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昨年来の不況で、氷河期再来かといわれた2010年卒業予定者の就活。社会の荒波に放り込まれた就活生が振り返る、「当たって砕けた」就活戦線の奮闘記--。(AERA編集部 大波綾、鈴木琢磨、四本倫子)
ホテル業界が志望だった早稲田大学のM君は、昨年9月から就活を意識した。手始めに50社ほどのホテルの人事担当者や従業員に話を聞きに回ったが、今年3月末、老舗ホテルに勤める大学のOB(60代)を訪ねたときには深く傷ついてしまった。
「キミは、僕の時間を何だと思ってるんだ! 僕の1時間は1000ドルに値するんだよ!!」
留学もしたい、と将来のビジョンがあいまいな質問をしたら、怒鳴られた。そんな言葉を浴びせるなんて、ひ、ひ、ひどい。15分もたたないうちにすごすごと退散するしかなかった。
M君はそれでもめげずに300人のOBに会い、最終的には独立行政法人から内定が出た。
「人事の人に自己PRを添削してもらうこともあって、だんだんと要領がつかめてきました。やはり、就活は汗と恥をかかないとダメですね」
●セミナーから「狭き門」
汗と恥。学生にとって、就活を始めるまではなかなか縁のないことなのかもしれない。ましてや、2010年に大学を卒業する予定の就活生は昨年来の世界同時不況の影響におびえ、気ばかりが焦っていたからだ。
しかも、最近の就活では汗や恥をかく以前にも、すでに立ちはだかる「壁」があった。セミナーという名の会社説明会だ。
「リクナビ」や「マイナビ」といった就職情報サイトが立ち上がるのが大学3年時の6月で、学生は10月ぐらいになると興味のある企業にこれらのサイトから応募する。これが「エントリー」。そして、12月ごろからは各企業のセミナーが始まるのだが、まず、就職情報サイトからセミナーの案内メールを読むのに手一杯になってしまう。
「金融志望なのに、お仏壇のはせがわからメールが届いたり……。一日に50通くらいたまるときがあって、しかも1通1通の長さがハンパじゃないんです。結局は読まなくなりました」と言うのは、中堅の金融機関に内定している早大のH君だ。
とはいえ、情報に乗り遅れると痛い目に遭う。ウェブから申し込む人気企業のセミナーは、応募が殺到して「チケットぴあ」状態になるからだ。「メガバンクや大手商社はみんな一斉に応募するので、アクセスすらできない。三菱東京UFJ銀行なんてあっという間でした。開始して3分後にようやくつながったのに、もう締め切りで……」(H君)
セミナー参加が次に進む暗黙の条件になっている企業もあるため、お目当ての企業がセミナーの申し込みを開始する日には、授業そっちのけでパソコンの前に張り付かないといけない。
●お土産に化粧品4万円
かくして、就活生は大学3年の秋ごろから「就活漬け」になっていく。
そのセミナーで、はやっている質問があるらしい。
「御社の強みと弱みはナンですか?」
テレビ局に内定した東京大学のKさんによれば、「セミナーの常連で張り切っている学生は、いつも最前列で質疑応答のときに『強みと弱み』について質問するんです。人事の人も顔には出しませんが、『またか』と思っているはずです」学生も名前と顔を覚えてもらいたいと必死なのだろう。
ところが、行き過ぎて企業にけんかを売るような質問をするつわものもいるらしい。
「毎日新聞社のセミナーで『いまの新聞の広告は死んでいると思うんですけれど、どう思いますか?』って質問している学生がいました。人事の人は、冷ややかな顔で『ぼくは死んでいないと思います』と答えていて、その後、一気に雰囲気が悪くなりました」(業界紙に内定している早大のI君)
セミナーでは、人事担当者が話し始めると就活生が一斉にノートを取り出し、「赤ベコのように」(学習院大学のRさん)うなずき出すというから、みんな真剣そのものだ。とはいえ、「サントリーのセミナーでは、お酒とお茶を1本ずつもらえてラッキー!」(同)、「資生堂ではTSUBAKIのシャンプーとリンスがもらえた」(前出・早大H君)、「ロレアルのセミナーのお土産は4万円相当の化粧品だった」(早大のSさん)、「東京海上日動はお金をかけている。ノートやボールペン、定規などのグッズセットは就活中に役立った」(前出・東大Kさん)と、太っ腹の企業もある模様。企業も就活生の心をつかむのに懸命にアピールしている。
●志望動機に他社の名前
こうしたセミナーと並行して、12月ごろからは各企業の「エントリーシート(ES)」の提出が始まる。名前、住所などの個人情報や履歴書に書くような経歴、自己PRや志望動機などを記入する書類のことだが、「一番しんどかったのが、ESが立て込む時期。2月中旬から下旬にかけては毎日3社ぐらいの締め切りがあっておかしくなりそうだった。ESと一緒にウェブで適性検査を受けなければならない企業もあって、そうなるとほとんどアンケートに答えている状態」(前出・早大H君)
