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去る11月12日、“The low-carbon road map”と題された報告書が、「環境と開発の国際協力に関する中国委員会(CCICED)」に提出された。
CCICEDとは中国の環境政策に関する勧告を行うことを目的として、各国の科学者らの参加を得て1992年に創設された国際委員会であり、現在は中国の李克強副首相が会長を務めている。
冒頭の報告書は、中国政府が「第12次五ヵ年計画(2011年~2015年)」に盛り込むことを前提に、過去2年に渡って検討が繰り返されてきたものだ。形式上は、CCICEDからの中国政府に対する“プロポーザル”だが、中国側の提示するシナリオをベースにしたものであり、また同国の科学・産業政策関係のキーパーソンも多数参加し低炭素を契機としたエネルギー政策について詳細な分析が加えられていることから、文字通り中国側の“意思”が入ったものと見てとるべきだろう。
この11月中旬という時期は、ちょうどオバマ米大統領の訪中と重なるが、たとえ北京政府側に内心少しはワシントンに対する示威行為の側面があったとしても、それだけで片づけるのは間違いだ。詳しくは後述するが、そこで示されたシナリオを読めば、12月にコペンハーゲンで開催される気候変動に関する枠組み条約会議(COP15)に向けた内外の議論・合意形成に資するための文書となっていることは明白だ。
端的に言えば、“The low carbon road map”は、中国社会が化石燃料への依存を減らす方向性をはっきりと打ち出しているのである。これは国際社会からの「圧力」軽減を目指したものというよりは、むしろ中国自身の国益を見据えた「自発的な戦略」であると解釈すべきだ。実際、シナリオは、今後の経済発展に備えた現実的で地に足がついたものになっている。
では、中国の新華社や英国のフィナンシャルタイムズの報道をベースに、この“The low carbon road map”を検証してみよう。
まず、シナリオは三つある。いずれも2050年を最終目標年とし、ひとつは現状のシナリオ(Business as Usual = BAU)で、2050年時点でのCO2排出量は130億トン、そして第二の“low-carbon scenario(低炭素シナリオ)では90億トン、第三の“enhanced low-carbon scenario)では50億トンとなる(しかも2025年にはピークアウト)。どのシナリオでも、中国は経済成長を続けるが、化石燃料の使用を抑制して、クリーンエネルギーと再生可能エネルギーを大幅に導入することで後者の二つの“low-carbon”シナリオは実現可能としている。 経済成長とCO2排出の「デカップリング」とも呼べるこの考え方の基本にあるのは、国内総生産(GDP)1単位当たりの炭素排出量だ。
たとえば、報告書では、クリーンエネルギーと省エネの推進により、第12次五カ年計画の期間中に、GDP1単位当たりの炭素排出量を20~23%削減できる――また2050年までには、産業構造の変化と省エネの推進、新たなエコ都市計画による街づくりなどを通じてGDP1単位当たりのエネルギー消費量を75%~85%削減できる――としている。
ちなみに、この間、中国の産業構造のサービスシフトが進み(経済に占めるサービス産業の割合は現在の3%から40%に拡大)、また2030年までに原子力や再生可能エネルギーというクリーンエネルギーによって、発電容量の半分が、2050年までに全量が占められるようになるという。
全エネルギー消費量に占める再生可能エネルギー消費量の割合については、中国はすでに第11次五カ年計画において、2010年までに10%にするという目標を立てている。では、それは、果たして守られそうなのか。CCICEDの李俊峰副所長は、「2009年中国クリーンエネルギー国際サミット(11月2日~11月3日)」の場で、困難ではあるものの、達成可能であるとの見通しを示している。10%の内訳は、主に水力発電、風力発電、太陽エネルギーだ。
中国と言えば、巷では、経済成長を優先する地球温暖化対策の抵抗勢力と決めつけられがちだが、真相はこのようにやや異なるのである。
イメージの違いといえば、この報告書のまとめられ方自体がそうだろう。中国は近年ますます世界の英知を各種戦略策定に生かすようになってきているが、国際委員会であるCCICEDからのプロポーザルを重要な五カ年計画に反映させることはまさにその好例だ。ちなみに、今回のロードマップ策定にはスターンレビュー(気候変動が経済にもたらす影響に関する報告書)で知られるニコラス・スターン卿(元世界銀行上級副総裁)も参加している。
周知の通り、12月のCOP15は、排出枠の取り決めを巡って、途上国にも削減目標枠を設けようと主張する先進国とそれに反対する中国・インドなどとの対立で、拘束力ない政治合意で終わる可能性が高まっている。しかし、だからといって、中国=永遠の環境後進国といった認識では、日本は何十年か後、中国の変身ぶりに驚かされるどころか、環境ビジネスで先を行かれることにもなりかねない。
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