2008-10-09

メインフレーム技術者が足りない

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メインフレーム技術者が足りない――。2007年問題がついに顕在化し始めた。ベンダー各社は定年退職者の再雇用で対処する心づもりだったが、必要数を確保できていない。若手や派遣社員での穴埋めは難しく、このままでは顧客企業のシステム開発に支障がでかねない。

 「メインフレーム技術者を紹介してくれとの依頼が急増している」。IT技術者の派遣事業を手がけるリクルートスタッフィングの田中智己ITスタッ フィング部部長は明かす。「依頼主の多くは大手ベンダー。メインフレームを使ったシステム開発や運用を担う技術者は今後も長いスパンで必要だが、各社とも 十分な数を確保できていない」とみる。

 メインフレーム用のパフォーマンス管理ソフトなどを開発・販売するソフト会社IIMには「大手ユーザー企業からメインフレームの基本的な技術を勉強できる場を設けてくれないかとの相談が頻繁に寄せられる」(梅津裕システム本部部長)。関連セミナーは常に満席状態(写真)。参加を断るケースも多いという。

再雇用が進まない

 日本は世界でもまれにみるメインフレーム大国。出荷金額ベースではいまだに国内サーバー市場の4分の1ほどを占める。これは欧米の2倍以上の水準。今後縮小が見込まれるとはいえ、まだまだメインフレームに精通した技術者の需要は根強い。

 そこを2007年問題が直撃した。昨年以降、団塊世代のベテラン技術者は60歳の定年を順次迎え始めた。そのなかにはメインフレーム技術者が多数含まれている。

 もちろんベンダー各社も手をこまねいていたわけではない。定年退職者を再雇用することで、メインフレーム技術者の急激な減少を防ぐ心づもりだった。定年退職者の再雇用制度の整備は2006年4月に施行された「改正高年齢者雇用安定法」によって企業に義務づけられている。

 だが、ベンダー各社のもくろみは外れた。本誌がメインフレーム技術者を多数抱える大手ITベンダーに聞き取り調査を実施したところ、再雇用制度の利用が進んでいない実態が明らかになった。

 11社に調査協力を依頼し、8社から回答を得た。2007年度の定年退職者のうち再雇用制度の適用対象者は8社合計で1036人。そのうち60.3%は制度を利用せず、リタイアしてしまったのだ(図1左)。

図1●大手ベンダーにおける2007年度の再雇用制度の利用率(左)と制度の種類
メインフレームを扱っている大手メーカー、インテグレータ11社に聞き取り調査し、利用率は8社、制度概要は9社から回答を得た
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 これは各社の事前の想定を大きく下回る数字だ。ほとんどのベンダーが「対象者の6~7割が再雇用制度を利用する」と見込んでいたことから、数百人規模で人員不足が発生した可能性が大きい。

 各社とも表面上は「メインフレーム技術者は足りている」とする。だが、水面下では人繰りに四苦八苦しているようだ。


「体力的にきつい」

 それではなぜ再雇用制度は当初のもくろみ通りに機能しなかったのか。あるベンダーの担当者は、フルタイム勤務を前提とした再雇用制度に原因を求め る。「SEの仕事は楽ではない。体力が落ちた定年後までフルタイムで働くのは体力的につらいと考えたベテランが多かったのでないか」。

 現行の厚生年金や雇用保険制度が再雇用の妨げになっているとの指摘もある。一般的に再雇用後の給与は現役時代より下がる。その分を補うのが厚生年 金や雇用保険。だが、定年後もフルタイムで働き続け現役時代の75%以上の給与を得ると厚生年金と雇用保険が全額カットされてしまう。

 給与が75%以下に落ち込む場合は、雇用保険と給与に応じた厚生年金が支給される。しかし一般には、給与が75%以上だったときよりも受け取り総額が下がる。「現役時代と仕事は全く同じなのに給与が下がるのでは再雇用に応じる気がしない」のも無理はない。

若手・派遣社員の登用も難しい

 ここ数年、メガバンクのシステム統合をはじめとする大型案件ラッシュだったIT業界は深刻な技術者不足に見舞われていた。経済産業省の「特定サー ビス産業動態調査」によると、人員が「不足」と回答した企業から「過剰」と回答した企業の割合を引いた「雇用判断DI」は、ここ数年高止まりしている(図2)。

図2●国内の情報サービス産業の雇用判断DI
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 人手不足はメインフレーム技術者に限った話ではないが、育成の難しさが問題をより深刻にする。

 メインフレームは今後も重要な役割を果たし続けるが、次世代の主流とは言い難い。このため有望な若手がなかなかメインフレームの世界に入ってこない。

 「メインフレームを扱う現場に配属された若手の技術者はすぐやめてしまう」。大手ベンダーの幹部はこぼす。別のベンダーの人事部長も「メインフレ ームのように革新の少ない技術を若手に学ばせるのはかわいそうだ」と打ち明ける。

 かといって派遣社員に頼ることも難しい。メインフレーム技術者の需要は確実に高まっているものの、派遣会社に登録する技術者数はここ数年横ばいか微減だ。

 若手も派遣もダメとなると、メインフレーム技術者不足への有効な対策はやはり定年退職者の再雇用になる。ベンダー各社は処遇改善などの見直しを迫られる。

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