2009-11-20

日本経済発展には大学の役割が重要 学生に夢を与え生きた教育を!

:::引用:::
 20世紀には開発不可能といわれていた青色発光ダイオード(LED)を開発・商品化し、世界中を驚嘆させた中村修二氏。同時に日本社会に、“発明は誰のものか”“知的財産とは”といった大きな波紋を広げ、日本の技術者の地位と誇りを高めるとともに、研究開発を目指す若者へ大きな夢を与えてくれた。その中村修二氏の青色発光ダイオードの開発ストーリーが聞ける特別講演(文部科学省産学官連携戦略展開事業)が10月29日、創価大学で開催された。講演の前には、同大学学長・山本英夫氏とも対談し、アメリカと日本の大学の違いや工学部の在り方などについて活発に意見を交換した。

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 ≪対談≫

 創価大学学長 山本英夫氏

 カリフォルニア大学サンタバーバラ校教授 中村修二氏

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 ■ベンチャー企業興してほしい 中村氏

 ■若者の心に火を付ける教育を 山本氏

 --中村先生はアメリカの大学で教授をしていますが、アメリカと日本の大学の違いなど教えてください。

 中村 工学部の場合、アメリカでは企業との共同研究が非常に多いことですね。基本的に工学系大学の教授の約50%は自分の会社を持ち、さらに企業のコンサルティングをしている教授はほぼ100%です。企業と大学との結びつきが非常に大きいと感じます。それは、「教授たるものは大いに外の企業と仕事をし、生きた知識を大学の学生に教えなさい」という学長の思いがあるからです。昔の日本の大学教授はアカデミックな研究で、企業とのバリアーがありました。それでは学生に対して“死んだ教育”しかできません。生きた教育、生きた知識は、外の世界、企業との共同研究などを通して得るものです。生きた教育ができるのがアメリカの大学だと思います。最近は日本の大学も企業との連携を図っていますが、まだアメリカほどではないですよね。

 山本 産学連携に関して言えば、教授と企業との癒着が社会的に問題視された時代があり、それで文科省が悩み、産学連携に対して厳しくしていました。しかし20年くらい前から変わりました。私の専門は化学工学ですが、現場のことを知らないと学問は分からないと感じます。前任校では2年生、3年生の春には工場実習という形で3週間研修を行いますが、学生にとって大いに役立っているようです。企業の現場に行って経験し学ぶことは刺激になります。ただ教室で学ぶだけでは、自分の学問が世の中でどう役に立っているのか展望が開けません。そういう意味でも社会との接点を持つことは非常に重要です。私が1991年工学部の新設でこの大学に来たとき、工学部は外に発信して、研究費を自分たちで取ってくるのだということを見せようと思いました。ですから産学連携や、実績を問うことなどを心がけた結果、知的財産の戦略本部や連携ポリシーを作り、リエゾンオフィスを使いながら大学発のベンチャー企業も立ち上がっています。

 中村 以前、日本の有名な大学の学生たちが私にコンタクトしてきたことがありました。ベンチャー企業を立ち上げようとした学生たちを「大学とはアカデミックな場所であり、起業するとはとんでもない。出ていけ」と教授が怒ったそうです。それで学生同士がグループを作って、私にベンチャー企業に関しての講演をしてくれと言ってきたわけです。「国はベンチャーをやれといっているのにどうして?」と聞くと「それは表向きです。裏では教授が反対しているのが現状です」と。古い体質ですね。言っていることと、やっていることが違う。学生も困ってしまうでしょう。

 ≪大学の応援は当然≫

 山本 本学では工学部ができて5年目に、TAMA-TLO(大学の研究成果を活用して新事業・新製品を創出し、広域多摩地区の大学と産業を活性化することを目的に誕生した会社)ができましたので、早速出資し、それと同時に学生が特許を取る場合には大学が保証するところまで持っていきました。自分が研究したものが社会にどのように導入されていくのか学生が興味を持ったら、大学は応援していくのが当然だろうと私は思っています。

 中村 MIT(マサチューセッツ工科大学)の教授は、2~3社の会社やコンサルティング会社を持ち、かなり稼いでいます。もちろん公には会社のことは言いませんよ。でもそういう人が多くの学生を抱えて教えているわけです。学生も世界中からやってきます。そういう教授の姿を見て、学生たちも将来そうなろうと夢を持つわけです。日本もそうなろうとしているのでしょうけれど、MITに比べたらないに等しいです。

 山本 アメリカでは研究費は大学からは出ませんからね。

 中村 ええ、全部自分で集めます。

 山本 そこが違いますね。日本の大学の先生方は文科省から研究費をもらったりしていますから。私は若い教員たちには3年くらいは投資して、自由に研究し成果を上げたら、その後は自分の力で金を取ってくるという工学部のポリシーを作りました。

