2009-09-09

アナログ技術に再び脚光

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家電製品、電気自動車…省エネのカギに家電業界において携帯電話や薄型テレビなどの「デジタル」製品が主戦場となっているにもかかわらず、アナログ技術者を育成する取り組みが関連企業で高まっている。

 デジタル製品を構成するDRAMやシステムLSI(大規模集積回路)をはじめとするデジタル部品が高性能化しても、映像や音声の情報は最終的にアナログ信号として私たちの目や耳に届く。携帯電話の受信感度やテレビの映像・音声の品質は、アナログ処理に左右される。その中で、家電製品においては、小型化・省電力化を目指して、デジタル回路とアナログ回路の設計一体化が急速に進む。このためアナログ技術の重要性が見直され始めているのである。

ルネサスは教育部門を設立
 半導体大手のルネサステクノロジは昨年10月、社内に「アナログ製品設計エキスパートグループ(通称ANX)」を設立。30代後半~50代前半の世代の管理職やLSI技術者へのアナログ技術の再教育を強化している。既に23人がANXに異動した。社員は、アナログ信号処理の権威である大阪大学工学部の谷口研二教授の下で信号処理技術などの理論を学ぶ。1年間の現場実習を経て、来年春にもまず8人がアナログ設計の現場に配属される。

 研修の一番の狙いは、やはり設計一体化への対応にある。例えば携帯電話では、電波の処理などを担うアナログ回路とアプリケーションソフトの処理などを担うデジタル回路の一体化が進む。ルネサスで再教育のプロジェクトを進める有本和民部長は「アナログ・デジタル回路が混載するチップを開発するには、両方の信号処理に対する知識が求められる」と話す。  ところがルネサスでは約5000人いる設計技術者のうちアナログ技術者は200人程度にとどまり、慢性的に人手不足の状態が続いているという。このためANXによる再教育で、アナログ設計の技術者を5年後に100人増やす方針だ。

 アナログ技術の省電力化技術は、デジタル家電だけでなく、今後の成長が期待される医療機器や電気自動車などの先端分野でも応用が利く。例えば超音波診断装置の映像処理や電気自動車向けの高効率モーターなどにも高性能なアナログ半導体が必要とされる。そのために谷口教授に依頼し、包括的な研修を組んでいるという。

 川崎市と友好都市の中国・瀋陽市から環境技術研修生として来日している男性技師2人が2日、川崎市を訪問し、阿部孝夫市長に意気込みを語った。10月1日までの1カ月間、川崎市や市内企業の先進的な取り組みを学ぶ予定。

 研修生は、瀋陽市環境監視センターで水質の環境監視測定を行っている任(レン)万輝(ワンホイ)さん、大気環境の監視・予測測定を行っている徐(シュ)景陽(ジンヤン)さんの2人。ともに32歳。

 任さんは「中国で環境モデル都市を目指している瀋陽市に先進的な取り組みを持ち帰り、発展に寄与したい」と話し、徐さんは「技術を学ぶだけではなく、両市の懸け橋として頑張りたい」と話した。

 研修生の受け入れは、両市が「環境技術交流協力に関する議定書」を交わした1997年から始められた。今回で12回目。2人は、行政研修として市の環境局、水処理センター、市営バス営業所などで地球温暖化対策、水質改善、大気環境改善の取り組みなどについて講義を受け、関連施設を視察する。企業研修では、味の素や富士通、JFEのほか、ブレーメン通り商店街などにも足を運ぶ。

 阿部市長は「川崎は、深刻だった公害を行政、市民、行政が連携して改善し、その過程で環境技術が発展した。研修で学んだノウハウを瀋陽市、ひいては中国の環境改善に生かしてほしい」と話した。 

 こうした流れを受けて、アナログ技術者を教育する大学発ベンチャーも誕生している。

法政大学発のベンチャー企業も
 アナログとデジタル信号の変換処理を専門とする法政大学理工学部の安田彰教授は昨年8月、アナログ技術者を育成する教育事業ビジネスを始めた。

 5年以上のアナログ回路設計の実務経験を持つ技術者を対象に、約半年かけてアナログ技術の最先端を教える。安田教授が教壇に立つとともに、半導体業界が共同出資で設立した半導体理工学研究センター(STARC、横浜市)などから専門の講師も招く。

 安田教授は「アナログとデジタル技術を両方知れば、技術者として活躍の場が広がる。しかし業界にはアナログ技術者が少ない。そこで自ら乗り出した」と語る。1期生は電機各社から15人が集まり、研修を終えた。


講師は大学教授らが務めている(法政大学で)
 安田教授によると、国際学会においてもアナログ技術の研究成果を発表する日本人は減る一方で、韓国や台湾、中国などアジア勢の発表者が増えているという。その背景には、国内の電機各社が「最先端=デジタル」とも言える姿勢でデジタル技術に傾倒したことがある。アナログ技術を専門とする大学や研究機関も減っている。

 台湾や韓国メーカーなどアジア勢の台頭により、部品を組み立てれば完成するデジタル製品は価格以外の差別化が難しくなりつつある。デジタルに比べて「人材」によるところが大きいアナログ技術は、習得の度合いで差がつく。日本のモノ作りの復権のためにも、アナログ技術者育成という地道な努力は大切な動きになりそうだ。



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