提出しなければ門はたたけない。大学3年の冬はESとの格闘が続くが、ESは就活生にとって最初のつまずきでもある。「一生懸命書いたのに面接の連絡が来ないことが続くと、ESに費やした時間が何だったのかと思う。最初から受け入れてもらえないとショックが大きすぎる」(早大のUさん)
だが、企業にも悩みがある。「学生が流れ作業でESを書いているためか、志望動機のところで弊社のライバル会社の企業名や商品名を書き込んでくる学生もいる。困ったものです」と大手電機メーカーの人事担当者は嘆いていた。こうなると時間を費やしたESも台無しだ。
とはいえ、ここまではあくまでもスタートライン。就活のクライマックスは面接だ。
「キミさ、本当に銀行に入る気、あるの? 向いてないと思うんだけど」
「そういう仕事って、うちじゃなくて商社のほうができるんじゃない?」
「別にメーカーでもいいんじゃないの?」
前出の東大Kさんは、メガバンクの面接で毎回、厳しい質問を受けた。いわゆる「圧迫面接」。選考に関係ない座談会だというので参加したら、いきなり1対1の面接になっていたり、毎日のように呼び出されて同じような質問をされたり、納得のいかないことばかり。結局、9回呼び出されて、「うちの内定受けるなら、ほかの会社は受けさせないよ」と言われた。こうした“脅し文句”は法的には効力を持たないのだが、それを知らない学生はびくびくしてしまう。
「そんなに何回も呼び出す必要があるんでしょうか。企業も時間稼ぎをしているとしか思えないんですけど」と口をとがらせる。
第一志望ではない企業を受けるときの苦しみもある。
●連絡待ち、風呂にも携帯
大手生保から内定が出た慶應義塾大学のY君は、もともと広告会社を志望していたが、ある大手電機メーカーの2次面接でくじけてしまった。
「うちの売上高はいくら?」40代後半の人事担当者に聞かれた。事前にIRリポートを読んでいたので、「たぶん○○兆円です」と答えると、「それ、去年のだよ」とむっとした顔で言われて、あえなくKO。しかも、「大体、キミの志望動機は、か細い糸でしかうちの会社とつながっていないね」と厳しく否定されたあげく、「キミ、体育会の○○部らしいけど、たいして強くないよね」とまで言われて冷静さを失い、思わず「本当は広告会社を志望」と本音が出てしまった。しばらくトラウマになったという。
テレビ局から内定が出た前出の早大Sさんは、27社受けて面接には20社進んだが、最終面接で6社に落とされた。「4月1日からドドドっと面接が始まって、1週間ぐらいで決まってしまう。連絡がいつ来るかわからないから、お風呂にも携帯を持ち込んでいました。企業には他社の面接と重なっているとは言えないし、スケジュール調整だけで悩んでしまって」
今年は不況を受け、企業も新卒の採用数が定まらず、内定の先延ばしや最終面接で落とすことが多かったようだ。
「某アパレル専門商社のグループディスカッションで、人事の方が私ばかりに話しかけてきて、『キミはうちにぴったり』とか『キミの大学の先輩もたくさんいる』とか言っていたのに、通過連絡が来なかった」(東京外国語大学のAさん)など、評価のポイントは企業の腹積もりでいくらでも変わるうえに、「『採用の可否を伝えるのは1週間後』と言っていたのに、そこから3日延ばされ、さらに1カ月後に連絡すると言われた」(法政大学のOさん)と、やきもきさせられる。内定が決まるまでの理不尽さは、勉強すれば一定の結果が出る受験と違うところだろう。
あまりにも苦戦が続くと心が折れ、就活戦線から離脱する人もいるようだ。
●内定が出ずキャバ嬢に
「なかなか内定が出ないうちに就活からドロップアウトして、キャバクラに勤めだした友達がいるんです。その子に聞いたら、似たようなことでキャバ嬢になった子が結構いるらしい」(大手損保に内定した早大のNさん)
内定が出る、出ないは、就活生にとってまさに人生を左右する問題なのだ。
こうして戦いを終えた内定者から口々にとび出すのは、就活が「何かヘン」だということ。
「ある時期になるといきなりみんな同じようなリクルートスーツを着て、大学4年の5月ぐらいになると内定が決まっちゃう。卒業は3月なのに……」(前出・早大Sさん)
「企業は大学生に授業があることを知っているのでしょうか。有無を言わさず面接の時間を決められ、その時間に行けなければアウト。大学4年生になっても必修科目がある人はいるのに、授業に出られないなんておかしい」(前出・学習院大Rさん)
涙あり、怒りありでも、内定を勝ち取れた人はまだいい。いまも内定ゼロの就活生が、猛暑の街で途方に暮れている。
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2009-08-20
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