペシャリスト傾向(職人かたぎ)が強いというわけではなさそうで す。
■顔だけでアルバイト面接の足切りをする!?
A社の適性検査では、個人特性分析の結果を「人間の顔の表情」で表す工夫をしています。例えば、まゆが太いほど強い指導性を示す、まゆの「ハ」の傾きは従順性を示す、といった具合です。
まゆの太さ | 指導性 |
まゆの傾き | 従順性 |
瞳の直径 | 達成意欲 |
目の傾き | 達成意欲+求知欲求 |
鼻の高さ | 顕示欲求(プライドの高さ) |
口の形状 | 親和欲求+協調性 |
顔の輪郭 | …… |
分析結果がイラストで表示されるので、詳細な説明を読む手間が省け、忙しい人事部からは大好評であるといいます。
毎年、大量のアルバイトを採用するある日本企業では、全応募者と長い時間を掛けて面接をするわけにはいかないので、適性検査を採用面接の「足切り」の道具 として利用しているようです。この会社では、アルバイト希望者に適性検査を受けてもらい、個人特性分析イラストの「瞳の大きさ」と「口の形状」だけで足切 りするかどうかを判断します。判断材料は以下のとおりです。
瞳が大きい=達成意欲が強く、責任を持って最後まで仕事を成し遂げる |
口を大きく開いている=人が好き、協調性がある、サービス精神おう盛 |
つまり、この2つの条件を満たした者だけがアルバイトとして働く資格を得るというのです。
もし、あなたの手元に精度の高い適性検査ツールがあったとしたら、どのような基準でこのツールを活用するでしょうか。中国オフショア開発に向いている人材評価(日本人、中国人)、駐在員の人選、人材育成プランの策定など。可能性を思い付く限り挙げてみるとよいでしょう。
アイコーチ有限会社 代表取締役
沖縄生まれ。
九 州大学大学院修了。株式会社リコーで画像技術の研究開発に従事、中国系ベンチャー企業のコンサルティング部門マネージャ職を経て、2003年にアイコーチ 有限会社を設立。日本唯一の中国オフショア開発専門コンサルタントとして、ベンダや顧客企業の戦略策定段階から中国プロジェクトに参画。技術力に裏付けら れた実践指導もさることながら、言葉や文化の違いを吸収してプロジェクト全体を最適化する調整手腕にも定評あり。日刊メールマガジン「中国ビジネス入門 ~失敗しない対中交渉~」や社長ブログの執筆を手掛ける傍ら、首都圏を中心にセミナー活動をこなす。
http://www.ai-coach.com/
中国人若手プログラマが会社を辞める理由は「報酬への不満」トップで、「転職によるキャリア機会の獲得」「いまの職場ではスキル向上できない」「福利厚生 への不満」と続く。一般に中国企業に勤める従業員は会社への忠誠心は弱いといわれているが、実際には部課レベルの身近な組織への帰属意識は思いのほか強 い。その求心力の源は、強いリーダーシップと「和気あいあい」が共存する雰囲気にある。
最近では、適性検査ツールによって中国人プログラマを効率よく採用する手法がある。ツールは万国共通で通用するようにできているので信頼性も高い。実際に 中国でツールを使った結果、うその回答は少なく、信頼性は高かった。また、「物質的欲望は、日中で大きな違いがない」点や、「中国企業は努力型/自制型の 従業員を求める」点などが判明した。
そして、そのテストにおいて、中国人プログラマの短期離職に大きく寄与する要素には、「モラトリアム傾向」と「勤労意欲」が挙げられることが判明した。モラトリアム傾向が強く、勤労意欲が低い従業員ほど短期離職の傾向が強い結果となった。
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