2009-03-19

シンガポールと日本との貿易・投資パートナーシップ

:::引用:::
日本とシンガポール両国は、いくつかの節目を経ながら、関係を発展させてきた。日本にとって、シンガポールは初めて経済連携協定(EPA)を締結した国であり、両国は2002年1月、日本・シンガポール新時代経済連携協定(JSEPA)に署名した。また、2006年6月には、天皇皇后両陛下が国賓として初めてシンガポールを訪問された。

2009年以降もこうした両国の密接な結びつきを維持していくことが重要である。国際通貨基金(IMF)では、世界の経済成長率は0.5%まで落ち込み、第2次世界大戦後最低になると予測している。脆弱な金融システムが、発展途上国、先進国の双方に広範な影響を及ぼしている。このような困難な時にあって、日本企業は従来の手法を超えて、国内外で新たな機会を求めていかなければならない。国際的な能力に秀でたシンガポールは、日本企業にとって価値あるパートナーとなるはずである。
シンガポールの紹介:
シンガポールは東西の貿易ルートが交差する地点に位置し、戦略的にも優位な要衝となっている。さらに安定した政府や優秀な労働力、先を見通した経済政策、ビジネスを支持する環境が、シンガポールを世界からアジアへのゲートウェーたらしめている。1965年の独立以来、シンガポール政府は、世界のビジネスセンターとしての地位を強化するための戦略を策定し、それを実施してきた。現在、この島国は、世界でも最高レベルの生活水準を持つ、活気に満ちたダイナミックな都市国家であるだけでなく、地域でカギとなる貿易センター、世界で最も賑わっている港町、アジア太平洋における最良の投資場所でもある。

海外貿易の規模が国内GDPの3倍以上に達することに見て取れるように、シンガポールではオープンなビジネス環境が発達している。自由貿易政策により、財の輸出入に対する制限を最小限とすることが保証されている。ほぼすべてのコモディティー、消費財、生産財の輸出入に対し、関税が撤廃されている。

自由な企業精神により、海外の投資家との密接な経済的結びつきが生まれている。いちはやくシンガポールに拠点を設立した日本企業としては、ソニーとパナソニックがある。これらの企業の存在により、諸業界が拡大し、シンガポール企業は、その存在の恩恵を受けた。シンガポール経済の急速な成長につれて、シンガポールに拠点を置く企業も、組織的に拡大を始めた。

国土と人口が制約されたシンガポールでは、企業が事業を拡大するためには海外への進出が必須となっている。シンガポールの海外経済部門発展の先頭に立つ役目を負う主幹官庁が、経済産業省内に設置されたシンガポール國際企業庁(IE Singapore)である。IE Singaporeは、シンガポールに拠点を置く企業の海外での成長と、国際貿易を促進することを任務とし、全世界30カ所以上の拠点からなるネットワークを通じて、将来性のある海外市場で活動しており、市場アドバイスやプロジェクトへの助成によって、シンガポール企業を支援している。IE Singaporeは、東京に「海外センター」を置いて専任の職員を配置し、シンガポールから日本への投資を促すとともに、シンガポールに拠点を置く企業と協力して、地域内へ展開を広げていけるよう日本の企業活動の基盤としてのシンガポールの立場を援助している。
シンガポールの日本進出

現在、シンガポールと日本の間には、強固な経済的関係がある。2008年現在、日本はシンガポールにとって6番目に大きい貿易相手国であり、貿易額は、 2007年の541億シンガポールドルから11%増加し、601億シンガポールドルとなっている(注1)。投資においては、シンガポールは日本にとって、アジア経済で最大の直接投資国となっており、昨年のシンガポール企業の日本への投資額は、4億米ドル強となり、累計投資額は46.2億米ドルとなった(注2)。

日本市場は、文化の違いや言葉の壁に阻まれ、市場も成熟してしまっているが、取り組み甲斐のあるマーケットである。日本の事業環境や日本社会のニーズについて時間をかけて理解することにより、シンガポール企業は日本市場への進出で成功を収めてきている。飲料、食品から不動産部門に至るまで、シンガポールに拠点を置く企業は増加を続けている。

最も新しい進出企業としては、2008年4月に正式オープンした、東京初の本格的シンガポール風シーフードレストランであるシンガポール・シーフード・リパブリックがある。この300万米ドル相当の合弁企業には、シンガポールの有名食品・飲料企業4社、Kriston Food & Beverage、Jumbo Seafood Restaurant、Palm Beach Seafood Restaurant、Seafood International Market & Restaurantが、日本側パートナーであるM.R.Sとともに参加している。

受賞歴もあるサービスアパート賃貸・管理会社であるアスコット・グループは、Somersetブランドの物件を東京に2件保有し、2009年3月には日本では初のCitadinesブランドの物件として、駐日外国人、旅行者向けのサービスアパート160室を、新宿で提供を開始した。
シンガポール企業との協働

シンガポールの企業は、高い品質と信頼性に裏打ちされた優良なシンガポールブランドの名を享受している。また、多くのシンガポール企業には、優れた実績があり、それぞれの事業分野で豊富な経験がある。一連のユニークな価値提案を行っており、また、国際化の経験があることから、日本企業が製品やサービスの提供を行う際に、これを支援することができる。日本企業が伝統的に「ハード」面で強みを持つのに対し、シンガポール企業は、マネージメント、トレーニング、コンサルタントサービスなどの「ソフト」面を提供することができる。