 中村 日本では産学連携と言っていますが、アメリカでは基本的に自分で会社を興すわけです。それが研究のインセンティブですよ。アメリカでは工学部は一番人気があります。それはベンチャーを興し、成功すれば巨額なお金が入るという夢がありますから。だからMITとか、スタンフォードなど工学部の人気が高いのです。日本では一番低い学生が行くところが工学部といった感じでしょ。工学部に行ったら永遠のサラリーマンですよ。夢も希望もない。一方アメリカの工学部は、アメリカンドリームですよ。全然違うイメージでしょ。

 山本 日本とアメリカでは学生の意欲が違いますね。

 中村 ええ、全然違います。アメリカでは大変優秀な学生が工学部に来ますから。ですから夢を学生に持たせるためにも日本の大学の先生がベンチャーを興して金持ちになることですね。

 --日本の場合、積極的にやろうという芽はあるのになかなか発展していかない。

 中村 アメリカでベンチャーが成功しやすいのは、一つに言葉の問題もあります。最初から全世界対応ですから。日本はとりあえず日本で成功してから、世界へという考えですからね。最初から違います。アメリカは優秀な人材を世界中から雇いますが、日本では日本人だけでしょう。

 山本 創価大学では、開学以来インターナショナルな人材育成に力を入れ、これまで44カ国・地域、107大学と交流しています。日本だけで通用する人材ではいけない。世界に出ていくための武器の一つは、語学力です。日本の外に出た段階で役に立つ語学力、センスを養うために「グローバル・シティズンシップ・プログラム」を来年から開設し世界市民として必要とされる資質を養成します。もう一つ、海外で色々な場面に遭遇したときに必要なのは分析能力。そこで数理能力も徹底的に教えます。

 --今回中教審の答申で、学士力という定義と人材養成を初めて打ち出しました。その点では日本もちょっと変わったのかなと思いますが、アメリカではそういう点で何か感じられることはありますか?

 ≪自由奔放な米と中≫

 中村 全然ないですね。アメリカは国が大きくて、コントロールしようとしてもできないから、皆個人主義で、法律があっても、何か決めても皆無視です。中国もそうですね。個人主義であり、自由奔放ですよ。その点日本は規制でがんじがらめ。法律は守らないとダメだと思っている。アメリカは悪いことをしたら裁判で刑務所行きになりますが、自分が正しいと思ったら裁判で勝てますから。非常に自由で、研究でも、ベンチャーでも好き放題にやるのがアメリカのイメージですね。

 山本 日本は法律で管理され、行政で管理され、もうひとつ社会的システムに管理されていると感じますね。ですから変えることが難しい社会だと感じます。

 中村 アメリカは逆に時代とともに変わっていきます。教授レベルでどんどん変えていきます。ある意味問題もあるのですが、次々と変化していきますね。日本ではベンチャーを興そうと思っても国からの規制が色々あり、大変ですね。

 山本 いろいろな届け出を出さないといけないので、大変ですよ。

 中村 お上が出てくるのが日本。アメリカではそういったことは一切ありません。世界には色んな人間がいる。それが安定なのですが、日本は同じような人間を作ろうとするから大変です。

 山本 学生によく話す一つに、アーサー・ウィリアムズ・ワースというアメリカの学者の言葉があります。「教師には4種類ある。一番目はただ教えるだけ。ちょっとましな教師は理解させようと努力する。もう少しましな教師は自分でやってみる。最終的に優秀な教師は若者の心に火をつける」と。ある意味、ただ学生に教えるだけでなく、学生を走らせないとだめですね。自立した創造的な人材が必要です。

 --最近は学生が内向きになっているというか、留学もしたがらない、火がつかない学生が多いように思いますが…。

 中村 まさにそうです。カリフォルニア大学でも中国、台湾、韓国、インドはたくさん来ていますが、日本人の学生は減少しています。約20年前は日本人留学生も多かったそうですよ。今は日本企業も大変です。大企業はつぶれる運命なのに、日本は分離・解体せず、そのまま大企業を保護している。それにベンチャーは育たないし、外から見ても大変なことになっていると感じます。将来もっと大変になるでしょうね。

 --日本の学生の学力や学習意欲の低下は、精神的な面が大きいからでしょうか?

 山本 大学は学生が主役です。学生は興味を持ったら走りますよ。火をつけたら元気になります。われわれも学生に対して刺激を与えることはどんどんしていこうと考えています。日本の企業のトップの人たちの経験や、会社の建設にあたって努力したことなどを講演してもらう共通科目「トップが語る現代経営」という授業では、現実社会を意識することができ、感じることが多いのでしょう。学生は意欲的になります。やはり学生のために充実した教育環境と教育システムを大学は提供することです。

 中村 台湾などはアメリカ式でベンチャーをどんどん作っています。逆に大企業システムでは成功していない。大企業が横行しているのは日本だけ。今後ベンチャーで日本が経済発展するためには大学の役割は非常に重要で大きいものだと思います。

 山本 そのためには学生に現場を知らせることだと思いますね。最近、本学の工学部では桑の新種開発や、光神経を使った新事業の展開など、研究成果を基に大学発のベンチャー企業を設立し、記者発表も開催しました。今後も産業活性化に貢献できるよう努力していきたいと思います。これからの取り組みにご期待下さい。
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