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世界や日本の政府調達ガイドラインを参考にベトナム語化
経産省は「アジアオープンイノベーション環境整備事業」と呼ぶ事業を行っており,その一つとして今回のOSSポリシー立案支援を行った。入札によりこのベトナムのOSSポリシー立案支援を請け負ったのはNECである。支援ではあるが,実際には日本側が作成し,ベトナム情報通信省がレビューする形で進んでいったという。NECは三菱総合研究所や,現地法人であるNECソリューションズ・ベトナムなどと協力し,世界各国や日本の政府調達ガイドラインを参考にポリシーを作成,ベトナム語に翻訳した。
当初,日本側はOSSポリシーの原案を作成するつもりでいた。しかし着手してみると,ベトナム側の要望は「法律として公布するポリシーそのものを作成してほしい」というものだった。日本側は驚いたが,ベトナムの要請を受け入れ,実際に公布され得るようなポリシーを作成することとなった。
またベトナム側からは,ポリシーに加え,OSS推奨リストと研修教材を作成してほしいという要望も寄せられ,これらも作成することとなった。 OSS推奨リストは,ベトナム政府および公的機関での採用に適した34カテゴリ,59種のオープンソース・ソフトウエアを選出してまとめたものだ。うち 10種については日本側で動作検証も行っている。OSS研修教材は調達決定者向けのテキストである。OSS調達の意義や留意点,実際の調達の進め方などを記載。全省庁のIT部局の局長・副局長クラスを対象としている。NECでは,これらの支援が,ベトナムのOSS政策を大きく促進したと見ている。
経産省が東南アジアでのオープンソース・ソフトウエア振興に取り組み始めたのは,2003年3月にタイのプーケットで開催された国際会議イベント「アジアOSSカンファレンス」からだ。各国の政府やIT企業の首脳ががオープンソース・ソフトウエアの活用について報告し情報交換を行う会議である。カンファレンスが行われた2007年度までの間に,アジアのOSS政策は拡大した。タイ,マレーシア,インドネシア,インド,パキスタン,スリランカ,カンボジアに,政府によるオープンソース・ソフトウエア推進組織が設置された。カンファレンスによる情報交換がその一因になったと考えられる。
経産省がこれらの事業を行った目的は産業振興である。アジア各国が,欧米ベンダーの製品が占拠する市場ではなく,自由な競争が行えるオープンソースが標準となる市場となることで,日本のIT企業がハンデなく市場を開拓できる土壌を作る。また,現地政府やIT企業との協力を通じてアジアのIT市場への参入機会を作り拡大する。
アジアOSSカンファレンスは経産省の事業として,日本の予算で開催されており,経産省の事業としては2007年度で終了した。しかし,日本政府の事業が終了した後も,アジア各国の共同開催によりOSSセンター・ミーティングとして定期的に開催されることになった。2008年10月にフィリピン・セブ島で行われた会議では,フィリピン,香港,中国,インド,マカオ,シンガポールとタイのオープンソース推進組織が相互協力の覚書に調印した。
また経産省はアジアでオープンソース・ソフトウエア人材の育成を行ってきた。アジアOSS人材育成事業という名称で,2005年から中国,マレーシア,シンガポール,インドネシアなどで開催している。OSSの基本的な使用方法などを学ぶエッセンシャル研修とOSS教育コースの講師を養成するマスタートレーナーズ・ワークショップがあり,マスタートレーナーズ・ワークショップは2008年までに304名が受講している。
経産省のアジアOSS人材育成事業は2008年度で終了したが,経産省は受講者が自国で今後講師として活動し,数万単位のオープンソース技術者が育成されることを期待している。ワークショップで使用されたテキストは,Webサイトから受講者が無料でダウンロードしてセミナーを開講できるようになっているが,テキストや受講者のコミュニティを活用する企業も募っているという。
作成したポリシーが法律として公布される,事業終了後も国際会議がアジア各国の手によって継続されるなど,日本政府によるアジアのオープンソース普及支援は,事業終了とともに終わるのではない,広がりを持った取り組みと言えるだろう。オープンソース・ソフトウエアは誰にも独占できず,ユーザーを囲い込むこともほとんどできない。そのことが,ここで見てきた広がりを生んだと言えるだろう。 2008年12月,ベトナム情報通信省(MIC)は,政府機関にオープンソース・ソフトウエアの採用を義務付ける行政管理規定を発効した。その内容は(1)2009年9月30日までに政府のIT関連部門のサーバーを100%Linuxで運用することを義務付ける,(2)2009年末までに70%の政府機関でOSS推奨リストに記載されているFirefoxやOpenOffice.orgなどのOSSの使用を義務付ける,(3)これに伴いIT部門スタッフ全員がトレーニングを受けることを義務付ける,(4)少なくとも50%以上の職員は,OSS推奨リストに記載されているOSSに精通しなければならない,(5)2010年12月31日までに政府機関すべてのスタッフは,業務でOSSを利用しなければならない。
ベトナムは,以前からオープンソース・ソフトウエアの活用に取り組んでいた。ただ従来オープンソース・ソフトウエアの活用を主導していたのはベトナムの科学技術省だった。今回は情報通信省が主導することで,政府機関や地方自治体へOSSの採用を義務付けるところに踏み込んだ。
OSS調達ポリシーを法律として公布へ
さらに,ベトナム政府ではオープンソース・ソフトウエアの調達ポリシーを法律として交付する予定だ。ポリシーの草稿には,(1)オープンスタンダードを採用したシステムを調達することとし,プロプライエタリ・ソフトウエアと同条件であればOSSを優遇する,(2)既存システムは,次期システムの調達時にオープンスタンダードに従ったシステムに移行する,(3)公的資金によって開発したITシステムに関して,可能であればソースコードに関するすべての権利を取得する,(4)ITシステムの調達や研究開発プロジェクトの実施を通じて,オープンスタンダードに乗っ取ったソフトウエアのベトナム語化を進め,マニュアルなど関連文書もベトナム語で用意するよう努力する,といった方針がうたわれている。
2009年2月20日には,ベトナム情報通信省などが主催するOSSポリシーのワークショップが開催されている。各省庁や地方自治体のIT局長クラス以上の権限者約150名が参加した。ワークショップ参加者のアンケートでは,92%がOSSポリシーを受け入れ,また74%がOSSポリシーが必要であると認識したと答えたという。
ベトナム政府がオープンソース・ソフトウエアの採用を進める最大の理由は違法コピー対策だ。ベトナムに限らず多くの新興国は違法コピー・ソフトウエアのまん延という問題を抱えている。すべての違法コピーに対し先進国の物価水準に基づいたソフトウエアのライセンス料を支払うことはできない。高いIT コストはデジタル・ディバイドによる情報格差を生む。自由に配布できるオープンソース・ソフトウエアは違法コピーに対する解決策になる可能性がある。
自国のIT産業を育成する上でも,自由に改変できないクローズドなソフトウエアは,産業と人材の育成にあたっての障壁になる恐れもある。ソースコードが開示されていないソフトウエアを使用することに対する安全保障上の懸念もある。
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