シンガポールと日本が密接に協力できる分野としては、カギとなる3つの分野、つまり貿易、第三国での協力、特定産業におけるパートナーシップの強化がある。
貿易

国際貿易の促進において、IE Singaporeは、財・サービス輸出、およびオフショア貿易を積極的に促進することにより、シンガポール経済に貢献している。

日本初の自由貿易協定(FTA)であるJSEPAは、シンガポールと日本の企業が活用できるきわめて有効なツールである。2008年1月に発効した JSEPAの改正により、対象製品の拡大と、原産地規則の改定が行われたことで、シンガポールから日本に輸出される物品が増加する。企業にとっては、日本への輸出が容易になることから、市場の景況水準の向上に伴い、日本市場への投資フローも増加するものと期待される。

JSEPAは、シンガポールにとってメリットとなるだけではなく、日本の輸出業者にとっても、シンガポールへの輸出が容易になるメリットがある。これにより、両国間の貿易が拡大するとともに、シンガポールを経由して他の市場(例えばインド)への輸出を検討している企業も恩恵を受けるであろう。シンガポールのECICS Limited社とNEXIとの「貿易再保険協定」は、日本企業が輸出機会をさらに拡大するに際して保証を与えることになる。

日本がASEANに重大な事業上の利害を持ち、多くの日本企業がアセアン加盟国内に製造拠点を設けていることから、シンガポールは、そのような日本企業の多くに、重要な物流ハブや地域拠点を提供している。改正JSEPAは、日本企業の地歩をさらに固めるとともに、新規の日本の投資家のシンガポールを経由したアセアン市場への進出を促進することになるであろう。

さらに、シンガポールとしては、貿易業者の基盤を拡大するとともに、リスクマネジメント、サプライチェーン・マネジメント、マーケット研究開発などの知識集約型活動を通じて経済価値を創出することにより、日本の貿易業者をシンガポールに定着させることを目指している。シンガポールは、国際貿易企業にとって絶好の立地である。IE Singaporeが打ち出した中心的開発計画である「グローバル・トレーダー・プログラム」にもとづき、世界的な貿易企業250社以上がシンガポールに貿易活動の拠点を置いており、これは、主要な国際貿易企業が合計で25社に過ぎなかった1989年に比べて、10倍の増加である。これら250社の国籍は、30カ国以上に上り、その分野も、エネルギーから農産品コモディティー、金属・鉱物にまで及ぶ。
第三国での協力

多くの日本企業や日本国内にある外国企業は、インド、中国、ベトナム、中南米での事業拡大を検討してはいるものの、そのための経験やネットワークが不足していると考えている。シンガポールは、長年にわたりこれらの国と強固な結びつきを確立しており、外交関係やFTAを超えた広がりを持っている。したがって、シンガポール企業は、仲介者としての役割を演じることで、日本企業の活動を支援することができる。

B to Bのレベルにおいて、中国企業とインド企業は、共通の文化的背景を有するおかげでシンガポールと良好な協力関係にあり、またベトナム企業は、すべての面で密接なアセアン加盟国同士であることから、シンガポールと親密な関係にある。またシンガポールには、これらの国と交渉してきた長い歴史の中で培われた市場に関する情報もある。IE Singaporeは、思い切って新興国へ進出しようとしてシンガポールの企業家と密接に働いている日本企業を、そうした国に取り持つよう推進してきた。
特定産業におけるパートナーシップの強化

日本は、世界で最も技術の進んだ国の1つである。自動車からテレビゲームに至るまで、日本で開発されたイノベーションは世界に感動を与え、また私たちの生活に数えきれないほどの影響を与えてきた。日本のテクノロジー企業の中には、継承問題のある企業や、国際的な経験に欠ける企業もある。他方、シンガポール企業は、マネージメントや国際化の能力に加えて、総合的ソリューション提供者としての強みを持っている。それゆえ両国は、事業拡大への取り組みにおいて、相互補完的なパートナーとなることができる。

具体的には、都市ソリューション、特に環境サービス産業において、技術協力を行うことが可能である。シンガポールは、小さな漁村から、経済的な活気と環境の持続性を両立させたダイナミックな都市国家へと、急速な発展を遂げた。発展を重ねる中で、シンガポール企業は都市計画、上下水道管理、交通等の都市ソリューションにおける経験と知識を獲得してきた。日本企業は、技術的ノウハウの面でシンガポール企業をパートナーとし、お互いの経験を活用することにより、双方の事業の発展につなげることが可能である。

さらに、日本には、トップブランドに率いられた強固な製造業と、しっかりした裾野産業があり、この分野の日本企業には、高度に発達し、洗練された技術を持つ企業が多い。シンガポールのエレクトロニクス・精密工学(EPE)企業、特に自動車部門の企業は、ニッチな技術について専門知識があり、高い品質水準を持っている。こうしたことから、シンガポールのEPE企業には、上記のような日本企業に資本参加する、又はこれと提携関係を構築する機会が生まれ、あるいは、相互の強みを利用することで、第三国で好機を捉えることが可能となる。
結語

日本とシンガポールの協力関係を拡大することが可能な分野は、数多く存在する。シンガポール企業は、日本企業の強みを補完することで、日本国内外市場でのプロジェクトにおいて、シナジー効果のあるパートナーとなり得る。IE Singaporeは、適切なパートナーを見出すことができるように支援するとともに、両国間のいっそう強固な経済的結びつきが確立されるように支援するための、窓口となることができる。
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