2009-11-16

【海峡の風変わりて 中台経済新時代】(1)高まる中国の存在感

:::引用:::
■観光客が押し寄せた

 台北市北西部にある老舗ホテル、圓山大飯店。大型観光バスが到着するたびに数十人単位の中国人団体ツアー客が列をなして降りてくる。

 入り口を入った右側の木製ボードには「熱烈歓迎」の太い朱文字。その下には中国各地からやってきた政府、企業、団体などの視察団名が十幾つ並んでいる。

 隣のボードにはこれらの団体と台湾側がホテル内で開催中のフォーラムやセミナーの案内が7~8件。1階ロビーにたたずんでいると、まるで北京か上海のホテルにいるような錯覚に陥るほどだ。

 圓山大飯店には「業務多忙」で取材に応じてもらえなかったが、ホテル職員の話では宿泊客の大半が中国人とのことだ。「昔は日本人が一番多かった。日本人はマナーが良かったが、大陸(中国)客は…」とうらめしげに言葉を濁した。

 同ホテルで10日に開幕した「台湾・江蘇(省)ウイーク」には、中国江蘇省党委書記の梁保華が、省内13市の党書記・市長ら約3000人の経済貿易団や観光団を率いて参加。梁は今回の初訪台で「江蘇省は30億米ドル以上の台湾産品を買い付ける」とぶちあげた。

 台北市南東部の「台北101」ビル。101階建て、ビルの尖塔(せんとう)まで508メートルの世界最高ビルは、故宮とともに中国人観光客の人気スポットだ。

 その中でも88階の宝石売り場が大人気で、「一度に800万台湾元(約2200万円)の買い物をした」(ビル管理会社)中国人がいたそうだ。「珊瑚(さんご)など台湾の珠玉や宝石が割安なため」(同)とのことだが、貧富の格差が大きな中国ならではの話だ。

 台湾南部でも中国の存在感が高まっている。台南市観光当局によると、今年は中国人客が昨年まで最多の日本人客を上回り、外国人の約6割を占めている。

 市内のエバーグリーン・プラザホテルはビジネス客中心だが、南部のハイテクパークや企業を視察する中国人客が半分を占める。「昨年までは中国人客はゼロだった」(同ホテル職員)というから大きな変化だ。 政府統計によると、中台の週末直行便が就航した昨年7月から今年9月までの中国人旅行客は延べ87万人(うち観光客49万人)で、328億元(約10億ドル)の外貨収入をもたらした。

 台湾は今年上半期の域内総生産(GDP)がマイナス8・8%の不況にあえいでいる。それだけに中国人観光客の急増と大型買い付け団の相次ぐ到来に寄せる台湾政府、経済界の期待はいや応なしに膨らむ。

 しかし台湾経済が過度に中国に依存することへの警戒論も野党・民進党など、独立派勢力を中心に強まっている。地元紙報道によると中国が敵視するダライ・ラマ14世を8月に招いた高雄市では、9月に中国人観光客数千室分の予約キャンセルがあった。

 中国人旅行客は来年には日本を抜いて最大になる見通しだ。中国の存在が大きくなるにつれ、台湾の内外政策が中国に振り回される度合いが高まりかねない。

 春から中国の大型買い付け団が続々到来して大型商談をまとめたが、今年1~10月の対中輸出は前年同期比25%も減っている。

 「中国の本音は台湾産品の買い付けを宣伝文句に、実は台湾の先進技術導入を狙った投資誘致にある」(ある独立派系経済学者)との見方も多い。台湾にとって、したたかな中国との交流拡大は一筋縄ではいきそうにない。=敬称略(台北 山本勲)

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 昨年末の三通(中国と台湾の直接の通商、通航、通信)解禁を機に中台の経済交流や人的往来が急拡大している。中台統一という政治目的を秘めた中国と、中国の資金や市場を新たな成長のバネにしようとする台湾。お互いの思惑は異なるが、堰(せき)を切ったように拡大するこの流れは当面、とどまるところを知らないようにみえる。新時代を迎えた中台経済関係の現状と今後を展望する。
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