2009-03-09

金融危機に打ち勝つ「ウィンウィン方式:スイスニュース

:::引用:::

スイスの時計製造技術者が、もうすぐ時計ではなく電車を製造するようになるかもしれない。

フランス語圏のヴォー州で、金融危機によって生じた雇用問題に対抗する新しいプロジェクトが開始された。このプロジェクトは、主要な労働組合、雇用主協会そして州政府が後援している。
ウィンウィン方式

 一時的に受注が減少している企業は、自社の従業員を人手不足に悩む他企業に貸し出すというのがこのプロジェクトの考え方だ。
「ただ座って何もしていない人たちに給与を支払うのはばかげています。しかし仕事が無いと、雇用主は従業員を解雇することくらいしか考えられなくなります。これは間違った危機対処法ですが、実際2000年の景気下降時に起きたことです」
と「ウニア労働組合 ( Unia trade union ) 」のイヴ・ディフェラール氏は語った。

ローザンヌ大学の職業社会学の教授ニッキー・ル・フューヴル氏は、労働者貸し出しのアイデアは関係者全員にとって有益な状況を作り出す「ウィンウィン ( win-win ) 方式」だと言う。
「企業は不景気時に労働者全員を維持する必要が無くなります。ある特定の企業が景気後退の影響を受けている場合、労働者を他企業に貸し出すことによってその企業は高い技術を持ったスタッフを維持できます。一方、労働者は一時的または完全に失業するリスクを負わずに済みます。州政府が関わっている理由の1つは、この方法によって失業保険を節約できるからです。しかし州政府は、州の工業組織の維持についても配慮しています」
その方法  

 労働者の余剰または不足に悩む企業は、精密機器業界の雇用主協会「GIM-CH」が設けた専用番号に電話をすればよいだけだ。これで適当な企業が互いに連絡を取り合えるよう手配される。

 貸し出される労働者の契約条件はもともとの雇用主と交わしたものと変わらず、変更になるのは勤務先だけだ。通勤費など、貸し出しに伴う余分な出費はすべて払い戻される。

 貸し出しを行う企業間の契約期間は通常1カ月から1年間に限定されているが、必要とあらば延長も可能だ。

 2004年と2005年に、小規模ながら同様の貸し出しシステムが大企業3社の間で実施され大成功を収めた。現在は中小企業のためのホットラインが活躍している。
互換性

 経済危機が重大ニュースになっている時期に、ビジネスを好調に展開し、熟練労働者の不足に悩む業界があるのは驚きかもしれない。エンジニアリングと時計製造業が需要減少にあえぐ中、電車製造と医療は人材不足に悩む2大産業だとディフェラール氏は指摘する。

 機械工、電気工、技術者は、ほかの産業でも必要とされる同様の基本的なスキルを持っているため応用がきき、労働者の貸し出しが可能になる。ディフェラール氏は、ライバル企業が労働者を横取りする心配は無いと考える。第1に、ヴォー州内では直接競合する企業は数社しか存在しない。
「目的はよその会社から労働者を横取りすることではありません。この点に関しては全く心配していません」
 
 もし節度の無い行動をする企業があれば、後でその企業は助けてもらえなくなるとディフェラール氏は言う。また、同氏は貸し出された労働者が、出先の臨時雇用主のもとで満足してしまい、本来の雇用主を離れることもないと考えている。
「労働条件は実質的にはどこも同じです。エンジニアリング業界は、1937年に国内協定を結んだため、労働条件はどこもかなりきちんとしています」
将来

 貸し出しの経験が労働者の経歴にプラスとなるのは事実だが、しかし本来の雇用主にも利益をもたらす。
「労働者は違うやり方を学び、もとの雇用主へ新しいアイデアを持ち帰ることができます」
もし彼らが勤務先を変えたいと思ったら、通常の就職手続きを経なければならない。

今回のプロジェクトは州レベルで実施されたが、フランス語圏のほかの地域やドイツ語圏にも広がる可能性はある。プロジェクトを後援するウニア労働組合 と雇用主協会のGIM-CHは全国的な組織のため、国全体にこの方法を促進する立場にある。

 労働者貸し出し方式の成功を語るには早すぎるが、開始から1週間が過ぎた時点ですでに多くの企業がホットラインに連絡を取ったとディフェラール氏は語る。貸し出し方式の総合的な影響の査定は1年後に行われる予定だ。

swissinfo、ジュリア・スレーター 笠原浩美 ( かさはら ひろみ ) 訳
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