2008-05-16

企業によって異なる「外国人社員・活用難易度」

:::引用:::

  本連載第8回「外国人社員が日本企業で働く3つの壁」では、外国人社員の日本企業での活用を難しくしているのは、「ライフライン(一般適応)」「コミュニケーション(対人適応)」「キャリア(職務適応)」という3つの点であるとご紹介しました。

  ここにそれぞれのポイントをあらためて整理しておきます。

(1)ライフライン(一般適応):住居や社会保障といった、仕事をする上で前提となる事項。
(2)コミュニケーション(対人適応):ビジネスマナーや社内コミュニケーション。
(3)キャリア(職務適応):業界知識、商品・サービス知識などへの適応。勤続年数の時間軸とも関係する。

  これら3点で構成される「日本企業での勤務に立ちはだかる壁」は、実は企業タイプによってその高さが異なります。以下にそれをご紹介します。

■日本企業の4分類と「外国人社員・活用難易度ランキング」

   日本企業は「歴史の古い伝統型企業か、最近(古くても20-30年)誕生した新興型企業か」という基準と「製造業か、サービス業か」という基準の二つの 軸を使って4つのタイプに分類することができると思います。つまり、「伝統型製造業」「伝統型サービス業」「新興型製造業」「新興型サービス業」のいずれ かということになりますが、外国人社員の活用難易度はタイプごとに異なります。

<活用難易度 第3位:新興型サービス業>

   IT企業や人材サービスなど、多くはこの10-20年の間に出てきた業種、企業です。ITベンチャーといわれたような企業はその代表格。人材が常に不足 しているため、意図的か否かを問わず、結果的に実力主義の色彩が濃いフラット型組織の企業が多いようです。シンプルで分かりやすい、というのが特徴です。 裏を返せば、新卒を丁寧に育てている余裕がない企業が多いということができるでしょう。実際、経験者を中心にどんどん採用し、どんどん辞めていく企業が少 なくありません。

  これら企業の外国人社員活用の最大の強みは「分かりやすさ」です。また社内コミュニケーションについても比較的自由 な雰囲気なので、いわゆる「ビジネス日本語」「ビジネスマナー」などについては比較的寛容であり、これが外国人社員活用の壁を低くしている理由のひとつに なっています。

<活用難易度 第2位:伝統型サービス業と新興型製造業>

  伝統型サービス業とは、銀行や学校、大手商社、新聞・テレビといったマスコミなど。新興型製造業とは、R&D(研究開発)に特化したベンチャー企業などです。

   これらの企業における外国人社員活用の壁が第3位の新興型サービス業に比べて高いのは、伝統型サービス業の場合は新卒を一から育てるという傾向があり、 専門性とともに企業文化に適合できるか(これをカルチャーフィットといいます)が大きなポイントとなるからです。また新興型製造業の場合は、なかには独立 系もありますが、いわゆる伝統型製造業から分離・独立してできた会社が多いために、経営者にもよりますが、その社風が持ち込まれた結果、「ミニ伝統型製造 業」になりがちです。この場合は、規模が小さいわりに組織はピラミッド型になっているなど、「新興型として求められる臨機応変のスピード感」と「製造業と して求められる着実な計画と実行」とのバランスが取れていない例がよく見受けられます。

  外国人社員活用に関して上記(1)「ライフラ イン(一般適応)」(2)「コミュニケーション(対人適応)」(3)「キャリア(職務適応)」の3点のバランスが取れていないことは、伝統型サービス業と 新興型製造業に共通していえることです。バランスが取れていないというのは、各ポイントのうちのいずれかはきちんとケアされていても、その他の点に注意が 払われていないことを指します。

<活用難易度 第1位:伝統型製造業>

  伝統型製造業とは、自動車や家電などいわゆる「メーカー」であり、海外で日本企業というとすぐにイメージされる企業の多くはこの分類に属します。長期雇用前提で離職率は比較的低く、新卒を丁寧に育てていく傾向が強いのが特徴です。

   これらの企業は、長きにわたる成功経験の蓄積によって、現在のあり方が形づくられているわけですが、人事・組織も「成功に最適化」しているがゆえに、外 国人社員にとっては非常に分かりづらいものになっていることが多く、結果として「3つの壁」はいずれも非常に高いものになっています。

   筆者が強調したいのは「だから外資系・海外企業のように対応せよ」では全くありません。むしろその逆で、これら「3つの壁」の存在を認識した上で、自社 の人事制度にアドオンする形で外国人社員の活用対応することができる、ということなのです。(執筆者:小平達也・株式会社ジェイエーエス代表取締役社長)
 4月は新入社員が職場や街にあふれる時期ですが、それは日本人社員ばかりとは限りません。本連載第9回「国籍不問、新入社員への対応-5つのポイント」 でもご紹介しましたが、留学生の日本国内での就職は増加しており、2006年には8272人と過去最高となりました。1995年には2624人でしたから この10年間に日本で就職する留学生数は実に3倍以上になったわけです。他方、海外からの技術者の採用も増加しています。エンジニアなど技術ビザで新規来 日する外国人技術者は2006年7715人と、前年(2005年)の4718人に比べて約3000人、率にして38%増加しています。

  海外人材に関する趨勢はざっと以上のような状況ですが、ところで皆さんは、実は企業が外国人社員を採用する理由が、時代によって異なってきていることをご存じでしょうか。今回はそれをご紹介することから始めましょう。

■グローバル採用1.0―欧米系外国人社員―

  マーケティングなどの部門に外国人(アメリカ・ヨーロッパ人がメイン)を配属し、経営者が「うちもグローバルになった」などと言っていたバブル景気の時代。しかしその多くは、バブルの崩壊とともに姿を消したように思われます。

■グローバル採用2.0―即戦力のエンジニア―

  1990年代後半のITブームの際に顕著でした。外資系企業や中堅IT企業、また人材派遣会社なども、この時期に外国人エンジニアの採用を開始しました。ITと英語を使えるということで増えましたが、ITバブル崩壊後にその数は一気に減りました。

■グローバル採用3.0―日本企業が新卒を採用―

   「2.0」ののち、オフショア開発の増加や大卒有効求人倍率の減少という「氷河期」がありましたが、2004年以降現在にいたるまで、「グローバル採用 3.0」の時代に入っています。「2.0」と「3.0」では、同じ海外からの技術者採用でもメインプレーヤーは異なります。「2.0」では主に外資企業や 中堅IT企業が即戦力として採用していましたが、現在の「3.0」では日本企業が海外新卒者などポテンシャル層を積極採用しているという特徴があります。 また、自動車や精密機械といった海外売り上げの比率が高い企業だけでなく、中堅企業を含めた幅広い企業が海外人材の採用を始めているのも特徴です。

■グローバル採用3.0における外国人社員の活用イメージ

  日本企業における外国人社員活用イメージは以下3つのタイプに分かれます。

1.国籍不問で能力重視。
2.ブリッジSEなど、海外とのブリッジ要員として活用。
3.企業内に多様性(ダイバーシティー)を確保する目的で活用。

   おおよそこの三つに分かれるわけですが、皆さんの職場での海外人材の受入は、1から3のうちのどれが背景にあるのかを把握されているでしょうか。実は、 自社が外国人社員を採用しようとする意図がどこにあるのかについて、経営者や人事部門だけでなく、受入れ現場も含めた全社で共通認識をもっておくことは非 常に重要なことです。というよりむしろ、企業が実際に彼らを受入れ、活用していくに際しては不可欠な要素だといってもいいでしょう。(執筆者:小平達也・ 株式会社ジェイエーエス代表取締役社長)

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