2008-05-08

日中首脳会談:違い知る機会に=中国総局長・堀信一郎

:::引用:::
なんとも重苦しい雰囲気での胡錦濤国家主席の訪日だった。中国製ギョーザの中毒事件、チベット問題、聖火リレーなどで中国が厳しい視線を浴びながらの10年ぶりの国家元首の訪日だ。首脳会談は2国関係を一気に改善させるという政治的意味もある。

 だが、日中両国にある「付き合いにくい隣人」という空気は一気に吹き飛ばせるものではない。では、どっちが悪いのか--。そんな考え方はやめよ う。日中平和友好条約締結から30年もたった今、もはや「友好」にすがる時代ではない。互いに大国らしく、言うべきことを主張し、国益のためにがっぷり四 つに組む関係を築く時代になったと思う。

 胡主席の訪日は実に悪いタイミングだった。昨年12月に福田康夫首相が訪中した際、中国政府は「日中関係に春が来た」と歓迎し、「桜の咲くころ」に胡主席が訪日するという手はずだった。

 だが、年が明けて、ギョーザ事件が発生した。3月のチベット暴動では中国の人権問題が世界の懸念材料になり、その結果、聖火リレーは「親中対反 中」という図式で大混乱した。だが胡主席の訪日は揺るがず、7月の北海道洞爺湖サミットを待たずに「日本だけを5日間も訪問するという異例の外遊」(中国 外務省)を実現させた。

 この決意は、日本国民に胡主席を知ってほしい、本当の中国を見てほしいという気持ちが支えている。10年前の江沢民前主席の訪日は、過去にこだわり、21世紀への展望が欠けたと言われている。

 この10年間、日中関係は飛躍的に進展し、身近に互いを感じる時代になった。それだけに相手も同じことを考えていると誤解してしまう。そこに落と し穴がある。胡主席が青少年交流に力を入れるのも、思考や文化が違うことを日中双方の若者に冷徹に知ってもらうためだ。誤解したままの友好よりも、違いを 知ることの方が将来のために有益だろう。

 長野聖火リレーの際、巨大な中国国旗で沿道が真っ赤に染まった光景に多くの日本人が嫌悪感を覚えたと聞く。だが、中国外務省幹部は「そんな反応がある方が驚きだ。応援ですからねえ」と意に介さない。

 こうした摩擦は容易に克服できるものではない。それよりも、中国人の思考を知り、相手の戦略を推し量る訓練を積むことが大切だ。胡主席も「日本と 中国の間で矛盾や問題が生じるのは避けられない」と考えており、首脳会談で大局観の重要性を共有した。聞き心地のいい「日中友好」を乗り越えるべき時が来 たように思う。(
●●コメント●●

0 件のコメント: