2009-11-30

【特集】中国人の個人旅行…受け入れ本格化の「光」と「影」

:::引用:::
  日本政府は今年7 月、北京・上海・広州の3地域に限定して、中国人向けの個人観光ビザ発給を開始した。日本政府観光局(JNTO)によると、ビザ申請受付開始後3ヶ月間で、発給数は4,435件に達したという。これを地域別にみると上海領事館の発給分が最も多く、半数を超えた2,390件になる。

  現在、中国人の訪日観光旅行は、団体ビザを利用して、添乗員付きで、東京・富士山・関西、いわゆるゴールデンルートと呼ばれる定番コースを回るのが大半となっている。そのコースを利用する人の多くは日本を初めて訪れる観光客であるが、中国の旅行会社では訪日リピーターが今後増加するとみている。それに伴い、旅行スタイルも団体旅行から個人旅行へ変化していくと見られている。

  「日本はリピーターを生み出しやすいデスティネーションです。」と上海で訪ねた旅行会社の訪日旅行責任者は言った。「日本は先端技術・伝統文化・自然がバランスよく調和している社会です。それとあわせて、治安がよく食事が安心であるうえ、観光資源が多い。一度でも訪れてその魅力を知れば、もう一度行きたくなるのが日本なのです。」ということだ。

  しかし、こうした好意的な声がある一方で、リピーターを増やし、訪日旅行を促進する上ではまだ課題が多い。

  ひとつは、個人観光ビザ申請手続きの煩雑さだ。資産を証明できる資料として、収入証明書以外に不動産権利書や有価証券などの提出が求められる。説得材料として書類を多く持っていけばいくほど、ビザが下りる可能性が高くなるというのが現状である。

  次は旅程の不自由さだ。個人観光ビザで訪日しようとする観光客には、日本に親戚か友人がいることが多い。そのため、日本滞在中はできるだけ自由に行動したいと考える人が多い。しかし、現在のビザ制度では、滞在ホテルや旅程は指定旅行会社が手配したものに従わなければならない。「個人旅行が解禁されたといっても、期待していたほどには団体ビザの時代と変わらない」という不満の声も生じる。

  他方、旅行会社からも、従来の団体旅行手配と比べて、個人旅行の手配は作業量がはるかに多く、面倒だという不満が聞かれる。さらに、個人観光ビザの発給量が増加すれば、日本政府の現在のビザ発給作業人員数のままでは対応できなくなるとも予想されている。そのため、中国の在外公館職員を12人増やすほか、一部の業務を民間委託することによって、ビザ発給態勢を整えようとしている。

  とはいえ、ビザ発給に伴う手続きの仕組みや体制が整ったとしても、受け入れ側の整備がついていかなければ、観光立国として日本政府が目指している目標を達成するのは難しい。2020年までに訪日外客2,000万人(そのうち中国人が600万人)、外国人旅行者による経済効果は4.3兆円を期待しているという。しかし、個人の中国人旅行者が日本で自由に行動しようとしてもできない現状のままでは、観光の現場での受け入れ体制の不備が大きな阻害要因となってくるとみられる。例えば、レンタカーで観光したかったが、中国語のカーナビが導入されていなかったため希望していたところに行けなかったり、ショッピングをしようと訪れた店舗に中国語の案内がなく、中国語の話せる販売スタッフもいなかったために買物を満喫できなかったなどの場面がまだよくある。旅行中に体験する言語の壁やインフラの未整備によって、日本でやってみたかったことをやり残したまま帰国してしまうケースは少なくない。日本への旅行に対する事前の期待が大きければ大きいほど、思うように楽しめなかった落胆も比例して大きくなるものだ。インバウンド観光を推し進める関連事業者が協力し、中国からの個人観光客が不自由を感じることなく行動できる環境を整備することが、日本をよく知ること、日本での楽しい体験を通じて訪日の満足度を高めることに通じ、ひいては訪日リピーターの増加につながる最も重要な要素ではないだろうか。

  最後に、観光情報発信という側面からみると、政府レベルによるプロモーションの実施は大きな効果が期待できることは言うまでもないが、民間企業の努力や訪日経験者個々人が体験や思いを伝えていくことも重要だ。多くの中国人に日本の楽しさ、日本のよさを知ってもらえるように、私自身が感じた日本の魅力を、自分なりに発信していきたい。(執筆者:ハオ 佳佳 ツーリズム・マーケティング研究所)

ハオ佳佳
中国大連外国語大学韓国語学部卒業後、2004年5月に日本へ留学。
立教大学大学院ビジネスデザイン研究科(MBA)を経て、経営学修士課程修了。2008年より現職。
中国人訪日旅行に関する調査に携わり、多数の現地インタビューを手がける。
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