中国の胡錦濤指導部にとって、四川省の大地震は政治的にも深刻な自然災害だ。北京五輪を控えてチベット問題の沈静化を図らなければならない「敏感な 時期」に、チベット族が多く居住し、発展から取り残された「敏感な地域」を直撃したためだ。対応を誤れば、中国政府の少数民族政策が批判の的になりかねな い。指導部が復旧に全力を挙げるのは「人災」と呼ばれるのを恐れているためでもある。
◇貧困、被害に拍車 3月には暴動、不満高まる可能性
「唐山(とうざん)地震以来、最悪の地震」。新華社通信は四川大地震を、1976年に河北省沿岸部の人口密集地域を中心に24万人以上の犠牲者を 出した唐山地震になぞらえた。だが、唐山地震とアバ・チベット族チャン族自治州で起きた四川大地震とは被災地の状況が大きく異なる。
一つは、少数民族が多いことだ。チベット自治区ラサで3月14日に起きた暴動は、この地域にも波及した。インド北部ダラムサラにあるチベット亡命政府によると、2日後の16日、僧侶ら数千人がこの地域でデモを行い、治安当局の発砲によって、少なくとも23人が死亡した。
西に隣接する甘孜チベット族自治州でも3月に暴動が相次いだ。その2カ月後、大地震で多数の死傷者が出たことは、民族問題でただでさえ人心が不安定化していた「敏感な地域」に天災が追い打ちをかけた形だ。
加えて、この地域は貧困や格差の問題も抱える。被害が拡大したのは、耐震性とほど遠い古く貧しい石積み家屋が多いことが原因だった可能性がある。
中国政府の統計によると、四川省の06年度の1人当たり域内総生産(GDP)は1万546元(1元は約15円)で、上海のほぼ5分の1に過ぎない。しかも、「アバ一帯は四川省の中でも特に貧しい地域だ」(愛知大学現代中国学部の松岡正子教授)と言われる。
外資の導入で経済成長が著しい沿海部と比べ、立ち遅れていた内陸部をテコ入れするため、政府は00年から「西部大開発」プロジェクトを始動させた。
アバ・チベット族チャン族自治州も、世界自然遺産として神秘的な景観が人気の九寨溝(きゅうさいこう)近くに空港を造り、道路整備を進め、人気観 光地となった。06年には国内外から772万人が訪れた。パンダ保護研究センターがある自治州〓川県臥竜一帯も06年7月に世界自然遺産に指定された。
観光産業は地域振興の目玉で、自治州のGDPの71%を占める。ただ、観光産業の恩恵は主として漢族に偏り、農業や牧畜業を営む少数民族との格差が広がる構図はラサと共通する。
九寨溝管理局のホームページは、旅行会社向けの声明を掲載。「自治州内は民族が団結し、社会の調和は安定しており、チベット事件の影響を受けてい ない。(共産)党と政府の正確な指導の下、管理局は当地のチベット族、チャン族、回族、漢族の人々とともに観光事業の発展と国内外からの観光客の安全確保 に全力を尽くしている」と、客足のつなぎとめに努める。
だが、震源地付近は道路が寸断され、十分な救援活動ができない状態だ。震災復興が遅れ、格差が一層広がれば、少数民族の不満はさらに高まる危険性がある。【成沢健一】
◇エネルギー規模は阪神大震災の32倍
東京大地震研究所の纐纈一起(こうけつかずき)教授(強震動地震学)らの解析によると、四川大地震のエネルギー規模は阪神大震災の約32倍に達した。
纐纈教授らは世界各地で観測された地震波を解析し、地震を起こした断層は長さ約120キロ、幅約40キロで、最大約15メートルずれて動いたことを割り出した。
震源は「南北地震帯」と呼ばれる地震多発地帯の北部にあたり、北東-南西方向に300キロ以上も延びる竜門山(ロンメンシャン)断層の一部が動い たと見られる。断層面の大きさなどから導き、大地震の規模をより正確に示すモーメントマグニチュード(Mw)は7・9で、阪神大震災のMw6・9を上回っ た。Mwが1増えると地震のエネルギーは約32倍になる。
東西から押された断層面の片側がもう片側に乗り上がる「逆断層型」の地震で、纐纈教授は「内陸で起きた逆断層型地震では世界最大級だ」と話す。
今回の地震では、北京や上海など震源からかなり離れた都市の高層ビルなども揺れた。断層破壊に約45秒(阪神大震災は約11秒)と長い時間がかかり、高層建築物が揺れやすい長周期の地震波も生じやすかったためという。【関東晋慈】
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